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忘却のまま愛を想う

クレメント視点


「では、何もいう事はありません。失礼します。」

「おや、職務怠慢ですか?」

「あなたのイヴリース嬢への愛情を知って、これ以上何を疑うんですか。危険人物が彼女の周りをうろつくことをあなたは許さないでしょう。」

「照れますね。」

「ならもう少し態度に出してみたらどうです。」


 軽口をたたきながらも席を立つ彼らの為にドアを開けたところで私は自分の失態に気付く。イヴリースの元を離れてから何分経った?いや、そんなことより、いつからそこにいた?


「イヴ…。」

 小さくしゃがみこんで声を殺して泣いている少女の背を優しくなでながら声をかける。

「カリンのはちみつ漬け、待ちきれなかったか?」

 ついには隠せなくなった嗚咽をあげてイヴリースはわんわん泣き出した。


 気を使ったロイドたちは見送りはいらないと言って帰って行ったのでその体を抱えてリビングのソファーへ腰をおろした。


「わ、わたしっ、覚えてないのに、カリンのはちみつ漬けの事知ってたの…っ」

 しゃくりあげながら必死に話す言葉に耳を傾ける。


 そういえば、イヴリースが寝込んだオリーヴを探して回らなくなったのはいつからだっただろうか。


「おばあさまが、飲ませてくれていたものなの?」

「そうですよ。オリーヴ様が風邪をひいたイヴに必ず飲ませていました。これを飲むと咳がピタリと止むんだと言って。小さいときの事なのに覚えていたんですね。」


 次々と溢れる涙を根気よく拭ってやりながら言うと、首を大きく横に振ってイヴリースは更に泣き出した。

「忘れたままなの!か、ぞくに、愛されたことなんてないって、思ってたの!愛してくれてたのに…っ!」


 そうだ、酷い頭痛で倒れた時。目が覚めてからイヴリースはオリーヴ様を恋しがらなくなった。空腹を満たす事だけを考えて厨房に入りびたり、それまで使用人を捕まえてオリーヴ様の行方を尋ねて回る事を一切しなくなった。


「…イヴ、オリーヴ様は自分の行いでイヴが辛い目にあう事を何より悔やんでいました。」


 エドモンドがオリーヴの容体に障ると言ってイヴリースを引き離し、その結果イヴリースの心に抱えきれない傷を負わせた。

 愛情を注いでくれた者と引き裂かれた少女が、自分を守るために行った記憶の忘却を誰が責められるというのか。


「私が保障します。イヴ、あなたは誰にも後ろめたく思う事はないんですよ。」

「っぅ、っうぁ、わああああん!」

 悲しいほどに強い少女がこれほどまでに泣きじゃくるところを見たのは初めてだった。イヴは体力が持つ限り泣き続けた。


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