どんどん増える魔道具類
ちなみにだが、子爵家には外に雪室がある。室内用小型氷室がどれだけ流通しているのかは知らないが、少なくとも子爵家では使用していなかった。
「あまり開けっ放しにしていては中が冷えませんよ。」
カナリアに言われて扉を閉じ、彼女の後に続く。
「キッチンで他に追加したものは主に食器類です。予想外にも来客があったようなので、各種増やしておきました。それと器具も少し。メッツァルーナと研ぎ石もなかったようなので、追加しておきましたからね。」
「メッツァルーナって何に使うの?」
見たことも聞いたこともあるが、実際に使った事のない器具を持ちながら訪ねる。何だかホラー映画の凶器に使われそうな見た目だ。
「みじん切りによく使います。それと、ピザを切る際にも重宝しますね。お嬢様はピザを食べたことは?」
前世ではある、なんて言えないので首を横に振って応えるとカナリアは今晩のディナーに追加しましょうと言った。もちろん作るのは2人の部下である。
他にもギザギザの刃がいくつもついている謎の器具や小さめのフライパンなども増えていたが、とりあえず一度全体を回ってから質問して行こうと思う。ずーっとキッチンにいて全部説明してもらえなかったら大変だからね。
次は書庫へ行くと、追加分の本がテーブルの上に積まれていた。今のままでもすごい量なのに。私は死ぬまでにここの本を全て読み来ることが出来るのだろうかと若干遠い目になった。
「【等しく人間也~王族の恥部~】【弾圧された貴族ランキングベスト20】【世界一怖い因果応報ベスト10】……誰が選んだの、これ」
「あまりいい趣味ではありませんが、希少価値の高い本らしいですよ。いざとなったらお売りください。」
どこの誰にやねん。思わず似非関西弁でツッコミたくなったが心の中で踏みとどまる。
カナリアは私をお嬢様として礼を尽くしてくれるが、同時に上司として部下への指導の手を抜くことはなかった。境界がどこなのか分からないが、ため口は良いらしい。よくわからん。
「『世界一』なのに『ベスト10』って矛盾してない?」
「ふふっ」
思わず笑ってしまったというように顔を背けてそっけなく「次行きますよ」というカナリアに思わずキュンとしてしまう。クーデレキャラっていいよね。
「畑の水やりが大変そうだという事だったので魔導師と庭師協力の元、こちらを作成いたしました。」
外の井戸の横に置いてある道具はこの世界では見たことないものだった。あえて例えるならラインカーっぽい。学校の校庭に白い粉の線をひくアレである。
長い持ち手、箱、タイヤという簡単な作りだが、箱の中身がきっと違うのだろう。だって水やりの為の道具なのだから。
「こちらには水の魔石を入れてください。石は大きい物で10リットル程出ます。」
パカッと蓋を開けて中をみると実際に見えるのは石を入れる空間だけで、底上げされた部分はこの道具の心臓部分だから露出を避けたんだとか。パッと見ただけでも4分の3以上を占めた心臓とはこれいかに。
ともあれ、せっかくだから小さめの魔石を放り込んで試してみることに。
「前に押すと靴が濡れますから後ろ手に引きずるようにして畝の溝をお歩きください。」
言われた通りに歩くとラインカーモドキの両脇から放射線状に水が出た。歩く振動とタイヤの回転に反応して水が出る様になっているらしい。タイヤも細身のものが2つ付いているのでバランスがとりやすい。一列歩ききって振り返るとジョウロでやったのと遜色なく土が濡れていた。もう片側を歩いて戻ると普段の水やりよりも良い出来栄えに見える。
「今までの苦労って…」
思わずつぶやいてしまうのも仕方ないと思う。時間が半分以上短縮されて出来栄えも普段以上となってはジョウロと私が哀れ過ぎる。
「良い方に改善されるのは喜ぶべきですよ。」
カナリアの言葉に返事をしながら気持ちを切り替える。せっかく好意で用意してくれたものだ。カナリアの言う通り、素直に喜んでおかないと損である。




