長は総じて仕事が出来る
プラスティラス家は、罪深い一族だ。
これほど情に厚い人を巻き込み心を砕かせる。
そして私個人も罪深い。
罪悪感より先に、注がれる愛に喜びを感じ、彼女達を手放せないのだから。
「もう、十分私のお母さんじゃない」
心配ばっかりかけてごめんね、と言って笑うとカナリアは余計に泣いてしまった。ようやく泣き止みそうな母親を更に泣かせるとは、全く私は酷い娘である。
カナリアはその後、元々宿泊していた町へチャドを護衛に帰って行った。泣きはらした顔を部下に見せられないと言っていたので、こっそりお見送り。その時に、クレメントが言っていた言葉をたまたま思い出し、お使いを頼んだ。キリッとしたメイド長の返事は相変わらずかっこよかった。深くかぶったフードで真っ赤な目が見えないおかげかも知れないけど。門のところで強く抱きしめられ、またすぐ会いに来ると言ったときに見えた目元はなんだか可愛くて私は好きだったけれどね。
それから一人でフルルフォーンの角の花を観察しているボーリスの元へ向かい、暗くなる前に屋敷の中へ入るよう促す。エルブエルバが見つからなかったとしょんぼりしていたので、明日は一緒に探すと約束した。手元の花について尋ねると、フルルフォーンの花をこれから観察すると言い楽しそうだったのでそこまで落ち込んではいないようだ。
「あれ?イヴ目赤いよ?どうしたの?何かあったの?」
リビングに入るやいなやキャロルに詰め寄られ、とっさにカナリアが先に帰ってしまった事を話すと納得してくれた。
「なんだ~。またすぐ来るでしょ?仕事以外の時間。ずーっとイヴ様イヴ様言ってたし、大丈夫大丈夫。」
キャロルはあっさりと笑って他のメイド達の手伝いに戻った。他のみんなも私が泣いたのはカナリアが帰ってしまったからだという説明に納得しているのをみると、なんだかちょっと腑に落ちない気持ちになった。私、12歳なんだけど!?子供扱いしすぎじゃない?!
あの後、なんと2日でカナリアは戻り、共に連れてきた相手をみて私は大喜びした。執事長、アーロン・ビケットは何故か当主の父よりプラスティラス家を掌握している謎多き執事である。まあ何も後ろ暗い事はない。父が祖母の腹にいたころから知っている重鎮というだけの事だが。
「なんで?アーロンまで来ちゃって大丈夫なの?」
「おやおや、お嬢様、礼儀作法をお忘れかな?」
「えへ。いいの、今だけ」
アーロンに出合い頭に抱き着くとロマンスグレーの紳士は低い声で笑いながら背中をあやすように叩いてくれた。
ほんのり残るパイプの香りと石鹸の香りがする胸元に顔を擦りつけていると後ろからカナリアからの注意が飛んできた。
「何も良い事はありませんよ」
「カナリア、おかえりなさい。」
「はい、只今戻りました。」
私の礼儀作法は全てカナリア仕込みなので、流石に口答えは出来ない。カーテシーで淑女の礼をとりながら挨拶すると困り顔のままほほ笑むという高等技術を見せつけられる。何故だ。
「カナリアが連れて来たってことはアーロン、テレパスのスキル持ってるの?」
「えぇ、レベルの差はありますがそこまで珍しい技でもありませんので。お嬢様と寝食を共にする少年にご挨拶もしたいですしね」
「ご挨拶って…。8歳の子供だから、優しくしてね。」
「もちろん。ですが礼儀は大切です。指導員を退いて数年経ちますが、ご期待に応えますよ。」
なんの?と聞くにはアーロンの笑顔には凄みがありすぎた。「ほどほどにね」というだけにとどめて屋敷へ入ってもらった。




