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ドッペルゲンガーの成り代わり  作者: きらりらら
凶弾と宗教
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第65話 ドッペルゲンガーの再起

 僕は朝一番の蒸気機関車シャロン号に乗り込んだ。僕なりに辺りを警戒しながらシャロン号の一等室へ転がり込んだ。後ろ手に扉にカギをかけて持ってきた荷物を部屋の隅に放り投げると、ソファーに身を投げ出した。

 とりあえず殺されていないことにそっと胸をなで下ろす。

 そして、磨き上げられた天井を見上げながら昨日の会議のことを思い返していた。




「まず、捜査の基本は現場だ。」

「ラミィが書いた書状が本当にサヘラン・シーブルに届いているのかも確認したいわね。」

 カーサスとナターシャの意見に僕とアレストラ家の従者達が一斉に頷く。

「ですが、ラミィ殿が直接行くのは避けた方が良いですな。」

「国王にも言われましたが、やはりジェフさんもそう思いますか?」

 ジェフは静かに頷くが、どうも納得がいかない。

 王政を支える賢者様が直接出向いたとなれば、地方貴族は喜び舞い上がるのではないかと言う僕の愚痴にジェフは諭すように答えた。

「喜ぶ者もいれば、利用してやろうと企む輩もおります。サヘラン・シーブルは明らかに後者です。」

 ジェフは更に言葉を続ける。

「商魂たくましいお方が相手であれば尚更、足下を見られるような行為は避けるべきでしょうな。」

 カーサスの集めた情報によると、サヘラン・シーブルは勘当した妹に対抗心を燃やしてあらゆる商売に手を出して失敗ばかりしている男だ。主導権を握られる状態になってはいけないと心に留めておく。

「それじゃあ、どうするんだよ?」

 長く続く会議にとうとうセラが苛立ちを見せ始める。

 この場にいる誰も答えることができないからこそ、僕には打つ手がなかったわけだ。

「そこでラミィ殿は手詰まりを起こしたわけですな?」

 ジェフの改めての指摘に僕は頷いた。

皆が頭を抱えて考え込む中、カーサスがポツリと呟いた。

「こういう時は自分の手札を見るんだ。」

 僕は思わずカーサスの方を振り向いた。

「俺が尊敬するとある人物の言葉だ。」

「カーサスも尊敬できる奴がいたんだな?」

「おいおい……、お前は俺のことをなんだと思っているんだ?」

 セラとカーサスのやり取りを尻目に僕は考え込んだ。

「手札……手札……!そうだ……!」

 勢いよく立ち上がって背後で椅子が倒れる音すら忘れて僕はカーサスに歩み寄った。

「カーサスさん!僕にも一つだけ武器がありましたよ!」

 唖然としているカーサスの手を握りしめ、僕は皆に感謝の言葉を述べて回った。




 作戦を思いついてからの行動は早かった。

 何よりも皆で作戦の詳細を詰めてくれたおかげもあるし、日が昇らないうちに出かけた方が良いとジェフからの助言のおかげもあるだろう。

「けど、エレナに付きまとう奴らって何者なんだろうなぁ……」

 車窓を流れるペテルゼウス山脈を眺めながら、僕は王都に来て初めて会った黒服の集団のことを思い出す。

 人がひしめき合う市場を駆け抜け、屋根の上を走る身体能力はまず常人では考えられない。噂程度でしか聞いたことはなかったが、暗殺者と呼ばれる特別な集団だとしか考えられない。

 戦争をすることで得になる連中がいる……

 エレナはそう評していた。

 戦争で故郷を消された身としては憤りを覚えるが、戦争の武器を扱う武器商人、戦争で負った怪我を治す医者や薬師、戦争のエネルギーを扱う炭鉱業者と得する者を挙げればキリがない。

 ただ、暗殺者を使って賢者を襲うような連中だ。

 国政を支える賢者が襲われたとなれば、国王も黙ってはいない。一介の商人や貴族程度が国に喧嘩を売るとは考えにくい。暗殺者達を捕縛したところで黒幕にはたどり着けないか、国王よりも権力を持っているかのどちらかだろう。

「……だとすれば、スヴェン・コルラシア伯爵なのかな?」

 トロイ鉱石が眠るペテルゼウス山脈を眺めていたからそんな言葉が出てきたのだろう。

 鉱石王と呼ばれ、トロイ鉱石という国の生活に関わる資源を掌握する男なら暗殺者を雇うことも、国と喧嘩する権力も持ち合わせている。戦争が続けばトロイ鉱石が売れることは間違いないのだから容疑者候補の一人だ。

『賢者様には私が金儲け大好きな守銭奴のように見えますかな?』

 スヴェン伯爵の言葉が不意に脳裏をよぎる。

 まるで金に執着していないような言い方だった。

『実に興味深い!』

 金や権力にはすでに興味がないと言わんばかりの台詞だ。

 もしもスヴェン伯爵が犯人だったとして、戦争を起こしたのが金や権力目的でないとしたら、何のために戦争を引き起こすのだろうか?

「金持ちの考えていることなんか貧乏人の僕には分かりっこないか……」

 車窓の外を流れていく景色が徐々に止まっていく。

「そう言えば、クロエは元気にしているかなぁ……」

 車窓に向かって一人呟く。

 目の前に見える山脈のどこかにあるアベルジャで彼女は元気にしているのだろうか……

 シャロン号が大きな唸りを上げて駅に止まった。

 すでに荷物を詰め込んだ鞄を背負うと、僕は部屋を後にした。

 停車した駅の名はマース。サヘラン・シーブルが治める領地に僕は降り立った。

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