プロローグ
ずっと書き溜めていた物です。
12歳が思ったより長くなり、せっかくだからと投稿を決意しました。
どうぞお付き合いください。
彼と初めて会ったのは真夏の街中で。酷い顔色で自販機の前でうずくまっていたので声をかけ、熱中症かもしれないと慌てて救急車を呼んだのだ。彼が腕を掴んで離さなかったので私も救急車に連れ添って、点滴が終わるまで傍にいた。二度目はお礼がしたいと言われて一緒に出掛けた。相手が年上の男性だった事もあり警戒しないでもなかったが行ってみたら優しく穏やかな人で、同い年の男子から漂う生々しい浮ついた優しさは一切なかった。それから勉強を教えてもらうようになり頻繁に会うようになった。好きになるのに時間はかからなかった。
彼は度々酷い顔色で訪れることがあり、勉強を見てもらう数時間のうちに元気になっているという事がよくあったので、不思議に思いたずねると「見える」体質でそれ故に巻き込まれやすいのだと語った。そして、私は自分が反霊媒体質という事を伝えられた。幽霊なんて一度も見た事ないけど、私はその話を自然に信じた。
下手なお祓いより私といた方がよっぽど効くという事で、勉強を教わらない日も会うことが増えた。私は彼を好きだったこともあり積極的に約束をとりつけてはいたが、年が5つ離れている事もあり告白することは出来なかった。
妹のようにであってもかわいがってくれていることは十分わかっていた。何より自分は彼の役に立っていると思わせてくれていたこともあり、私はこの関係にそこそこ満足していた。
そして現在、そんな走馬燈を見ている私はおそらく数十秒後には死んでしまうのだろう。修学旅行の帰りのバスが突然の衝撃の後、大きく傾いた。シートベルトに意味があったのか、どこかにぶつけた頭から出血しているのを感じる。止血しようにも腕が動かせない。衝撃の際シートベルトに圧迫された胸から痛みと苦しさを感じる。骨が折れているのだろう。うめき声やクラスメイトの混乱の声が聞こえるのに、頭に血が回らなくなってきたせいか、不思議と恐怖はなかった。ただ、ぼんやりと彼を思った。
きっと、私がいなくなったら困るんじゃないかな。
「かみさま…。」
幽霊が見えない私には実感のない力だった。でも、その力のおかげで彼と仲良くなれた。
「かぃさ…ぁ」
もし出来る事ならば、私の持つ力の全てを彼に継承させてください。
「……――――――」
彼の今後に理不尽な試練を与えないでください。
もし、叶えてくださるのならば
私は、次の生で加護を貰えなくなったとしても、構いません。
結果として、次の人生は前世の記憶がある代わりに無能力者として生を受けました。
始まり始まり、なんつって。