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ドッペルゲンガーの成り代わり  作者: きらりらら
凶弾と宗教
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第69話 ドッペルゲンガーとギルド長

「どうだった?」

「その様子だとうまくいったようですな。」

 サヘラン・シーブルと契約を結んだ僕はすぐさまシャロン号に飛び乗り、王都の屋敷へ矢の如く舞い戻った。屋敷に着く頃には日が沈みかけていて、みすぼらしい冒険者姿で貴族街をうろついても咎める私兵の姿はなかった。屋敷に入ると従者の皆が総出で僕を出迎えてくれた。

「サヘランの魔銃の密輸の護衛にラミィとして就くことになりました。」

「賢者のくせに犯罪に手を染めるのか?」

 ケタケタと上機嫌に笑うセラにナターシャは咎めるような視線を向けるが、本人は一切気づいていない様子だ。

「依頼を受けたラミィは賢者ではありません。卑しい身分のただ一人の冒険者です。」

 僕は力なく笑い、そして憐れむような視線を向けてくるナターシャから顔をそらす。

「皆さん、気にしないでください。僕が決めたことですから。」

 そう言って靴を脱ぎ捨てた僕は皆とリビングの方へ向かった。

「ラミィ殿。決めてしまった以上、もう失敗は許されませんぞ。」

 ジェフの言葉に僕は力強くうなずく。

 密輸の片棒を担ぐこととなった罪人の僕に残された選択肢は一つしかなかった。

「分かっています。根回しと口封じですよね。」

 ばれなければ犯罪ではないとはよく言ったものだ。

 これから僕がやるべきことは僕の犯罪の証拠をもみ消すための準備と優秀な冒険家に成りすますための下準備だ。これら二つを同時にわずか四日以内に成し遂げなければならない。

 リビングの扉の隙間から漏れるかぼちゃの香りが僕の憂鬱をほんの少し和らげた。リビングの扉を開けると、テーブルの中央に置かれたかぼちゃスープから湯気が立ち込めており、蒸した川魚が食器の上に添えられていた。皆がテーブルに着くと各々のペースで夕食にかぶりついた。

 その最中、カーサスが不意に僕を呼びかけた。

「ラミィ。」

 くしゃくしゃに丸めた紙切れを僕の方に投げつけてくる。それを受け取り広げると、そこには殴り書きされた店の名前と地図が記されていた。僕は思わずカーサスの方を見やる。

「魔法道具が売っている店だ。店主にはすでに話を通してある。素人でも使える魔法道具があるかもしれない。」

「ありがとうございます……。カーサスさん。」

「しばらく行けてないから店主によろしく言っておいてくれ。」

 そう告げ終えるとカーサスは大きな音を立ててスープを飲み干した。カーサスから貰った地図を失くさないよう懐にしまい込むとナターシャが僕に尋ねてきた。

「次はどうするの?」

 僕は頭を掻きながら自分の思いつく限りの考えを述べていく。

「密輸をした証拠が何になるのかを調べたいと思います。」

「それでしたら、ギルドに聞くのが早いでしょうな。」

「ギルド……」

 ジェフの助言に僕は立ち上るスープの湯気をぼんやりと眺める。

 ギルドの受付嬢に密輸をするなどと宣言すれば、たちまち王国騎士団に通報されてしまうだろう。それなら事情に詳しいギルド長に話を通しておく必要がある。ギルド本部が置かれているリルカシアまで往復で二日かかるから先にそちらを済ませておくべきだろう。

 あまりにも忙しない予定に頭を抱えたくなる。

 だが、そんな暇はない。

「明日の朝一で僕はリルカシアに向かいます。皆さんは屋敷の留守をお願いします!」

 ここが踏ん張り時だと自信に鞭を振るかのように僕は熱々のスープを勢いよく流し込んだ。




 リルカシアはあいにくの雨だった。

 外套を目深にかぶり足早に駅でたむろしている人の群れをすり抜ける。

 町はずれの高台から見渡せる運河の景色は前に訪れた時と大きく変わっていた。青く輝く穏やかな海は灰色に変わり大きなうなりを上げ、運河に浮かぶ船の影も全く見えなくなっていた。

 雨が激しく振るだけで海、いや、運河とはこんなにも変わるのかと山育ちの僕は感心したが、そんな感慨にふけっている時間はない。

 急ぎ足で通りを抜けるとレンガ造りのギルド本部の建物が見えてきた。

 建物の中に入り、外套に付いた水滴を払い落すと僕は他の冒険者たちを押しのけて受付嬢に声をかけた。順番を抜かされた冒険者たちが不快な目を向けているが、そんなこと知ったことではない。突然押しかけて来た僕の切羽詰まった姿に受付嬢の目の下にある涙ぼくろが揺れていた。

「エレナ・アレストラだ。今すぐにギルド長に会わせてほしい。」

「ええ……、承知しました。」

 僕はそっと胸をなでおろす。

 事前の面会の予約もなしにギルド長に会えるか危惧していたが、どうやら杞憂に終わりそうだ。

 幸いなことに、受付嬢が前に僕が訪れた時と同じ人(アリシア)だったのも助かった。

 受付嬢が業務を止めて奥に姿を消す。しばらく経って戻って来た受付嬢が僕をギルド長の部屋に案内してくれた。列をなしていた冒険者たちが僕のことを好奇に満ちた目で見てくるが、一切相手にしないことにする。

 ギルド長の部屋に入ると、相変わらずラフな格好をした新緑色の髪の女性、ネイビー・シーブルが書類の山と奮闘していた。

「アリシア。業務に戻っていいわよ。」

 ギルド長の命令にアリシアは無言で頭を下げてその場を去っていった。

 扉が閉まる音がした瞬間にネイビーは大きなため息をついた。

「人に会う時は事前に予約しておく。これが社会の鉄則よ。ラミィさん?」

 僕の本名を言い当てられて一瞬心が揺らいでしまう。

 動揺が僕の顔に現れていたのか、僕を見てネイビーはクスクスと笑っていた。

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