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ドッペルゲンガーの成り代わり  作者: きらりらら
凶弾と宗教
55/74

第55話 ドッペルゲンガーの頼みの綱 

「出所を探るとかアンタに何か考えがあるの?」

 兵士達がぞろぞろと王室を退室する後に続いて、王室を出たところでナターシャが僕に疑問をぶつける。僕は笑って誤魔化すほかなかった。僕みたいな愚者が簡単に思いつくなら賢者なんて要らないだろう。

 そんな愚痴をこぼす僕をナターシャが白けた顔で見つめてきた。

「で……でも、ナターシャさんが良いヒントを出してくれたじゃないですか。」

「私が……?」

 ナターシャが素っ頓狂な声を上げる。

「ええ。エスタニア公国から持ち込まれたんじゃないかって?」

 ナターシャが首をかしげている。僕はさらに話を続けた。

「商人名簿ですよ。」

「ああ……、お嬢様と商人ギルド長の取引材料となったものですか?」

 ようやく理解したようでナターシャが手を叩いた。

「そこに魔銃を輸入した商人の名前があるかもしれません。」

「けど、魔銃を持ち込んだのは商人だって言う確証はあるの?」

「……ありませんね。」

「呆れた……」

 二人で問答を繰り返していると王室の扉がゆっくりと開かれた。

「賢者殿。まだここにいたのですか?」

 王室から顔を出したアルス国務長官が僕に声をかける。相変わらず不機嫌そうな顔を浮かべて話しづらい雰囲気だが、僕には彼にお願いしなければならないことがある。本来その目的のために王城に来たのだから、不機嫌そうだろうが何だろうが、頼み込むしかない。

「アルスさん、一つお願いがあるんだけど……」

 顔の前で両手を合わせる僕をアルス国務長官は無機質な表情で見つめてくる。僕も負けじと上目遣いでアルスの籠絡を試みる。エレナへの恋心という弱みがある分、こちらが圧倒的に有利のはずだ。

「サヘラン・シーブルに会うことってできませんか?」

「できませんね。自分でアポイントを取ってください。」

 ピシャリと断ると、何事もなかったかのようにアルスは足早に去ってしまった。

「ちょっと!どうするのよ!」

「うん、いけると思ったんですけどね……」

 焦るナターシャに僕は頭を掻きながら考える。

 この前もエレナの上目遣いをして無理を通せたから今回もいけると踏んだのだが、意外と素っ気ない態度を取られてしまった。恐らく馬車で送る約束を破ったことをまだ根に持っているのだろう。

 国務長官に断られたとなると、ガウス国王に頼んでみるしかないだろう。

 去りゆく国務長官の背中を見送り、僕は王室の扉を再び開けた。

 王室に若々しい声だけが響いていた。国王が佇むその足下を少年と少女が駆け回っていた。王室の扉が開いたことに気づいて、少女がガウス王の袖を引っ張った。

「おう、賢者様か。」

 そう呟くと国王は足下を走り回る少年を抱きかかえた。

「国王様の娘さんと息子さんですか?」

「ああ、そうだ。長女のニーナと次男のリヒターだ。」

 紹介された子ども達がおずおずと僕に頭を下げてきた。

 二人とも国王と違う金髪は今は亡き王妃様譲りだろう。そして、僕を真っ直ぐに見つめる長女の栗色の目は父親とそっくりで支配者に相応しい目をしていた。一方、国王に抱きかかえられた次男はまだ幼く、僕の姿を見て戸惑っているようだった。

 次期国王となるであろう子ども達と対面して耽ている僕にガウス王が声をかける。

「何か用があるんだろう?話があるなら二人を退室させようか?」

「と……とんでもないです!単純なお願いだけですので。」

 王の気遣いに僕は勢いよく首を横に振り、本題を切り出した。

「サヘラン・シーブルに会うことはできませんか?」

「サヘラン・シーブル?ああ、商業ギルド長の兄君だったな。噂で聞いたことがある。」

「魔銃の出所を突き止めるために会う必要があるのですが、相手と会う口実が欲しいのです。」

 僕のお願いに国王はしばらく考え込むと首を横に振った。

「口実とはいえ、俺の名前を使うことは難しいな。政局に大きく関わる内容なら可能だが、そうではないのだろう?」

「ええ、ネイビーさんから兄妹アピールをしている兄を止めるよう依頼されていて、その報酬が商人名簿なのです。それさえあれば商人からの魔銃の流通経路は判明すると思います。」

 僕の言葉に顎をさすりながらしばらく一考してくれたようだが、それでもガウス王は拒絶する。

「駄目だな。呼び出す目的が余りにも私権的すぎる。国王の権限を乱用することになりかねん。」

 頑なに断るガウス王に僕はダメ元の提案をしてみる。

「王の勅命とか出せないですか?」

「それこそ国王の権利乱用でしょ……」

 話を聞いていたナターシャからのツッコミが先に入る。国王も呆れた目つきで僕を見ていた。

「忘れるな、賢者様。」

 息子達と戯れる優しげな目から鋭い目を僕にぶつけてくる。その変わりように抱きかかえられた次男は無邪気に笑っているが、足下にいる国王の娘さんから小さな悲鳴が漏れる。



「俺たちの戦争を止めると言う任務は()()()()()()()()()()()という前提の上で成り立つのだ。」



 今の政治を崩すことなく、戦争だけを止める。 

 自身の変革なくして戦争を止めることができるのだろうか……

 国王の言葉にもやがかかったような感情を抱いたが、国王の突き刺すような鋭い視線に僕は小さく頷くことしかできなかった。

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