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ドッペルゲンガーの成り代わり  作者: きらりらら
炭鉱籠城事件
22/74

第22話 ドッペルゲンガーの色仕掛

「私が明朝、あなたの屋敷に迎えに行きますので。」

 明朝に出発することが決まり、ひとまずその場で解散することとなった。僕はジェフを連れて他の誰よりも早く王室を後にした。

 王室を出てしばらくして王の肖像画の前までたどり着くと、僕はジェフに尋ねた。

「ジェフさんは何か疑問に思ったことはない?」

「ふむ……」

 ジェフは眉間にしわを寄せてしばらく考え込むと手を叩いた。

「坑道を占拠した者達のことを山賊と言っていたのが気になりましたな。」

「山賊?」

 僕は思わず首をかしげる。

「山賊と言えば、どういうイメージがありますかな?」

 僕はギルドで働いていたときのことを思い返す。あれは僕が商人の護衛依頼を受けていて、山賊達の襲撃に遭った時のことだ。山賊達はやせ細った身体で農耕具を持って襲いかかってきた。山賊達は僕たちの護衛をすり抜けると金品には目もくれず、食料をわしづかみしていた。

「今日食べるもののために盗みを働く……」

「その通り。」

「でも、今回の山賊達は仲間の解放を求めていた?」

 仲間を一人救ったところで盗める量が劇的に増えるわけではない。むしろ、人数が増えた分、一人あたりの食べる量が減ることにつながりかねない。

 もっとも、ソーマが鉱山に現れた賊を単に『山』に現れた『賊』と呼んだ可能性も捨てきれない。

「山賊だったとしても、死刑囚を解放するために行動を起こすなんて、ヴェルグ死刑囚は相当慕われていたみたいですね。」

 そう言い残して僕は黙り込む。

 ヴェルグ死刑囚に話を聞けないだろうか……



「ヴェルグ死刑囚へ面会できるようお願いしますか?」

 僕の心理を見抜いたかのようなジェフの発言に肝を冷やす。

「あるものは何でも使え。アルス国務長官にお願いすれば可能でしょう。」

「まだ、王室に残っているかな?」

「急ぎましょう。」

 僕は再び王室へと戻っていった。




 王室へ戻る途中、コルラシア親子に出くわした。

「おおっ、賢者様。そんなに慌ててどこに行くのですかな?」

 なぜか余裕たっぷりな父親のスヴェンに対して息子のソーマは歯ぎしりをして僕を睨み付けていた。

「おい!本当にお前がいれば大丈夫なんだろうな!」

 ソーマが僕に強く当たってくる。

 相当信用されていないらしい。

 苛立つ子どもをあやすようにスヴェンは叱責した。

「ソーマ。お前は落ち着きが足りないし、口が悪い。それに飽き足らず、王や国務長官の前であんな無礼な態度をとるとは、まったく、信じられん!」

 ソーマは小さな子どものように口を尖らせた。

「まぁ、いいや!アンタにはせいぜい期待しておくから、俺のために頑張れよ!」

 ソーマは子どものようにはしゃぐと、父親に耳を引っ張られて悲鳴を上げながら去って行った。

「随分と余裕そうですね。あの人達。」

 僕は嫌悪感を隠すことなく呟く。

「そう言えば、鉱石王のことをご存じありませんでしたな。」

 ジェフは咳を払うと説明を始めた。

「王国の南部、エストニア公国との国境にもなっているペテルゼウス山脈にはトロイ鉱石がたくさん埋蔵されていると見積もられています。鉱石王ことスヴェン・コルラシア伯爵はその土地の40%を保有しており、トロイ鉱石のほとんどは伯爵の鉱山から採掘されたものです。文明の源泉ともいえるトロイ鉱石を握る彼の意見を国王も無碍にすることはできないのです。」

 僕は思わず納得する。

 恐らく、父親のスヴェンは鉱山の一つがなくなっても痛くもかゆくもないのだろう。だが、父親から土地をもらった息子のソーマはたった一つの鉱山がなくなれば手痛い損害になる。親子での事件に対する熱量の差はそこに由来しているようだ。



「エレナ様。戻っておいででしたか。」

 あの親子と話し込んでいるうちにアルスが僕の方へ向かっていた。

「ああっ!ちょうど良いところに!」

 僕が顔を近づけると、書類を抱えたアルスがたじろぐ。

 あるものは何でも使う。

 ちゃんと彼のアプローチを断らないエレナが悪い。

 二人の仲がどう転ぼうと僕には全く関係ないことだ。

「ヴェルグ死刑囚に面会したいのですが……」

「刑務所に行かれるのですか?なぜです?」

「情報収集のためです。」

「私の持ってきた判決記録が信用できないのですか!」

 若干興奮気味のアルスに引きながらも答えていく。

「自分で見たことや聞いたことしか信用しないことにしているの。ごめんね。」

 僕がウィンクすると、アルスの脇に抱えた書類が音を立てて落ちた。


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