結界の秘密
「”サーチ”」
「「おおお?!」」
クレメントは鶏小屋から回収していたネズミの頭蓋骨を魔法陣の上に置いて発動のワードを口にすると、陣から円柱の光がちょうど頭蓋骨の天辺まで昇った。次の瞬間には空中に新たな画面が出て来た。頭蓋骨からとったネズミのデータだ。
「魔物ではなく普通の動物ですね。」
次いで、クレメントはアリエルから爪の先の一欠片か髪の毛を1本提供するように言ったので、爪きり用の鋏を持ってきてあげた。パチンと親指の爪の先端を切り落とすと
「…なんか変な感じする。」
とアリエルが微妙な顔で言った。スラムでは爪切りを使う習慣はないらしい。あとで他の指も整えようねというと再度微妙な顔をされた。
先ほどと同じように”サーチ”するとアリエルのデータが浮かび、クレメントはネズミのデータと並べた。
「僕の姿は出ないんだね。」
「爪だけじゃ肉付きまで分からないんじゃないかな?」
「頭の骨からは肉付きが分かるの?」
「うーん…。」
首を傾るとクレメントが正解を教えてくれる。
「これはあくまで図鑑の引用ですから。ここに写っているネズミはこの頭蓋骨の持ち主とは別個体なんですよ。」
「人間の写真は用意しないの?」
「そうですね。知識がない物が使ったとき誤解が生じては問題ですから。」
なるほど。例えばこの魔道具が、犯罪捜査のDNA鑑定の様な使い方をされていた場合、使用モデルとして撮影された人が冤罪で捕まるなんてことがあるかもしれない。文字を見れば違いが一目瞭然でも、絵や図などの情報の方が人の脳には定着しやすいという説があったはずだ。人の思い込みは時に恐ろしい力になる。実際字が読めない人は写真の情報が全てになってしまうわけだし、適切な配慮だろう。
「さて、確定ではありませんが結界を抜ける条件が分かりましたよ。」
「え?!早い!!」
確定ではない、とクレメントは繰り返し前置きをして続けた。
「おそらく魔力値が0なものには反応しないようですね。というか、そういう設定にしていたことを忘れていました。」
「ええええ?!」
「……僕、魔力0なの?」
お互いに別な事にショックを受けている子供に落ち着けとジャスチャーで注目を集めたクレメントはまずアリエルへ声をかけた。
「大丈夫。君は幸いスキルに恵まれています。これから知識と礼節を身に着ければ職に困る事はないでしょう。」
「え!っすごい!本当だ!!『精神感応』だって!」
「え?え?なにそれ?何が出来るの?」
希望が湧いたことでアリエルの顔が一気に明るくなった。
「一定以上の知性がある生き物とテレパスによる意思の疎通ができるようになります。」
「……ん?」
「えっと、頭の中で会話が出来るようになるって。」
クレメントの説明が難しかったようなので補足するが、ピンと来ない様だった。
「レベル0だとそんなもんです。感覚を覚えればすぐですよ。」
アリエルのスキル訓練は後日、類似スキルをもった人間をクレメントが紹介いてくれるという事になった。テレパス系スキルの覚醒は誰かにテレパスで話しかけてもらうのが一番早いらしい。
アリエルは今からワクワクが収まらないようでもう他の事は頭に入らなさそうだった。
「さて、結界の話に戻りますが、あの設定の発案者はボーリスですよ。多少の虫がいなければ生態系のバランスが崩れるというので、魔力を持たない生き物は警戒対象から外しました。」
「なるほど。でも今はメリアキリサがいるから受粉の心配はないよ?」
「アラネペレのエサはどうします?勝手に入ってきてくれるなら自分で捕食しますよ?」
あの子は今後もここで生活させるらしい。素材を採りに定期的に来てくれるならその方がいいか。
「でも大きい獣は困るよ。」
「確かに…。食い甲斐のある獣は競って魔物に食われるからそういないとは思いますが。ここは浅くも深くもないラインにありますし、たどり着くやつもいるかもしれませんね…」
魔物の森なんて言っても普通の動物も0ではない。森の入り口付近は魔素も薄い為、変質しないで生態系を保てているのだ。それでも、魔物のエサになったり、中腹付近まで進んで定住し魔物化してしまったりするので、数は圧倒的に少ない。逆を言えば、中腹まで来た動物が魔素から身を守れるこの場所に逃げ込んでくる可能性は少なくないとも言えるのだが。このネズミもその類だろう。
「おじいちゃんにきいて獣除けの罠とか用意してみよ。」
「ボーリスは庭師ですよ?害獣駆除は専門外では?」
2人であーだこーだ話し合い、結局庭の結界に関して、今回の変更点は前回お願いしていた警告の威力を弱めることだけにした。が、建物を覆う結界には魔力の有無に限らず虫も動物も許可なく入れないようにしてくれるようしっかり頼んでおく。害虫に庭で遭遇するのと家の中で遭遇するのとじゃ衝撃が全然違うからね!それに付随してアリエルが屋敷に自由に出入りできるように登録もお願いしておいた。




