自慢の設備と
1ヵ月が経ち、ここでの生活リズムをつかんできた。これだけの屋敷を管理し、且つ自給自足の生活は思った以上にハードだ。まず現代でいうところの水道は存在しない。大きさに違いはあれどポンプ式の井戸なため、ジョウロで行う畑と庭園の水やりで午前中は終わる。作業は日の出から正午まで。
家の中の水場もポンプ式。風呂場を除いて。そう、なんとお風呂があるのだ!これは私が唯一強い意志を持って口を出し作ってもらったもので、石造りの源泉かけ流しである。実家の魔導師と雇ったドワーフの建築士が頑張って温泉を引いてくれてできた自慢の設備。数キロ先に鉱山の跡地があるらしく、水を沸かす魔道具を組み込むよりこっちの方が早かったらしい。
お風呂場のお湯にはハンドルがついていて、まるで水道のようだが、単純にお湯の出口をかえているだけとの事。お風呂場にお湯が出ていないときは屋敷の中をめぐって最後は国境の峡谷へ排出される。つまりは床暖房である。話を聞いたとき日本での床暖房同様、湿気が室内に漏れ出てこないことに感動した。家がカビだらけになるのは勘弁である。
浴槽のお湯の出口には1段目と2段目の受け皿があり、1段目は汲んで使うようで温度が高い。2段目はいわゆる浴槽だ。入る前に水で薄められるよう、隣に小さな水風呂もある。そしてここから出る排水は下水へ流れていく。この下水の為の排水工事を考えると改築に何年も要したことにも頷ける。
そんなお気に入りの場所は増設によって作られた。改築前のシャワールームでは浴槽を入れるには狭すぎたからだ。今日は午前中の水やりが少し早く終わったので昼風呂としゃれ込み、ホカホカしながら昼食を食べた。
食後の読書をしていると、来客を知らせるベルが鳴ったので窓からのぞくと見知った顔ぶれが手を振っていた。
「おじいちゃん!キャロル!クレメントも!!わーい!」
実家の庭師とメイド見習い、そして魔導師のトップが揃って遊びに来てくれたのだ。
「入って入って!みんな久しぶり!わー!元気だった?おじいちゃん腰大丈夫?」
「おーおー、お嬢は元気だったようだな。面倒ごとは若いのに任せてるからな。ワシはやりたいことだけやっているよ。」
「イヴ~っ!会いたかったー!!」
「キャロル!私も!会いに来てくれて嬉しい!」
魔導師のクレメントは荷物を下したり馬を休ませる支持を部下に出してからこちらにやってきた。
「イヴ、数週間一人で暮らしてどうでしたか?不便はありませんか?」
「あ!そうだ!結界のことでお願いがあるの!クレメントあのねっ」
「はいはい、ゆっくり聞きますから。座って話しましょう。」
「そうだね!紅茶出すね!入って入って!」
キャロルはメイド見習いだからきっと手伝ってくれるだろう。手を取って地下の食糧庫へ連れていき、食べたい果物と作り置きしていたクッキーも一緒に運んだ。
「あれ、1人で食べきるのに何か月かかるの?」
「畑での収穫分もあるから…。どれくらいだろうね?空になることはなさそう。」
「食料準備担当はメイド長だったっけ…。あ、これ胡椒?!どんだけ気合入れたのあの人…。」
「すごいよね。」
キャロルは乾いた笑いをもらしていた。厳しい上司に対してこの態度が許されるのはキャロルがメイド長の娘だからに他ならない。なので一緒に来たクレメントやボーリスがこの態度を見たとしても叱責することもないだろう。キッチンでお湯を沸かしているところにクレメントがやってきた。貯蔵庫設備のお礼と胡椒の件を話したらやっぱり笑った。
「ハハハッ!そりゃ凄い!まぁ子爵家での粗食を考えたら気持ちも分かるよ」
「あれを粗食って言ったら修道院や孤児院に失礼よ!残飯だったじゃない!」
「そうだね。でも工夫してその残飯が立派な粗食になってたじゃないか」
「ん~、でもぉ…。」
「もちろん彼らの対応を擁護するわけじゃない。それはその内行動で示すよ」
なんとも含みのある締めくくりで会話を終え、応接間の扉を開くとボーリスが既に座っていた。
「お待たせしました」
「いやいや、座り心地の良い椅子だ。何時間でも座っていられるわ」
「わざわざ応接室なんて使わなくても…。リビングで十分なのに」
「こういう時でないと使えない部屋じゃないか」
「おじいちゃんが立派な部屋を使えないって意味よね?客が来ないと使えない部屋って意味じゃなくて」
「年寄りを労わらんか」
相変わらずの掛け合いにクレメントと目を合わせて笑った。プラスティラス家では親の目があったしいつも空腹だったが、こうして仲間と笑っていた。あの頃は食事に困らない日常に憧れていたが、今は仲間に飢えているなんて。どんな状況でも何かしら不満が起こるのだから私は心底我儘だと思い知らされる。




