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そして少女は思い出す

虐待の描写が軽く入ります


 夕食は野菜の天ぷらにした。油で食材をあげるという調理法はポピュラーではないようで少なくともプラスティラス家の使用人たちは知らない料理だった。日本人としての記憶があったから作れたものだが、そもそも中世ヨーロッパをベースにしたようなこの世界ではめずらしいのかもしれない。


 使用人時代、私の食事は親兄妹の残した残飯かその日調理に使用した後の野菜の皮などの生ごみだった。一度そのことに憤ったメイド長が物申した際、他のメイドによって捨てられた萎びた小さな玉ねぎを拾った母はそれを私に叩き付けてこういった。


「貴族の役割を果たせない者に子爵家の食材を食べさせるわけにはいきません。お前がこの家で食べられるのは私たちの口に入らないと確定している物だけよ」


 その時、ぶつかった玉ねぎが地面に転がったのを眺めながら、私はひどい頭痛に襲われ、そして前世を思い出した。

 気を失った私はその小さな玉ねぎを握って離さなかったようで、使用人たちにはそれがひどく健気に映ったらしい。結果同情してくれる人たちが増えた。が、そんな憐みの視線よりもその時の私は空腹を満たすために前世の記憶を試す事が最優先だった。


 パンを作るときに落ちた作業台の小麦粉を全てかき集め、クズ野菜を刻み、冷めたら石鹸にされる使用済みの油を再度熱してかき揚げを作って食べた。前世の記憶が私の妄想ではないと証明するには十分な味だった。


 ある日勝手口からひょっこり顔を出したボーリスは「良い物食べているな。おすそ分けをくれないか?」と私のかき揚げと自分の昼食の卵を交換してくれた。それから度々ボーリスはひょっこり現れて私の料理と自分の昼食を交換してくれるようになった。それが1年も経てばボーリスの親切心から始まった行動が彼の楽しみにもなっていると気付き、天ぷらが彼の好物になった事も知った。


 あの頃とは違い今は十分な食材がある。ナスも大葉もお芋も使い放題だ。あの時の恩返しになればいいなと思いながら、私はひたすら野菜と魚介類を油で揚げまくった。


「美味い!いやぁ、ナスが天ぷらにするとこんな美味くなるとはな!」

「本当ですね~」

「何でイヴがあげるとサクッてするんだろう?私も試したけどベチャってするんだよね」

「流石はワシのお嬢だ!ぶわはははっ!」


 クレメントはエビ、キャロルはお芋と大葉、ボーリスは野菜は一通り食べ、最終的に白身魚がお気に召したようだった。ハーブソルトも喜んでもらえ、作った身としてはとても嬉しい事に器は空っぽになった。

「そういえば、クレメントの部下の皆さんは?」

「彼らは体力が有り余っているようなので野営です」

「え?」

「とは言っても、食料調達と調理だけだけどね。睡眠は敷地の片隅をお借りします」


 のほほんと食後のお茶を飲みながらとんでもなくスパルタな事言っている。調理の部分に関しては動物の血抜き作業や火事を気遣ったのだろうが、こちらとしては彼ら自身の身の安全の方がよっぽど心配である。


「大丈夫ですよ。貴族に飼われる魔導師は脆弱になりがちなので、時々戦闘の感を思い出させてやらないと。有事の際に使い物になりません」

「へ、へ~」

 何だか可哀想な気がするから、あとで様子を見に行こうかな。と思ったところでクレメントの目が光った。

「イヴ、あなたは嫁入り前の少女です。そしてとても可愛らしい。10代20代の男を簡単に家に上げてはいけませんよ」

「ん?!え、あ、はい」

「よろしい。夜もフラフラお散歩してはいけません。いいですね」

「はい」


 悪だくみしていたわけではないけれど、ちょっと後ろめたい思いを隠して返事した。これはもう夜抜け出せそうもない。片づけを引き受けてくれたキャロルがいつの間にか戻ってきていて笑われた。今回は味方になってくれないらしい。


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