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ドッペルゲンガーの成り代わり  作者: きらりらら
凶弾と宗教
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第67話 ドッペルゲンガーと地上げ屋

「儲け話?」

 僕が尋ね返したところで先ほどの家政婦がティーワゴンを押して再び応接間に入って来た。空になったカップに淹れ直した紅茶を注ぎ終えると、サヘランが彼女を呼び止めた。

「今から大事な商談をすることになった。私が合図を出すまでこの部屋に立ち入らないように。」

 主の言葉に家政婦は黙って一礼すると、僕に鋭い視線を飛ばして応接間を出て行った。

「気分を害してしまったなら私から謝ろう。」

「いえ、大丈夫です。」

「どうか許してほしい。彼女は私の両親が存命だった頃からこの屋敷に仕えていてね。人一倍シーブル家に対する忠誠心が強くて、よそ者にも警戒心をむき出しにしてしまうんだ。」

「そうなんですね。良い従者をお持ちで。」

 適当にほめて紅茶をすする。

 僕の誉め言葉にサヘランの目じりがほんの少し垂れ下がっていた。いつの間にか僕に対する警戒心を解いてくれたようだ。

「それで?話とは?」

 僕が改めて尋ねるとサヘランが口にする。



「魔銃」



「ラミィ様は魔銃をご存じかね?」

 サヘランが口にした思いがけない言葉に僕は思わず声を上げそうになる。

 一呼吸しながら高鳴る鼓動を沈めて、僕はうなずき返した。

「おや?知っているのかね?」

「噂程度ですが……」

 僕の言葉を聞いてサヘランは魔銃の説明を始める。

「殺傷能力が高い魔法の銃です。元々はエスタニア公国のものだったが、今ではハイランド王国にも出回り始めているらしい。なんでも騎士団の鎧すら粉砕してしまう力があるそうです。」

「そんな危険な代物が世に出回ったら、王国から規制が入るのでは?」

「将来的にはそうなるでしょう。」

 サヘランの口元がにやりと歪む。

「商機は今です。」

 サヘランの言わんとしていることを察して僕はうなずく。

「つまり、規制される前に魔銃を売りさばけば一儲けできるというわけですね?」

「話が早いですなぁ……。ラミィ様。」

 まさかこの男も王国の執政に関わる賢者に犯罪計画を話しているとは夢にも思っていないのだろう。つくづく運のない、商才に恵まれない男だと腹がよじれそうになる。

 笑いを必死にこらえながら話を進めていく。

「では、売りさばく魔銃をすでに所持しているのですか?」

 サヘランは首を横に振る。

 ここで首を縦に振ってくれれば、賢者の仕事が全て片付くのにと落胆せずにはいられない。

「ですが、エスタニア公国からの入手経路はすでに確保しています。」

「ほぅ……」

 僕は乗り気になったふりをして身を乗り出す。

「陸路を使います。」

 陸路でエスタニア公国まで行くということはぺテルゼウス山脈に敷かれた街道が通るオラストべリア峡谷を通ることになる。険しい道のりになるし、海路の方がはるかに安全だろう。あふれ出てくる疑問をサヘランにぶつけた。

「海路は使わないのですか?陸路だと山賊に出くわす危険もある。」

「海はだめだ!」

 サヘランがテーブルを叩いた。

 テーブルの上に置かれた紅茶の液面が大きく跳ねる。

 しわまみれの顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。

「海を使えば、アイツの検閲に引っかかる!アイツに生殺与奪の権利を握られてなるものか!」

 サヘランは鼻息を荒げて肩で息をしている。

 アイツとは十中八九妹のネイビーのことだろう。海路での商売についてはギルドに加入している商人にしか認められておらず、安全な海路で魔銃を輸入するとなれば妹の支配下に置かれることになる。

 プライドの高い兄にはもはや危険な陸路しか残されていなかった。

「そこで、あなたに魔銃を輸送する護衛を依頼したい。」

 なるほど、そう来たか……

 ギルドで一騎当千の活躍をしたことになっているラミィを護衛にすれば、どんな山賊が来ようとも簡単に退けられると判断したのだろう。

 ただ、その功績は僕のものではなく、エレナのものだ。

 僕に山賊を退けることなど到底不可能だ。

「報酬金は魔銃の売り上げの40%でどうでしょうか?いや、45%でどうでしょう……?」

 だが、折角相手が弱みを見せてきたのだ。

 この弱みを妹のネイビーに報告すれば、兄を牽制するには十分な取引材料となる。

「その前に……」

 後は僕にとって簡単な依頼かどうかの問題だ。陸路が安全であれば、護衛する力が僕になくても何の問題もない。ならば、偶々山賊に襲撃された以外の可能性を全て潰しておくべきだ。

 例えば、サヘランが誰からか恨みを買っていないか……?

 この儲け話を知る者は他にいないか……?

 僕は早速疑問をぶつけてみた。

「その儲け話は誰から勧められましたか?」

「オストワルド・ヒンダーだ。」

 地上げ屋と呼ばれ、厳粛な王城に来て土地を押し売りしようとする見知った男の名前に僕は思わず頭を抱えた。頭を抱える僕にサヘランが疑問符を抱いている様子だったので、僕は慌てて咳を払った。

「なぜその人があなたに儲け話を持ち掛けてきたのですか?」

「持ち掛けてきてはいない!」

 サヘランは強く否定した。

 しかし、しばらくの沈黙が続いた後、どこかばつが悪そうな顔をして呟く。

「ジュナード領とか言う田舎の土地を押し売りしようとしてきた時に魔銃の話をつぶやいていたのだ……。それを聞いてひらめいたのだ。」

 僕の故郷がまだ売れ残っている事実にどこか悲しくなったが、話を聞く限り、オストワルドに誘導されている可能性も考えられる。

「その男に恨まれるようなことをしていませんか?」

 僕の問いに先ほどまで赤かった顔色が元の色白い肌色に戻っていく。しばしの沈黙が続く中、僕はサヘランを追求するように睨みつけた。やがて根負けしたサヘランが深いため息をついた。

「あなたへ依頼する理由はそこにあります。」

 やはり僕のにらんだ通りだ。

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