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その天才の弱点は

クレメント視点


「僕アリエル。あんたがイヴリース様の”家族みたいな人”?」


 部屋を出てすぐにアリエルと名乗った少年は大きな目をこちらに真っ直ぐ向けて訪ねてきた。自分は平均より身長が高い事もあり、見上げるアリエルの首が疲れそうだった。しゃがんで目線を合わせてやると伸ばしっぱなしのグレーの髪が思っていたより傷んでいる事に気付く。

 よく見れば着ている服はボーイッシュなデザインではあるがボタンの位置で女物だとわかる。イヴの服だろうか。


「クレメントといいます。君がイヴリースを守ってくれたおかげで間に合ったよ。ありがとう。」

「い、いいよ。そんなの。助けてくれたのはイヴリース様の方だし…。」

 照れてそっぽ向く仕草は大変幼い。話し方や肌髪の状態からしても一般水準より低い出の者だとわかるが、スレてはいなさそうだ。


「これから彼らと話をしなければならないんだが、私には情報が足りない。助けてくれるかい?」

「いいけど、あいつら僕のいう事聞かないんだ。いても意味ないと思うよ。」

「そのために大人(わたし)がいるんだよ。お互い足りないところを補いましょう。」

「うん!あんた、良い人だね!イヴリース様の家族ってだけある!」


 にこにことご機嫌に笑う子供から、人からあまり貰わない評価を得て、私も少し上機嫌に騎士団の対応に向かった。


「お待たせしました。では、隊長だけ、どうぞ。」

 すぐに捜査に入れるとでも思っていたのか、それとも王国騎士団相手にそんな態度をとられると思っていなかったのか数人の者が怪訝な顔をした。


「……以前来た時にもしやと思っていたんだ。この魔道具を作ったのはあなただったんですね。」

「あぁ、イヴの言っていた騎士団はお前の小隊でしたか。その辺の事情も含めて説明しますよ。

 まさか、敷地の外で待っていられないような軟弱者はいないでしょうね。」

 ロイドへの問いかけに応えたのは隊の後ろにいたアルベルトだった。相変わらず声の大きい旧友は溌剌と笑いながら部下たちへ待機命令を出し、前へ出て来た。

「あぁ、待ってください。結界内への一時許可を出します。」

 相手の手の甲に指先で触れ、以前作ったプログラムを頭に思い浮かべながら魔法陣を展開させた。前に入ったことのある者は必要ない旨を伝え、門をくぐったところで後ろから声をかけられ振り向く。


「失礼します。クレメント・フロイス魔導師教授、自分も同席させてください。」

「その要望に対して、私はあなたを騎士として扱うべきでしょうか?それとも?」

 フォーマルハウト・エインズワース王子殿下に対してこのような態度が許されるのは彼が騎士団に所属しているからに他ならない。この国の王族は数年間、騎士団などの国勤めをすることを決められている。男児だけに限るが、身体が弱くても財務省などの机仕事に就かされる。が、歴代の王子達をみても騎士団への入隊が一番多い。自らの命を守る術を学ぶことと、人の上に立つ者として命を懸ける者たちに向き合う為らしい。ようは泥臭い思いを一度はしておけということだ。


 結果として、彼が騎士団にいる間は特例を除き特別扱いはしなくていいと王が認めているのだ。もちろん、騎士団にも序列はある。実家の力関係で出来上がるコミュニティーは禁止したところでなくなりはしないのだから、ある程度は丁寧に扱われているのだろう。


「私が騎士団に入団した理由の一つに、現場にいなければ見落としてしまう、人の事情を見極める力をつけるというものがあります。その一例をとりこぼしたくはありません。」


 なるほど、しっかりした方だ。規則だからとダラダラ惰性のまま過ごすのではなく、自分なりの目標を持っている。うわさには聞いていたが、次世代の王も優秀そうで安心した。

「いいですね。――構いませんよ。ただ、隊の事は隊長が決めるものです。いかがです?」


 最初のつぶやきは完全にひとり言だったが、ロイドの耳は拾っていたらしい。後の判断の丸投げも含め全てが気に入らないと渋顔を作っていた。


「いいじゃないか!どうせ聞かれたら困る事もないだろう。」

 結局アルベルトが間に入り、許可は出された。


「特別待遇を妬まれても知りませんよ。」

「私の役割を理解してくれる友ばかりですので。」

 そう言って、すれ違いざまに小声で「お気遣い痛み入ります。」と私にだけ聞こえる声で言われてしまった。外での待機を言い渡された彼らに聞こえるように注意する事で予防になればという気遣いを見透かされている。まあ、外での待機は私の所為でもあるのだが。


イヴにも言えることだが、どうも自分の周りにいる子供たちは純粋で人の良心を疑わないきらいがあるようだ。まっさらな善人とは言えない自分には些か眩し過ぎる。こちらの気遣いに気付きもしない愚息が恋しくて誰にもばれないようにため息をついてから、彼らを中へ促した。


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