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ドッペルゲンガーの成り代わり  作者: きらりらら
凶弾と宗教
46/74

第46話 ドッペルゲンガーの電撃宣言

「商人名簿を拝借したい。」

 聞いたこともない言葉に僕は呆然とする。

 その一方でネイビーは微笑みを絶やすことなく静かにエレナの話を聞いている。

「ギルドに登録されている商人達の活動記録をまとめた名簿を見せてくれないだろうか?」

「それは王国にも渡しているはずですが……」

()()()()()()()()()()()()を見せて欲しい。」

 エレナの一言に場の空気が一気に張り詰める。

 状況を今一つ飲み込めない僕はその緊張感から居たたまれない気持ちになる。

 窓の外から聞こえる小波の音が途絶えた後、ネイビーはクスッとはにかんだ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?賢者様?」

 ネイビーは言葉を続ける。

「商人達に不穏な動きがないか王国が把握しておきたいと申し出てきたから、商人名簿を渡しているのですよ。貴族でもない一市民が王様に嘘ついたら虚偽申告罪で斬首刑ですわ。」

 エレナは首を横に振った。

「あなたが嘘をついているかどうかはどうでも良い。」

 エレナは顔を上げてネイビーの目を覗き込むように見つめた。

「では、どうして名簿を拝借したい等とおっしゃるのですか?」

 エレナの真っ直ぐな瞳に意を介することなくネイビーは淡々と尋ねた。




「戦争を終わらせるためだ。」




 エレナの真意を聞いてもネイビーは眉一つ動かさず聞き入っている。

 ここまでの会話で、いつも明朗で弁の立つエレナも言葉を慎重に選んでいるのが僕にも分かる。

 賢者が苦戦するほどギルドマスターは一筋縄ではいかないようだ。

「戦争を終わらせることと商人名簿に何の関係がありますの?」

「戦争経済ですよ。」

 とぼけた態度のネイビーをエレナが睨み付ける。

 本物の賢者が発する眼光に隣で座っている僕も思わず震え上がる。

「戦争になれば戦争の武器やトロイ鉱石が売れるでしょう。戦争が長引けば得をする商売人がいます。それはどこの誰ですか?」

 エレナの指摘に長い沈黙が訪れる。

 その沈黙をネイビーの含み笑いが打ち破った。

「ウフフ……。冗談はよして下さい。賢者様。武器や兵器を持ち込まないよう王国が検閲しているのはご存じでしょう?」

「アテにならん。」

 エレナはきっぱりと拒絶する。

 賢者の今の言葉を聞いたら、検閲官達は絶句するに違いない。僕は思わず検閲官に同情する。

「戦争を終わらせたいんだ。力を貸してくれないだろうか?」

 エレナの言葉にネイビーはひとしきり天井を眺めた。

 そして静かにエレナに尋ねた。

「賢者様が戦争を終わらせたい理由は何ですか?」

「それは両国が共に手を取り合い……」



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は何ですか?」



 賢者の言葉を遮るようにネイビーの言葉は続く。

「凡人は何かを成し遂げたいと言っても三日目には諦めてしまうわ。やらない理由を必死に探して周りに文句を垂れ流すのが凡人のお決りよ。」

 冒険者として生き抜くために護身術を習いに通った剣道場を三日で止めた僕には耳の痛い話だ。

「でも、エレナ様はその凡人達と違って何か強い意志を持って取り組んでいるご様子。それを聞きたいの。金?名声?賞賛?名誉?自己満足?それとも承認欲求?」

 ネイビーの問いかけにエレナは黙っていた。

 自分のことで精一杯で一度も気にしなかったが、顧みるとエレナ個人の目的を聞いたことはなかった。賢者というのは彼女の役職であって、彼女の性格を指すわけではない。戦争が長引くことで利する勢力がいるように、戦争が終わることでエレナにとって何か利するところがあるのだろうかと想像を巡らせる。貴族との付き合いに辟易している様子を見るに、執政のご意見番としての地位を放棄したいとか単純な理由かもしれない。

「それで?商人名簿は見せてくれるのか?」

 不機嫌な様子で話題を切り替えるエレナにネイビーはクスクスと笑いを上げる。

 そして、エレナの問いにネイビーは首を横に振った。

「答えはノー。」

 ネイビーはエレナの申し出を断った。

「一つは商人の個人情報をあなたに見せるとギルドの信用が失われてしまう。もう一つはギルドの信用を失ってでもあなたに名簿を見せる価値がない。」

 ギルドに所属している商人達の情報を預かっている以上、賢者と言えど迂闊に情報を漏らすことはできないというネイビーの言葉に僕も内心頷いた。

「では、仕方が無い……」

 エレナが天を仰ぎ呟いた。

「もう一つ報告があります。」

 エレナはそう言うと、彼女の腕を僕の腕に絡ませた。突然の行動に僕もネイビーも戸惑っていた。



「私たち、結婚することになりました!」



 エレナの宣言に僕は驚きの声を上げた。


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