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私の金色の妹(2)

キャロル・バリー視点


「そのキャジャルーって魔物なのに飼えるの?」

「うん。私も飼いたいんだけどお母さんがダメっていうの。動物は躾に時間がかかるからダメだってさ。」

「フワフワなら飼いたいね。触りたい。」

「もうね、フワッフワだよ!友達の家のは真っ黒なんだけど私はミルクティー色のが欲しいんだ~。」


 イヴはオシャレより可愛いものが好きなようで、友人宅で触ったのペットの話やリボンで作った花の飾りに食いついた。

「布の切れ端があればもっと違うお花が作れるんだよ。」

「へぇ、すごい。器用なんだね、キャロルは。」

「え~、そんなことないよ~。」

 褒められて悪い気はしない。本当は布で作る花は自分で作ったことがないのだが、人形の様な少女の見せるわずかな表情の変化は私に十分なやる気を起こさせた。


 次の日、大して上手くもない刺繍を施したハンカチを持って行ったらイヴは期待通りの反応を見せた。少女の手の中には宝石でもあるのではと思うくらい、若葉色の瞳を輝かせた。発した言葉は「すごい、綺麗なお花ね。」とだけだったが、潤んだ瞳が最大の賛美を謳っていた。


 私はどんどんイヴが好きになった。体に合っていない服、荒れの酷い手、キュルキュルと空腹を訴えるお腹。それらは憐みを集めるのに十分なのに、どこか自分自身を一歩引いてみているところや、人を過剰に羨んだりしない姿勢が修道女の様な厳かさを見せた。かと思えば年相応に可愛い物が好きだったり、年上の私に懐き駆け寄ってくる。こんなの愛さないでいられるわけがない。


「キャロル!今日は洗濯なの。酷い汚れはお姉さん達が洗ってくれるから私たちは踏むの。」

「踏む?洗うんでしょ?」

「踏んで洗うのよ。」


 私はイヴに仕事を教わり、私はイヴに娯楽を教えた。そうして一緒に過ごすうちにイヴが家族に愛されてない事やひどい扱いを受けている事を知る。


ある日、この屋敷の奥様が調理場へ来て鍋に唾を吐いて回り、そのまま傍にいたイヴに一言もなく去って行くのをみた。謎過ぎるその行動を帰ってから母に聞くと、目に涙が浮かぶほど怒りながら教えてくれた。


「残った料理をイヴ様が食べないようにでしょうね。」

「えぇ?でも鍋に唾吐いたら自分たちだって食べられないでしょう?」

「もちろん。夕食にも翌日にも食べやしないわよ。捨てるだけのものでさえ、自分たちと同じものを食べさせたくないのよ、あの女は…っ!」

「なにそれ?…い、意味が分からない。」


 だって、イヴはいつもお腹を空かせている。捨てるものならあげてもいいじゃない。何だか悔しくて、母につられるように涙を浮かべた私を母は抱きしめて「分からなくていい」と言った。

 メイド見習いとして子爵家に本腰入れて務めるようになったらその闇がどんどん目に付くようになる。


 唯一の救いはイヴが親兄妹に対して執着を持っていない事だった。どこか他人事で、使用人(わたし)たちこそが自分の家族だと信じ切っているよう感じる。

 一度、イヴは私の妹だからねと言ったら、キョトンとしてから満開の笑顔を見せた。


 私は、その時の笑顔を思い出すと何でもできそうな気がするのだ。


 そう、今でも思い出すだけで瞳が潤むほど胸が熱くなる。この感情をなんといえばいいのか分からない。



 だからこそ、私は今日は帰らなければならない。あの子爵家のくそ野郎共はイヴを追い出して数週間経った今でも私たちにこの娘との接触を禁じ、監視の目を光らせているのだから。ばれた時罰がくだるのが自分だけなら我慢も出来るが、きっとイヴもただでは済まないだろう。


 そうして別れの時間、拗ねた様な泣くのを堪える様な顔で見送る可愛い妹を何度目かの宥めにかかる。


「またすぐ来るって。ね?そんな顔しないの。」

「そんな顔ってどんな顔…。いつもと変わらない顔よ。」

「イヴ~。」

「……次はいつ来るの?」


 どんどん声が小さくなっていくのは泣くのを我慢しているからだろ。本当に表情豊かになったものだ。


「じゃあ来週来ようか。ね?」

 クレメントに視線を移すと困り顔でそう言った。多忙な彼もイヴには大概甘い。


「ん。」

 イヴもクレメントの忙しさは知っている。コクリと頷いてくれたことに安心し、私たちは帰路につく事が出来た。バイバイと木々で見えなくなるまでイヴは手を振っていた。人が通る道に出てから屋敷を振り返ってみたら2階のバルコニーから手を振っていた。門から急いで2階まで駆け上がる姿を想像して思わず笑ってしまった。


「次の争奪戦も頑張らないといけないね。」

「もちろんっ!!勝つよ!!!」


 可愛い妹の為だからね!!!


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