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ドッペルゲンガーの成り代わり  作者: きらりらら
愚者と賢者
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第4話 ドッペルゲンガーの目覚め

「お嬢様!エレナお嬢様!」

 扉を激しく叩く音に僕は目を覚ました。

 眠気を振り払うように僕は頭を横に振った。

 フリルがついた袖から僕の手が出ているのが目に映った。

 僕は顔を起こした。

 僕の視界に大きな鏡が映った。

 鏡の中には紫のドレスを着たエレナが呆けた顔をして座り込んでいた。

 カギが外れる音がしたその瞬間、お団子状に髪を結った女性が流れ込んできた。

「エレナお嬢様!どこをうろついていたのですか!」

 その女性がかけている銀縁の眼鏡の奥から怒気に満ちた鋭い眼光が僕に向けられていた。

「勝手に屋敷を出ないとナターシャと約束しましたよね!お嬢様!」

 ナターシャと名乗る女性は僕の肩を掴んで強く揺すってきた。

 その揺さぶりで僕の眠気が一気に覚めていく。

 そして、僕の顔がみるみるうちに青く染まっていった。

「顔色が悪いですよ。お嬢様……?はっ!さては風邪ですか?風邪ですね?」

 興奮気味のナターシャは彼女の額を僕の額に押し当ててきた。

 僕は思わず後ろへ飛び退いた。

「大丈夫だ……。ナターシャ……。」

 飛び退いたにもかかわらず、ナターシャは素早く距離を詰めてくる。

「いえ!ちゃんと熱を計っておきましょう!」

 そう言うと、ナターシャの額が僕の額と触れ合った。

 体温を測るなら体温計を使えば良いじゃないかと言う僕の疑問はナターシャには聞き入れてくれなさそうだ。勝ち気な印象を与える目つきをしたナターシャの可憐な顔が近い。僕は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

「熱はなさそうですね。ナターシャ、安心しました!」

 ナターシャが離れるとほのかに香水の匂いが広がった。

 その匂いが僕を現実へと引き戻した。

「朝食の準備ができていますよ。さぁ、リビングに行きましょう。」

 ナターシャにリビングへ連れられていく中、僕は今の状況を整理することにした。


 ……僕は今、ラミィ・クレストリアではなくエレナになっている。




 エレナ持っていた小瓶の睡眠剤で僕は眠りについた。

 そして、僕が眠っている隙にエレナは僕にドレスを着せてエレナに仕立てたのだろう。なぜエレナがこんなことをしたかは分からない。

 だが、思考を止めるわけにはいかない。

 次に目の前のことから整理しよう。

 僕の袖を引っ張っている女性の名前はナターシャ。エレナの屋敷に仕える従者で僕をエレナだと思い込んでいる。この屋敷の大きさから見て従者はナターシャ一人だけではないのは明らかだ。リビングに行けばきっとエレナの両親が待ち構えているに違いない。




 いつこの誤解を解くべきか?




 問題はそこにあるようだ。

 早く真実を告げた方が良い。貴族の令嬢がどこの馬の骨かも分からない男と入れ替わっているのなら尚更だ。




 だが、真実を話して信用してもらえるだろうか?

 身代金を狙った貴族令嬢の誘拐犯と思われるかもしれない。

 そうなれば、身柄を拘束され誘拐の罪で死罪だろうか?

 僕の弁明は果たして信じてもらえるだろうか?




「お嬢様。何か考え事ですか?」

「いや。何でもない……。」

 ナターシャは首をかしげて僕を先導する。悶々と上の空で考え事をしながら階段を降りる主を心配しているのだろう。

 為すがままに連れられ僕は大きな茶色の扉の前に立った。ここに来るまでにナターシャ以外の人に出会っていないと言うことは、この扉の先に屋敷の住人が揃って待っているのだろう。

 ナターシャが扉をゆっくりと引く。

 僕はゆっくりと息を吐いた。

「おはようございます。エレナお嬢様。」

 三名の従者が僕を出迎えた。

 柔和な笑顔を見せる白髪混じりの老齢の男に僕に目線を合わせず虚空を見る銀髪のオールバックの若い男が僕の右手に、気だるそうな目で僕を睨みつけるそばかすの女性が僕の左手にそれぞれ整列していた。

 その奥に見える白いテーブルの上には湯気が沸き上がるカボチャスープと焼きたてのパンが五人分置かれていた。従者四人にエレナを合わせて五人分ということだろうか。

「エレナお嬢様。そこに立っていては料理が冷めてしまいますぞ。」

 白髪の従者が僕に声をかけた。僕は足早にテーブルの奥の席に座った。それを見た従者たちが次々とテーブルについた。

 偽物だと白状するならこのタイミングしかない。

「あの……」

「では、冷めない内にいただきましょうか。」

 なけなしの勇気を振り絞った僕の告白は白髪の従者によって遮られてしまった。

 従者たちはその言葉を期に黙々とパンを食べ始める。僕は慣れないフォークとナイフを使ってパンを食べ始めた。時々食器がぶつかる音が聞こえるだけの静かすぎる朝食だった。

 貴族の朝ご飯はそういうものだろうかと思い僕はそっと目線を上げた。

 誰とも目が合わない、はたまた従者たちが僕に目を合わせないようにしているのかは分からない。しかし、貴族らしくない僕のぎこちない作法に気づいている者はいないのは幸いだ。

 無言が続く中、罪悪感に押し潰されながらスープを飲み干すと、いつの間にか食べ終えていた従者たちが食器を手際よく下げていく。あっという間にテーブルから食器が片付けられていく様子を僕は呆然と見送った。

「どうしよう……」

 白状するチャンスを逃したことに後悔の念が押し寄せる。

「話があります。」

 いつの間にか白髪の従者が僕の真横に立っていた。


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