冬支度
翌日、結局みんな帰る事にしたらしい。もともと山火事の被害にあった場所への援助活動が目的であり、早朝にクレメントの部下が撤退する旨を伝えに来た以上長居は出来ない。
これからソリと獣舎の件もあるし、またすぐ会えるだろう。私は前回ほど取り乱すことなくみんなを送り出すことが出来た。
それから私は午前中のルーティーンとそれに追加された獣舎の手入れを済ませ、昼食をとってからアトリエへ向かった。
「おお!」
糸をつむぐものと布を織る為の機械がドドンと置かれているが、流石子爵家のメイド達。部屋の居心地は悪くない。新しく備え付けられた棚にはたくさんの糸が入っていて、プレートに素材が書かれていて分かりやすい。綿や麻、ウールといった見慣れたものもあれば、トレント(若木)、ワイバーン、フロストドラゴン、ムーペ、コラクなどの見慣れないものも多々あった。前世の知識で補えない魔物の名前を見るとどうしても気になって調べるクセがついてきた私はすぐにムーペとコラクについて調べる。
ムーペは羊に近く、コラクは動物と見間違う大きさの虫。毛虫だ。小型犬と同じくらいの大きさの毛虫とかゾッとするが、蚕のように養殖する職業があるというのだから考えを改めないといけない。労働に感謝。素材のプレートは備え付けの引き出しにたくさんあり、覗いてみた限りここにはないだけで魔物素材の糸は結構多いようだ。
一通り散策を終え、糸の採取方法も本で読んだらあとはやる事は1つ。私はそれ用に用意された棒を一本持って鶏小屋改め、アラネペレ小屋へ向かった。
「こんにちは~。ちょっと失礼しますね。」
小屋は数日見ないうちに物騒な雰囲気が出来上がっていた。小屋の上半分はもはやどうなっているのかよく分からないくらい糸が張られていてちょっとした曇り空のようだ。そして地面、奥の一角にはおそらくネズミの骨が転がっている。よくもまあこんなに捕食出来たものだ。綺麗好きなのか、トイレもざっくり場所を決めているようで、フンも一カ所にまとまっていた。そして避難口よろしく壁に空いた小さな穴の周辺に見えずらいが糸が張られている事から、日常の狩りの様子がうかがえる。
上から私の様子をじっと見てくるアラネペレに掃除する旨を伝えてから地面を綺麗にした。流石に何もせずに糸だけもらうのは申し訳ないので、掃除の後はここ数日で出たエビのカラと午前中に畑で捕まえておいたバッタの入った麻袋を床に置く。
「これ、食べていいから糸ちょうだい?」
もちろん返事はない。ただ前回エビのカラの味を知ったアラネペレはいそいそと降りてきて食事を始めたので私は勝手に頭上の糸を遠慮なしに棒に巻き付けていった。麻袋に顔を突っ込んでいるアラネペレに「また来るね。」とだけ声をかけてスッカラカンになった小屋を後にする。
さて、意気揚々とアトリエに戻り再度説明書を読むと、蜘蛛の糸はこれだけじゃ足りないらしい。厳密にはこれと同じものが3~5本必要とのこと。この糸を水でふやかし、ほつれてきたところを一本とって、複数の糸をこより、布をつくる為の糸にするようだ。これは冬までは糸の収集に集中した方がよさそうだな。それまでは普通の糸で布を織る練習をすることにした。
この国は春の1の月から春の4の月。秋の1の月から秋の4の月。そして冬の1の月から冬の4の月で一年を回している。秋の4の月から冬の4の月までが31日、他は30日で計365日。例年通りなら秋の4の月の中ごろから雪が降り始めるので、実質秋の月は冬ごもりの為の準備期間ともいえる。食べ物もそうだが、ものづくりの為の素材集めも計画的に行わなければ。改めて気合をいれ、私はアトリエに置かれている布づくりの為の本を読み漁った。
夜中に何かが落ちる音で目を覚ました。静かな森の中ではちょっとした物音でも大きく聞こえるのだ。始め気のせいかともう一度布団にもぐるが、数分後またボドッという音がした。気にはなったが夜中に出来ることなど何もない。この間の火事みたいな大事ならまたメリアキリサがおこしに来るだろうと自分を納得させて再度眠りについた。
翌日、音の正体を突き止めるべく朝のルーティーンの後に敷地をパトロールしたところ、音の正体はあっさり判明。私の知らない間に敷地の一角の森は秋の実りでいっぱいになっていたのだ。今もボドッと鈍い音を立てて落ちたカリンの実を拾って状態を確認。いけそうである。農具入れから一輪車を急いで持ってきて、落ちている物の中でも綺麗なカリンの実を拾い、高枝切狭でまだ落ちていない分も収穫していく。他にも柿、リンゴ、イチジク、それと多分洋ナシ?も立派に実っていた。時々甘い香りがしていたのは自分の敷地からだったのかと今更知る事となった。




