理想
9月。
「全く、これで僕が君に宿題を見せるのは何回目かね。」
「仕方ねぇだろ……。バイトが立て込んで宿題なんてやる暇ねぇんだよ。」
公立|藤楽《とうらく高等学校2-B組。そこには、いつもの光景があった。
時期生徒会である、現生徒会副会長の桐山大樹
きりやま だいき
に、宿題を見せろと言う男、
彼こそ、2-B組の問題児、桃瀬逢河
ももせ あいが
。名前だけ見られれば可愛いとよく言われるだろう。しかしこの男、身長は180cm、体重は65kg、お腹には立派な腹筋が。俗に言う痩せマッチョ。
そして、彼の容姿で1番目立つのは身長ではなく、完璧なまでに整った顔に銀色の髪の毛に赤い瞳。見た目偏差値は75ぐらいだろう。可愛い雰囲気を醸し出してる名前と容姿が一致しない男だ。
けれど、この男は宿題を忘れる常習犯である。もちろん、宿題を忘れる。それは提出物を出さないということであり、無論成績は下がり、宿題をしてない為、授業の復習ができてない。よってテストの点も、なんとか赤点ではないギリギリのラインまでしか取れない。
つまり、この男、桃瀬逢河は成績が悪い。だが決して頭は悪くない。
「はぁ……。逢河、バイトが立て込んでることはよーく分かる。幼馴染だから君の家庭のことも知ってる。けれど成績下がって留年したら元も子もないぞ?」
「わかぁてるよ。だからギリギリのラインを保ってるの俺は。」
逢河の母は逢河を産んだ時に亡くなり、父は逢河が小学生の頃に事故死してる。中学3年まで、逢河は父方の祖父母の元で暮らしてた。
母方の祖父母は逢河が生まれる前にはもういなく、親戚も不明。父方の祖母は逢河が小6の時に病死しており、それから中学3年までは祖父と暮らしてた。
けれど、高校入学時、祖父も病気で亡くなり、逢河は1人になってしまった。祖父母と住んでた家は借家だった為、逢河は退去を余儀なくされた。高校入学1ヶ月程は大樹の家にお邪魔してたものの、社宅付きのバイトを見つけ、今はそこに住んでる。
「……次はないからな」
いつも断ろうとする大樹だが、やはり幼馴染の境遇のことを考えれば仕方ないのかもしれない。
社宅とはいえ、月に数万円の家賃、生活費に携帯代、学費は奨学金で何とか補ってるものの、将来的にこれは借金な為、奨学金は少額でやりくり。もちろんバイトも3つほど掛け持ちしてる。
「わり。いつもありがとな。」
大樹は結局いつも逢河に宿題を見せてる。
「……辛かったら、また家に転がり込んできてもいいからな……?母さんも父さんもお前のこと心配してる。」
「いや、大丈夫だ。これ以上おばさんやおじさん達に迷惑はかけたくない。あ、宿題はさんきゅうな」
逢河は宿題を返した。丁度1時間目の予鈴が鳴った。
「ねっむ……少しだけ……」
クラスメイトがノートを出したり教科書開いたり、シャー芯を詰めたり、各々授業の準備を始める。
しかしそんな中、逢河は、伏せるように眠る。
周りからは、普段のバイト疲れが原因だと思われ、そっとされてる。
逢河の睡眠は、仮眠ではなく、爆睡でもない。寝息も立てずに、寝言も言わない。周りからは過労で死んでるんじゃないかと何回も疑われた。けれど2限目3限目辺りになると何事も無かったかのように目が覚める。
きっと、逢河は、夢に集中してるのかもしれない
放課後
「桃瀬、今日部活は?」
「わり、今日もバイトだわ」
同じクラスの部活仲間にそう言われても、逢河はバイトだといいその場を去る。逢河は、フットサル部に所属しているものの、練習や試合にはほぼ参加してない。
「桃瀬君ってさー、高身長でイケメンで妖艶な雰囲気あるけどさー、好きになる?」
「ないない。性欲無さそうだし、付き合ったとしてもバイトって理由つけてデートしなさそう。」
クラスの女子はそう言う。逢河は決してモテないわけじゃない。けれど逢河の私生活的に、逢河に好意を抱く女子はいるものの、誰も付き合いたいとは思えない。
「桃瀬先輩のプレイ、1回だけ見たことあるけどほんとに上手だよな~」
「今年の大会、桃瀬先輩いたら100%全国行けたのにな。勿体ないよ。」
フットサル部の後輩はそう言う。そう、逢河は運動神経抜群。50m走は5.9秒。 ソフトボール投げは野球部より飛び、スポーツテストはほぼ満点。バイトで力仕事をしてる為か、筋肉もついてる。同級生も後輩も、バイトばっかしなければ確実にもっとモテていただろうと言われる。
しかし、逢河は誰からも告白されない。何故ならバイトばっかりしてるから。平日は朝5時から7時半まで飲食店で仕込みのバイトを行い、8時から16時までは学校で過ごし、17時から21時までは別の飲食店で接客を行ったりキッチンで働いたり。
帰宅後、22時からは内職。パソコンでデータを打ち込む。2時間ぐらいしたら睡眠。
睡眠時間は約4時間。
その4時間で逢河は夢を見る。
そして、逢河は学校を後にし、バイト先のレストランに向かった。
「桃瀬君、君毎日のようにシフト入ってるじゃん。大丈夫なの?」
「しっかり睡眠はとれてるので大丈夫ですよ。ありがとうございます、店長」
逢河の行動はバイト先の店長や仲間達にも心配されてた。
何事もなく、シフトを終え、逢河は帰路に至った。
社宅はバイト先から徒歩で15分ぐらい。逢河は住宅街を歩いていた。右折すればそろそろ社宅だ。というところだった。
「やっと逢えたね、お兄ちゃん」
背後から声が聞こえた。逢河は振り向いた。
すると、そこには、自分と同じ髪色、自分と同じ目の色をしている、夢の中の少女が現れた。