出来る上司はメイド長
クレメントが屋敷に到着した3日後、他の使用人仲間達が到着した。
今回の人数は前回よりも多く、荷馬車に乗っていたものは食料品よりも家財道具が場所を占めていた。
「キャロル!」
「イヴー!来たよー!」
キャーッと再会のハグをしてから、前回来ていなかったメンバーに許可を出して敷地内に入ってもらう。
「お嬢、元気そうだな。会いたかったぞ~」
「こら、チャド。全く…、お嬢様。お久しぶりでございますね。」
チャドはボーリスの孫で子爵家の庭師でもある。19歳の青年だが、ボーリスに似ている事が幸いして私が緊張しないでいられる数少ない男の人だ。
抱え上げられ高い高いをしてきたチャドに注意したのはメイド長のカナリア。私の元上司でもあり、キャロルの母親だ。
今回クレメントの部下は誰も来ておらず、代わりにカナリアの部下であるメイドが何人か来ていた。
「うちの部下は火事の被害がなかったか近隣の町へ聞き込みと支援に行ってます。今回火事の被害への支援を目的にこちらへ来たので。」
「昨日までは私たちも参加してたんだけど、騎士団が早期に解決したからそこまで酷くなかったよ。まあ、逃げてきた魔物が建物壊したりした程度かな。」
クレメントとキャロルの補足を聞きながらみんなを屋敷に案内し、お茶をふるまった。火事の前日にお菓子のストックを増やしておいてよかった。メイド達が持参してくれたお菓子も並べたら結構豪華なティータイムになった。
メイド達は上司のカナリアがいることでかしこまっている所為もあり、ティータイムは割と大人しい雰囲気だったが、火事で逃げてきたフルルフォーンや花から産まれたエルブエルバの話をしたとたん、チャドとボーリスは庭へ飛んで行ってしまい、お茶会はあわただしく終了となった。
「全く、力仕事をほっぽって行ってしまうとは。何のために連れてきたんだか…」
クレメントが魔法で荷馬車の中身をひとつひとつ屋敷内に入れるのを監修しながらカナリアはチャドへの愚痴を漏らす。
「エルブエルバは幻の魔物って呼ばれてるんだって。体内でいろんな植物を飼っているみたい。庭師の二人には是非見て見たいものなんだよ、きっと。それより、この家具は?」
「キャロルの話を聞いて足りない物をこちらで見繕いました。」
荷物の搬入を終えたクレメントはそのまま結界やその他魔道具の点検を行いにいってしまった。
カナリアは搬入した家財の説明をすると私に言い、まずはキッチンへ向かった。そこではメイドが2人昼食の準備をしていた。カナリアが来たとたん、おしゃべりをやめてキビキビ動き出したのを見て懐かしさに小さく笑ってしまう。
「まず、これが氷室になります。右が3℃、左が-20℃です。下は常温野菜を下から持ってきた際に保管しておくのにご使用ください。」
80cmくらいの棚は両面開きになっていて、下は引き出し型だった。説明を受けながら扉を開くと、内装は鏡合わせになっている。作りはほぼ前世の冷蔵庫と一緒だなと思いながら、バーシャル/チルド室を開いてみると、そこは予想していたものではなかった。
魔法陣や紋様が書き込まれている事からそこがこの冷蔵庫の心臓部分であることは一目瞭然だった。冷蔵庫内約8分の1を使ったその場所は引き出しがついていて、中には氷の魔石が入っている。
「これは魔石を使うの?」
この家の魔法道具は常に動いている物は魔素からエネルギーを取り込むが、使用時間が限られている物は魔石を使っている。コンロなどがいい例だ。冷蔵庫は前記である。
「基本は魔素で動くようになっています。けれど、この屋敷の魔素をエネルギーに使う優先順位は結界、次に水路、状態維持などです。小型氷室を動かす程度の魔素の余裕はあるとは思いますが、万が一の為の処置ですよ。」
「そっか。この家、思ってた以上に魔素を使ってるんだね。」
「でなければこの森で人が住むことなんて出来ませんよ。」
そこで心配なのは魔石の補填だ。魔石は充電式電池と同じ使い方で、街では補填装置と呼ばれる魔素をかき集めて、設置した魔石に補填する道具を使うか、人の手で注ぎ入れるかの方法が一般的である。前記は時間がかかるが労力はいらず、後記は短時間で済む。
まあ私は無能力者なので魔素での補填しかできないんだけどね。後でクレメントに相談することにして、新しく設置された小型氷室に向き直る。ちょうど空いていた窓の下のスペースにピッタリ収まっている。奥行きも隣の食器棚と揃っていることに対する疑問を口にした。
「まさか特注じゃないよね?」
「クレメントが趣味で作り放置していた物をリメイクしました。もちろんリメイクの際に最新技術もいり込んでます。」
「そ、そっか」
なにが「もちろん」なの?!この屋敷内の魔道具って総額いくらになるんだろうか。最近じゃ慣れてきてしまっているが、扉部分のパッキン部分に触れて片頬が引きつる。この世界にゴムやシリコンはない。少なくとも一般的な流通はしていないはずだ。なのに、密封の為にあるその感触は前世のシリコンにそっくりだった。




