第二話 カジール帝国と入国許可証
「なるほど、文章は理解した。そしてこの世界のことも大体理解した。多くのものがデジタルになり、人間に加えて機械でも判断が可能になったということか」
「むしろ、人間よりも機械の方が機能しているかと」
「今見つかるわけにはいかない……が、もっと情報を集めなければならない」
パラディンはゆっくりとパソコンを閉じるとマルに目を向けた。
「外へ出る。そして勇者の血族が統治している国入り、情報を探る」
「かしこまりました。ではまずはその国の情報からお教えしましょう」
「頼む」
「勇者の血族が統治している国の名は『カジール帝国』といいます。そして国に入るためには【入国許可証】というものが必要になります。これがまた厄介なのでございます」
「俺が【入国許可証】を入手できない可能性があると?」
「作用でございます」
「だが厄介ということは、入手できる手立てはあるということだな?」
「ええ、変装と偽名を使用するのです。その許可証を使って帝国に入り、情報を探るのです」
「なるほど、そのためにはまず協力者が必要だな。その許可証はどこで入手できる?」
「カジール帝国の入国管理館、または帝国の属国である国々の入国管理館で入手できます」
「ならまずは、属国の入国管理官だ。そこにいく。そして、そこにいるやつを一人仲間にする。それが許可証入手のための最低条件だ」
この言葉にマルは首を傾げた。
「なぜカジール帝国の入国管理館ではなく属国の方へ行くのですか?」
「あぁ、それはカジール帝国の入国管理館で手続きをすると高確率でバレる可能性があるからだ。考えてみろ? 帝国には無数のデジタルの目がある。手続きでバレる可能性は高い。俺たちはまだバレてはいけない」
「なるほど……」
「その点、属国はいい。管理官の誰かを仲間にして許可証を発行させれば、うまくカジール帝国に入ることができる」
「だから属国なのですね」
「現在地とここから一番近い属国はどこだ?」
「そうですねぇ。まずこの部屋はクレーター地帯A区域の中にあります。数あるクレーター区域の内の一つでございます。そしてここから最も近いのは、『自然の国フリュイ』と言われる国です。果物や草木がとても多く自然を感じられる国です。自然をもっと世界に広めるという国の方針から、入国に許可証は必要なく、あまりデジタルは浸透しておりません」
「へぇ、最適な国じゃないか」
パラディン生存時、つまり300年前は99.9%の土地がクレーターに覆われていた。しかし、それを不憫に感じたのか、人類は300年かけて必死に開拓し、見事に国を起こした。今ではクレーターは85%まで縮小し、多くの国に日が当たるようになった。
いまだ世界にはクレーター部分と国々の二種類しか存在しておらず、そのクレーターの大きさや広さはとても人が歩けるほどではない。さらにはA区域からD区域まで存在しており、その全てが等しくなく歪であるため、すべての国は無闇に立ち入らないよう巨大な壁を建設し閉鎖空間を保っている。だから多くの人は移動用飛行機や瞬間電動移動装置、つまり電気で動くテレポートを主に使用している。
「早速フリュイに行こう。何か移動手段はあるか?」
「はい。ご案内しますのでどうぞこちらへ」
マルはドアへと歩くと左手で音を立てないようにゆっくりと開ける。そのまま誘うように右手でパラディン招き、パラディンの後ろにつくようにしてドアを閉めた。そしてどこかへと歩き出した。
廊下はとても寒く少し薄暗い。小さい隙間から伸びる日光が所々を照らしているからだろう。その暗さを補うように蝋燭を灯しながら進んでいく。足音に反響してコツコツと音が廊下を走る。
5分ほど歩くとドアが見えできた。
「こちらのお部屋です」
マルが扉を開けて部屋に入るのを続くようにパラディンも入った。
「こ……これは? いったい?」
「はい。こちらが『瞬間電動移動装置』です」
大きな装置がパラディンの視界に入る。瞬間移動装置と呼ばれるこれは、俗に言うカプセルの中に入り電源を入れると瞬時に人が消え、目的の場所に移動していると言うものだ。さまざまな機械が合わさっており、構造が複雑ということが見てわかる。
「これを使えば一瞬でフリュイに行けるんだな」
「ええ、私はこの装置を使い、何度もフリュイへと訪れております」
「よし、なら早速行くか! ……ところであんなにも大きな装置を動かすには相応の電力が必要だろう? さっきのノートパソコンといい、電気の供給はどこからおこなっている?」
「ーーそれは、ヒミツでございます」
どうやら装置関連のことはヒミツらしい。とりあえずこの装置を使えばフリュイにいけるというので、パラディンは装置の中に入った。
「こちらは私が外部から作動するのもよし、あなた自身が内部から動かすこともできるので、一人でいつでもフリュイに行くことが可能です」
「たしかに移動先選択にフリュイがある」
パラディンが装置の中へと入った途端、何もないところから突然電子モニターが現れた。モニターは宙に浮いており、指で触ることができた。
「では、いってらっしゃいませ」
パラディンは決定ボタンを押すと瞬時に体が消え、装置の中には誰の姿も見えなかった。
「あ、帰り方を教えるのを忘れていましたね。まぁ、大丈夫でしょう」
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