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山火事の原因と鎮火の真実(2)

レグルス視点

「隊長」

「別の脱出口か。まぁあるよな、そりゃ。レグルス、お前行け。」

「了解」

 煙の出ている方向に最高速度で向かうと窮屈そうな出入り口から這い出る奴らが確認できた。こっちは非戦闘員の様で、煙にやられてぐったりしていた。


「鉱石を用い堅牢なる檻にて拘束しろ。ソル。」

『お、出番か。』

 契約している上位精霊に呼びかけると褐色の肌をした男が現れる。大地の精霊は地中の鉱石で頑丈な檻を作り出し、出入り口をふさいだ。

 出て来た者はみな檻の中に入って行くような形になるのだが、避難口として作られた先にある通路は狭いようで引き返すこともできないようだった。袋のネズミだ。


「オスク、見張れ。」

『はっ!』

 闇を司る精霊は影を用いて力を発揮する。夜はオスクの独壇場だった。死角はまずない。

 先ほどの戦場に戻ると外に出た教団員は捕縛済みだった。今は地下に入って残りを捕らえていると外で待機していたロイド隊長が教えてくれた。取りこぼしがないように外で待機する者が必要とのことで俺も外で警戒にあたる。


 それから30分ほどで制圧は完了し、教団たちは俺が捕らえた者も含めて一カ所にまとめた。索敵の範囲を広げて完全包囲を確認してからオスクを下がらせる。そして先ほど発見された檻の調査に行動を移した時だった。


「っうぁあああ!ウェスペル神は我とありーっ!!」

 一人の教団員が炎に包まれごうごうと燃えだしたのだ。彼と隣り合うように繋がれていた者の衣類へ火が移り悲鳴が上がった。


「水!」

「っ、はっ!」

 俺を含め魔法が得意な者で消化にあたるが火は激しさを増すばかりで一向に消える様子がない。

「こいつっ!油でも飲んでんのかよ!!」

 ルーカスの悪態とほぼ同時に別の場所からも不愉快な叫び声が上がった。

「う、ウェスペル神は我とありっ!!」

「い、いやぁああ!!」

「お、おい、やめろ!!巻き込むなっ」


 宗教団体にも熱心な信者とそうでない信者がいるようだ。自害の道を選んだ者もいれば、被害に遭いたくないと身の安全を優先する者もいた。燃え盛る仲間からのもらい火を恐れ、繋いでいる縄を切ってくれと大騒ぎ。


 そんな中では起こるべくして起こってしまうのが脱走だ。捕らえ損ねた何人かと大乱闘が勃発する。戦場だろうが抵抗の意思がないなら大人しくしていろと言う方が無理な話だ。魔法の打ち合いが始まり、近距離戦闘が得意な者は剣を打ち合う。そうして消火に割く手が減ったことで火は大きくなっていく。


 逃げていく魔物との衝突で隙を突かれ負傷していく仲間がいる中で、真っ先に考えたのは王族であり親友でもあるフォーマルハウトの無事だった。優秀なやつなので簡単には死なないだろうが、ロイド隊長が傍にいる事にひとまず安心した。


 足元を走り抜ける小型の魔物がうっとうしい。剣を交えながら詠唱をするだけでも集中力を使うのに、火事による煙と全速力で走り抜ける野生の魔物が邪魔をする。

 精霊を使いたいが魔法の詠唱を止められず行動に移せない。そんな中で回収してきた檻をどんどん開放している信者がいた。証拠品を消すためか、火事から逃がしてやるためかは分からないが気が付いた時には檻は全て解放されていた。


 俺の失態だ―――。


 8人目の信者を無力化して歯噛みする。先ほど召喚したオスクを下がらせてしまった事を後悔した。闇の精霊である彼ならば信者の異常にはすぐに気づいただろう。それでも、俺は精霊師としての力を人前で使う事を嫌い、オスクを下がらせてしまった。

「くそッ」


 精霊は特別な瞳がなければ見えない。俺は前世の呪縛から解放されてはおらず、その結果がこれだ。この世界では精霊眼を持つことは誉とされているが、俺は人が通常見えないモノが見えるという事にトラウマがある。

 結果がこれだ。どれだけ人より優れた能力を有していても使う者がお粗末なら何の意味もない。


「レグルス!」

 フォーマルハウトに一括されてハッと顔をあげると煤で顔を汚したフォーマルハウトが立っていた。

「何て顔してんだよ!何考えてんのか知らんが目の前の事に集中しろ!」

「っ悪い!」

 不幸中の幸いといえば、数日前に雨が降ったことだ。森が完全に乾ききっていなかった為火の広がりはそこまで酷くはない。


 自分の失態を取り戻さなければ。


「消滅の大火を退けろ。天よりの慈雨にて地を癒せ。アーテル!フルトゥアス!」

 風と水の精霊に協力させて火消しの雨を降らせる。先ほどの様に個々に力を使わせるならそこまで疲れないが、上位精霊同士に協力を要請すると流石に疲労が身体にまわった。


この炎にどんな仕掛けがあったとしても精霊の降らせる雨で消せないことはないだろう。後は残党の粛清だ。フルトゥアスは魔力を対価にしているが、アーテルは娯楽の提供で契約しているので、残りの魔力量で補えた。

対価は基本最初に契約した際に決めるのだが、気まぐれな精霊はその時々で代用品を求めたり規定量より少ない魔力で力を貸してくれることもあるのだが、今回フルトゥアスは規定量と+他の精霊との協力分を持っていったようだ。


『天候を操るなんて、人の身で実行しようとするは思いませんでしたわ。』

「あぁ、流石に疲れた。」

 フルトゥアスがため息を吐くと煙が四散して新鮮な空気が肺を満たした。流石は風の上位精霊だ。精霊信仰を国教とする国があるが、今のは神風扱いされるのだろうか。


『レグルスは本当に面白い。津波をおこしたことはあったけど雨を降らせたのは初めてよ。』

「火が消えるまで頼む。それとアーテル、逃亡した教団の者を捕らえられるか?」

『いいわよ。黒ローブの奴らね。雨が降っている範囲にいる者たちは捕まえてあげる。』


 アーテルはそう言うと霧状になって消えて行った。雨雲を見上げるが、夜空ではどこまでの範囲で雨が降っているのか把握しづらい。隊長に精霊との会話内容を伝え、俺たち下っ端は火事で逃げ出した魔物が市街地へ出ていないかを調べに走り、森から出ていた魔物は全て一掃していった。


そうしているうちに朝日が昇り始め、雨はいつの間にか止んでいた。アーテルは水牢に閉じ込めていた最後の1人をアルベルトが回収したことを伝えに来てから帰って行った。


「疲れたな…。」

 ルーカスがらしくもない疲弊しきった声でつぶやいた声に首を縦に振って肯定の意をしめした。正直疲れすぎて脱力した声しか出そうにない。


「はっはっはっ!お前たち、アンデッドの様な顔色だな!応援は後数時間で来るだろうからもう少し頑張れ!安心しろ!近くに宿をとっておいた!明日は寝坊してもいいぞ!」


 はっはっはっ、と豪快に笑うアルベルトに「日付とっくに変わってるから明日じゃなくてもう今日ですよ。」と突っ込む元気がある者はいなかった。

「体力お化け」というリネットのつぶやきがアルベルトの軽快な笑い声にかき消されていった。



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