雨上がりの庭
朝から雨が降っていて、空気が湿っていた。前世では雨のたび頭痛に悩まされる片頭痛もちだったが、今の身体で頭痛が起きたのは記憶が戻った時だけだ。健康体に産んでもらった。
「慈雨…。」
仲間が昨日帰ってしまった事の寂しさがまだ胸に巣食っていて起き上がる気になれなかったので、畑に水をやる必要がないのは有り難い。
けれど、頭痛の代わりのように雨が降ると前世の家族の事が頭をよぎってしまう。気圧による若干の気だるさに従って体を横たえた。
弟の空が産まれたのも雨が降る日だった。天気雨による雲間からの光が美しい日。
私は死の間際、家族の事は頭に浮かばず、ただただ恋した人を思っていた。でも、今生の両親から愛情がもらえないとなると前世の家族を思い出し、私の本当の家族は日本にいるのだと思って孤独を紛らわした。都合のいいものだ。後ろめたい思いが恵みの雨に優しく責められているようで、一層気だるい。
キャロルが綺麗にしてくれたから掃除も必要ない。やる事がないため、余計に暗い考えを持ってしまうのかもしれないが、それでも自分から身体を起こすことが出来ずにダラダラ過ごしてしまった。
いつの間にか二度寝してしまい、起きたのは午後3時を過ぎたころだった。雨もいつの間にか上がっていた為、庭に出ることにした。
雲間からのぞく光は弟が産まれた日と同じで美しく、それは世界が違っても変わらなかった。
雨粒を抱えて光る草花を見ながら庭を回っていたら、先日の来客の忘れ物が目に入る。
「あ、蜘蛛!!!」
鶏小屋の中を覗いたわけではないが、持って行った様子はなかった。一応確認の為に中を窺ってみたらお食事中だった。
蜘蛛は肉食の昆虫だ。しかもアラネペレは魔物である。仕方のない事だが、まさかネズミを食べているとは思わなかった。可愛い見た目で、立派な益虫である。
そこで薄気味悪い仮定が浮かび上がる。このエサになっているネズミはこの庭で産まれたのだろうか?私はげっ歯類を結界内に入れる許可を出した覚えはない。ネズミって、一回の妊娠で何匹産むんだっけ…。
ゾゾゾッと背中に駆け上がる怖気を振り払って食事を終えたアラネペレを小屋から出して抱きかかえた。自分より大きな生き物には食指が動かないのか、アラネペレは一度こちらを見上げてからモゾモゾと落ち着くポジションを整えそのまま大人しくなった。
これで害虫や害獣が現れても大丈夫だ。こっちには捕食者がいるのだから。来るなら来い!…いや、現れないでくれるならそれに越したことはないのだけれど。
翌日はカラリと晴れたので朝から水やりに動き回った。昨日ずっと抱えていたアラネペレは朝庭に出た瞬間に肩から飛び降りて鶏小屋へ戻って行った。あの小屋が案外気に入っているらしい。
「あれ?すごい育ってる…。」
メリアキリサが以前くれた種が発芽していた。椿の実くらいの大きさの種だったから双葉も中々の大きさだ。
「花、咲くのかな?」
ワクワクしながら水をあげると葉っぱが揺れたので、一瞬動きを止めてしまう。
う、動いた?バクバクする心臓を宥めて再度水を注ぐと今度は疑いようもないくらいグングン成長しだした。
「お、おおお?」
首を下げて咲くタイプの花の蕾が6つほどつき、花開く寸前で成長を止めたので水やりを終え観察してみる。蕾の中に何かいる。胎児のように丸まっているようにも見えるそれはうっすら発光しているようにも見えた。
「ど、どうしよう…。」
ちょっと怖い。けれど、植物系の魔物の捕食行動は待ちの一辺倒だと以前クレメントが言っていた。
屋敷の外へ放り出すのは次にボーリスとクレメントが来てからでいいだろう。その時に危ないものか見てもらおう。
でもやっぱり怖いのでアラネペレの鶏小屋に仮住まいさせてもらおう。鉢をそっと持ち上げて小屋の中でも日の光が当たる場所に移動しておいた。




