そして真実は語られる
クレメント視点
「…ずいぶんな待遇ですね。」
屋敷をつぶさに観察していたロイドが呆れたようにつぶやいた。
「お茶がないと話も出来ませんか?」
応接間に入るや否や席に座る前に口を開いたロイドへ軽口を返す。
「違います。何ですか、ここは。彼女が聖女と言われても納得する守りだ。」
「失礼な、私の最高傑作に対して。あんな人の数が多いだけのズボラな警備と一緒にしないでください。」
静かに静観している王子にも席を進め、まずは自分たちの関係から教えておくことにした。
「ご存じかもしれませんが、ロイドは私の実弟なんですよ。騎士団を軽んじているわけではありませんので気分を害さないでくださいね。」
「たった今数が多いだけのズボラな警備と我々の仕事をバカにした口で…。」
「私はこの通り貴族社会で生きていくには失言が多いでしょう?幸いにも魔術の腕もありましたから、家督は弟に譲ったんです。確執はありませんから、安心してくださいね。」
「逆だろう!魔術にのめり込むのに貴族位が邪魔で押し付けてきたくせによくもヌケヌケと!
自分の親の目の前でも「確執はない」と言えるのか、この愚兄!」
「言えますよ?言ったら何かくれるんですか?」
「~っ!」
ぐぐぐっと歯を食いしばる音が聞こえてきそうなので、可愛い馬鹿をからかうのもほどほどに本題に入る事にした。
冷静で優秀な自分の隊長のこんな姿見た事ないだろうに、何も表情に出さないフォーマルハウトに感心する。それを表に出さず事の経緯の説明を求めると、王子殿下直々に話してくださった。
「…なるほど。アリエルはそこから逃げてきた誘拐被害者だったんですね。なら何故あなた方こんなに嫌われているんですか?」
「だ、だって檻が開かなかったら僕焼け死んでたし…っ。それに、困ってるときには助けてくれないのに、助けられた後で来られても遅いもん。」
ロイドへの質問に答えたのはアリエルだった。
消火はレグルス・オリファントの力というのだから、実際焼け死ぬ事はなかっただろうがそれは結果論だ。子供が死を覚悟したというのだから、それは彼らの失態である。
「やれやれ、アルベルト。あなたの部下は天才と聞いていましたが、随分未熟な天才もいたものですね。」
「いやー、あれは俺の指示で力の使い方に制限をかけているんだ。12歳でドラゴンを1人で討伐出来るようなやつだ。あいつに本気を出されたら隊の中に怠け者が出るだろう?なので隊の中の指示とサポートを徹底させているんだ。悪かったな、少年。この通りだ。」
小隊とはいえ騎士団の隊長から頭を下げられてアリエルは居心地悪そうに身じろいだ。
アルベルトは貴族出身者ではない。平民から騎士になり、実力でここまで上り詰めた実力者だ。実際は大隊を率いるだけの力があるのだが、今回の新人が異才なだけに話し合いが行われた。誰もレグルスの上司になりたがらず、そこでその役は国一番の実力者に回ってきた。アルベルトが小隊の長を務めているのはレグルスの為に他ならない。
「家督に傷がつく心配のない気楽な者には適任だろう」と自分たちには務まらない職務についたアルベルトを馬鹿にする無能共相手に、明るく笑いながら今の仕事のやりがいを語る様な馬鹿だが、故に人の心をあっさり開いて見せるのだ。
アリエルはしばらく目を逸らしていたが、頭をあげないアルベルトに焦れ最後には負けを認めた。
「も、もういいよ。」
「ありがとう。この失態を二度と繰り返さないと誓おう。」
「わかったよ…。もういいって。」
アリエルの助けを求める視線に応えて本題を進めることにした。
「あなた方がこちらに求めるのは邪教の信徒捜索だけということでよろしいですか?」
「いや、正当な手続きが行われていたとしても保護が必要な子供にこのような仕打ちをした子爵家への問い詰めも行いたい。いや、正当な手続きが行われたこと自体が問題だ。」
ロイドの言葉にやはり放っておいてはくれないかと頭を回転させる。
「子爵家と契約処理を行った教会に厳重注意をしてこの話が終わると思っているのですか?初等教育の生徒でももう少し頭をひねりますよ。」
「では見逃せと?…そういえば兄さん、あんたなんで黙認してたんだ。あんたは…、あの子を可愛がっているように見えた。」
「あの子の母親はあの子を嫌っていましてね。それはもう、いつ呪い殺すかというほどに。そんな時に、その子を地獄へ向かわせるチケットが母親の手に入ったらどうすると思います?」
「ここがその地獄か?」
キョトンとした顔でアルベルトが問うてきたので首を横に振った。
ここにいるのは情に脆い者ばかりだ。そして、王子はこの真相こそ知るべきかもしれない。
私は覚悟を決め、イヴリース本人も知らないプラスティラス家の暗い部分の話を始めた。




