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12歳の異世界生活リスタート

 私、イヴリース・プラスティラスの血筋は正真正銘の子爵家のものだ。にもかかわらずこんな深い森の奥にポツンと一人で立ち尽くしているのにはわけがある。つい2時間ほど前に子爵令嬢ではなくなったからだ。まあつまり、勘当されたわけだ。両親とも健在なのに、悪事を働いたわけでもないのに、今日から孤児だ。酷すぎる…。


 とほほ、と空笑いが出てしまうあたりシリアスになりきれない。子爵家での扱いが幼少期から使用人へのそれと変わらなかったから、自分でも気づかぬうちにこうなる覚悟は出来ていたようだ。親から愛された記憶もないので、捨てられた衝撃もそれほどではなかった。


兄1人、妹1人の3人兄妹でイヴリースだけが魔法適正もなければスキルと呼ばれる特殊技能も持っていなかった。これは貴族としてはありえないこと。旧派閥では恥と考えられる程の異例だった。そもそも、近隣国含め、無能力者(魔法適正無し、スキル無しの者の事をいう)は1000人に1人と言われている。平民ですら生活魔法など日常的に使用しているのに、伯爵家出身の母にはそれが耐えられなかったようで、私の事を自分の娘と思うことが出来なくなってしまったようだった。


 そんな私に与えられた祖父の遺産分配で与えられたのは祖父母が若い頃に建てた別荘とその敷地だった。


 父が別荘の環境を最低限整えるよう使用人に指示を出したのは何年も前の事だ。祖父が生きていた頃から私への相続分と勘当は決定事項だったらしい。そして計画通り私は12歳にして一人暮らしをすることになる。まぁ、子供の頃から使用人として生きてきたのだ。これだけ設備の整った屋敷と庭があって死ぬことはまずないので問題はない。


 父は子供には興味のない人で、出来損ないの私に対する興味は皆無だった。故に母からの虐待を止めてくれなかったのだが、おかげでこの私の為の屋敷が手に入ったのだから水に流そう。

 

 実はこの別荘の改築には必要以上の多大な額が使われている。父は「最低限」整えるようにと出した指示を使用人は誰一人として聞かなかったのだ。それは偏に彼らの私への愛情だった。子供の頃から彼らと寝食を共にしてきた私をみんなとても可愛がってくれた。この別荘の話が出た時「私達が特別住み心地の良いお屋敷を用意してあげますからね」と言ってみんな悪い顔して笑っていたのが忘れられない。


 専属の魔導士は魔法技工士と共に無能力者でも使用できる魔法道具を開発、設置してくれた。


 メイドたちは家の内装を総とっかえ。家具も可愛くリメイクされていて実家よりよっぽど居心地がいい。クローゼットの中には、今までできなかったオシャレが楽しめるように、色々用意しておいたからねと笑っていたっけ。


 執事と護衛職の人たちは図書館を用意してくれた。元々の所蔵もあっただろうが、増築部分を見るに3分の2は新しい物のはず。よくこれだけ集め、分類別に仕分けられたなと口をぽかんと開けてしまった。


 庭師は綺麗な庭園と実用的な畑を、馬丁は厩舎なども用意してくれた。その際庭の景観や使う敷地面積などでもめたそうだが、最終的に素晴らしい物になったと肩を組んで言っていた。


 そして、執事長、メイド長、魔道師長は敷地全体を覆う結界を作成。これに一番お金がかかっているらしい。この森は数十年前から魔物が爆発的に増えた為、今では冒険者や騎士団などの戦闘職員しか入って来ない。それを承知でこんなところにお嬢様を一人で住まわせるなど許せないと笑顔で静かに憤った各長達は、必要経費として大分引き出したようだった。もちろん、使用目的は正直には報告していないに違いない。だってこの建物には保護魔法が建設時からかかっているため、最低限生活できる環境は始めっから整っているのである。


2階のバルコニーから、これから見ごろになるであろう庭園と正面の門を眺め、みんなの気持ちが詰まった家に涙を流した。魔物と戦う術のない私はここから一人では出られない。でもみんな休日には遊びに来ると言ってくれていた。何より、私はただの12歳ではないのだ。前世は17歳まで生きた。その記憶がある。ただの孤児ではないのだ。


「異世界生活リスタート!!」


 両手の拳を真上に突き上げた宣言が通称魔物の森に消えていった。


 悲観してはいけない。だって、前世の自分が望んだことだから。きっと彼はもう霊媒体質に脅かされていないと思えば、自分の不運も前向きに受け止められるというものだ。今では顔もおぼろげだが、過ごした日々の愛しさは覚えている。思い出せばまた瞳に涙の膜が出来てしまうので、振り切って食事の為に食堂へと向かうのだった。


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