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嵐の前から雨は降る

レグルス視点

 次々出てくる魔物に心の中で悪態をつきながら仲間の破られた結界を補強する。


「クッソ!ふざけやがっ…、うわぁ!」

「っ」

「あ、悪ぃ」

「いい!体制を立て直せ!」

「おぉ!」


 地下、地熱の力が強いここでは水と風の力は十分には発揮できない。たった3日の遠征にここまで苦戦を強いられるのは偏に隊長の実力不足に他ならない。


「お前ら!しっかりしろ!全く、家柄ばかりよくてもなぁ…」


 お前が言うなっ!と喘いだのは誰か、少なくとも全員の胸中が一つであることは確実だろう。部下に指示も出さず、自分の為だけの結界をはるジェイビズ・ヤソンは本来のこの隊の長ではない。ここで結果を出してどこかの隊長として昇進したいのだろうが、その努力をしているのが本人ではなく部下なのだから悪態の一つも許されたい。


「はぁ、はぁ、無理だろ…。地下9階層とか…。馬鹿じゃねぇの…。」

「はは…、俺たち死ぬんじゃね…?」


 ダンジョンの作りは上にも下にも未知の領域が広がっている。今現在マッピングが公開されているのは上は4階層、下は10階層まで。つまり今俺たちのいる9階層は複数人の手練れ向けなのだが、全く本当に集団自殺願望でもあるのだろうか。あの馬鹿は。


「っ最後!!」

 肉体強化で壁を三角とびして、相手のうなじから剣を叩き付ける。生前は冒険者だったゾンビの首を落としてから浄化魔法をかけてようやく全員が肩の力を抜いた。

 神聖魔法が使えるのは10人中3人。俺以外は女子で、その2人とも体力魔力共に限界に見える。


「よし、では進むぞ。」

「ま、待ってください!更に下層へ行くつもりですか?!」

「バカッ!そんなわけないだろうが。全く、隠された通路がないか見て回るだけだ。臆病者め!」


 吐き捨てるように言ったジェイビズに悪態をつく体力が残っている物は少なかった。果敢にもジェイビズに噛みついたルーカスは奥歯を噛みしめて怒りを抑えていた。


「ルカ。隊列を組もう。悪いがしんがりを頼めるか?」

「あぁ、悪い。あいつの近くにいると殴りそうだ。」

「気持ちは分かる。リネットとメイヴィスを頼む。2人とも限界そうだ。」

「……レグルス、帰ったら飯付き合えよ。」

「……。」

「……死亡フラグみたいな事言っちまった。やべぇな。」

「ははっ」

「ひひひっ、あっははは」


 ルーカスは熱く直情的で感情を隠せない。故に隊を組まれた際、彼から嫌われている事は簡単に分かったが、今後はいい関係を築けるかもしれない。この無茶な探索も無意味に終わる事はないようで、それだけが救いだった。


「ごめんね。私たち…。」

「女と男で体力の差が出るのは仕方ない事だ。お前らが俺に神聖魔法使えない事を責めないなら俺だってお前らを責めねぇよ。」

「そっか。うん。」

「まぁそれにうちには?完璧人間のレグルスがいるから全滅はねぇだろうしな!」

「なんだお前。妬みで俺を嫌ってたのか。」

「そうだよ!悪かったな!!」


 ルーカスの様に妬みで嫌ってくる奴は今までもたくさんいたが、こうして関わりをもっていい関係を築けれるなら気にするほどの事でもなかった。


「全く、お前たちダンジョンで気を抜き過ぎだぞ!後輩の御守りは本当に苦労す」

「ねぇ、この階層ってアンデットしかいないのかな?」


 ジェイビズの言葉を遮ってきたのはイザベラ・ケリー。勝気な性格で、正直苦手だったりする。


「…どうだろうな。アンデッドの数が減ってきたら隠れている奴らが出てくるかもしれない。」

「でも生きてるやつの方が楽だよね~。」

「おい!隊長の俺の言葉を遮っ」

「あ!さっきの戦闘で腕ちょっと切っちゃった~。見て~。」

「あぁ、ほんとだね。でも跡が残る様な傷じゃなくてよかったね。」

「ま、全く!これだか」

「そうだね!薬も治癒魔法も必要ないくらいだし、防具揃えたかいあったかも~。」


 男は縦社会、女は横社会と前世の職場のパートのおばちゃんが言った言葉が思い出される。彼女たちは上司だろうが気に入らない人間に対して数で対抗していた。社会的な攻撃ではなく、精神的な攻撃で。


 イザベラのジェイビズへの対応は完全に敵に回すと厄介な、女のそれだった。


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