第40話 ドッペルゲンガーの追求
「ソーマ・コルラシア様。あなたが炭鉱籠城の首謀者だと考えています。」
僕の言葉で訪れた静寂を初めに破ったのはソーマ自身だった。
「おいおい!何を言っているんだ!」
ソーマは父親の前に出ると一気に僕の方へと詰め寄ってきた。
「とーちゃんから貰った炭鉱を自分の手で爆破する?ありえないだろ!」
今にも殴りかかってきそうな腕を上げて僕に突っかかってくる。
「私の従者があなたの従者に動機を聞いたんです。」
僕は大きき息をつく。
「それが疑いのきっかけでした。」
「マンスは俺の日頃の扱いに不満を感じていたんだろ!違うのか!」
「罪を認めた時、マンスさんはあなたのことを『ソーマ様』と呼んでいたんですよ。」
「それがどうしたんだよ?」
「嫌いな相手に様を付けて呼ぶのっておかしくないですか?」
ソーマが小さく吃驚の声を上げる。
「マンスさんがどうして敬意を込めて様付けであなたの名前を言ったのか?彼は主のためなら領民の命を差し出すほど忠義ある方でした。考えられるとすれば一つしかありません。」
僕は目の前にいるソーマの瞳を見た。
その瞳には怒りと焦りの感情が入り交じっていた。
「マンスさんがあなたのことをかばっているのではないかと。」
ソーマは振り上げた右腕を下ろした。
「そして、考えたんです。あなたが真犯人だった場合の目的は何かと?今日この城にたどり着くまで思いつかなかったですけどね……。」
ふと視線を外すと沈黙して佇むスヴェンの姿があった。
息子が本当に疑われている事実に困惑を隠しきれない様子だった。
「オストワルドさんとさっき廊下で会ったんです。彼が教えてくれたんです。」
「オストワルドって……あの地上げ屋のか……?」
僕はソーマに向かって頷いた。
「鉱山資源が採れなくなった時は王国から補償金が支給されるそうですね?」
ソーマは後ずさりした。
「オストワルドさんが教えてくれましたよ。補償金制度があるから鉱山はお買い得だって。」
明らかに狼狽しているソーマを追求するなら今が好機だ。
「山賊によって坑道が崩壊すれば、トロイ鉱石は採れなくなる。王国はあなたに補償金を支払い、あなたの鉱山からトロイ鉱石が全く採れないと思い込むことでしょう。」
僕の推測が更にソーマに追い討ちをかける。
「だけど、王国には報告していない第三の坑道が残る。そこで採掘したトロイ鉱石をどこに売ろうと王国は気づきやしない。王国より高く買い取ってくれる所に売ってもばれやしない。」
金がないと呟いていた領主の姿、私財である坑道を爆破しても執事達を路頭に迷わせず養っていく方法……
これら全てを一挙に解決する方法は、王国に監視されることなくより高く買い取ってくれる相手に売りつけること以外考えられない。
「ふざけるな!」
僕の推測を否定するかのようにソーマは地団駄を踏んだ。
「そんなの全部お前の妄想だ!証拠なんてありはしない!」
ソーマは国王の方を向いて、まるで窮地のヒロインが助けを求めるかのように手を伸ばした。
そう……。今まで語っていたことは全て推測に過ぎない。
「確かに一理あるな。賢者エレナ。証拠はあるのか?」
そう……。証拠はない……。
王の言葉に僕は答えることができない。
返事をしない僕を見てソーマは勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。
「国王陛下!失礼します!」
僕の背後で扉が開かれる音がした。
全員が扉の方を向いた。
「オストワルド殿を注意していたら遅くなりました。申し訳ございません。」
王室にいる全員が一斉に自分を見つめてくる奇妙な光景にアルス国務長官はたじろいだ。