未来を見つめる大地の眼
朝霧の中を歩いている。
目の前の 小さな白い息が
鼻歌交じりのリズムを奏でながら
辺りの銀白色に すぐに溶け込んでいく。
まるで雲の中を歩いているような
軽やかな足取りが
右へ
左へ
そして、その銀白世界から
ペールオレンジの展望台が顔をのぞかせた時
その足取りは 駆け足へと変わり、
彼女の姿は すぐに見えなくなってしまった。
ここに来るのは確か、2度目だ。
アイヌの言葉で 『 偉大なる崖 』 という名を持つモニュメントに
すこし古代遺跡というか、現代・・・いや
時代を忘れてしまう不思議さを感じる。
『 やっほーーー。 』
霧の晴れ間から わたしに手を振る
ちいさな手が見えてくる。
『 やっほー。 』
わたしは特段大声を出すこともなく、ゆっくりと
ムスメのいる展望台頂上部に たどり着く。
『 誰も いないね。 』
『 そうだね。 』
『 真っ白、何にも見えないね。 』
『 うん。 あっ、マスク忘れた・・・。 』
『 ふふふ、誰もいなくてよかったね。 』
ここ最近の週末は、あまり人の来ない
過密にならないような所を選んで出掛けている。
各市町村の歴史資料館、または図書館に隣接されているような郷土資料室、
『なつぞら』のロケ地でもある清水町・円山展望台や
鹿追町・神田日勝記念美術館、扇ヶ原展望台、然別湖などなど。
小学生のムスメには かなり渋すぎる お出掛けスポットだが・・・
『 写真は? 』
『 撮る!!! パパ、そこに立って! 』
『 はいはい。 』
わたしの古いデジカメを片手に、
ムスメは 少しだけ楽しそうだ。
『 さて、問題です。 』
『 ? 』
『 ○○○(ムスメの名)が、なりたいモノは何でしょうか? 』
『 ( いきなり、何が始まった? )
それって、パパが答えている最中にシャッター切りたいの? 』
『 そういう訳じゃないけど・・・答えてよ。 』
『 うん、わかった。 それって、将来の夢で いいんだよね? 』
『 ユメだよ。 』
『 わかった、アイドル! 』
『 ぶー。 』
『 ケーキ屋さん!! 』
『 ぶーぶー。 』
『 じゃあ、お嫁さん!!! 』
『 ぶーぶーぶー。 』
『 わかった、魔法少女!!!! 』
『 もう、全然ちがう。 ムリダナ。 』
『 ムリダナ。 』
『 似てないよ。 こうだよ・・・、ムリダナ。 』
『 ふふふ、上手だね。 あ、わかった。 将来の夢って、声優さん? 』
ムスメは最近、わたしの大のお気に入り作品、
アニメ 『 ストライクウィッチーズ 』 に出てくる キャラクター :
エイラ・イルマタル・ユーティライネン の声マネが大得意で
『 ムリダナ 』 『 サーニャ、サーニャ、サーニャ 』 と、
わたしを笑わせてくれる。
『 もう、いいよ。 写真も撮ったし・・・。 』
『 えー、教えてくれよ。 』
『 教えないよ。 』
『 もう、なんだよ! 』
そんなこんな、ムダばなしをしている内に
霧が晴れ、朝陽も見え始めた。
( 今日は、ここから何処へ行こうか・・・・ )
ぴゅーーーーーーーーー。
( ん? )
『 看護師だよ!!! 』
鳥の鳴き声に紛れ、
不意に届いたムスメの言葉。
( かんごし )
わたしは ムスメが
意外と しっかりとした夢を抱いていることに
すこし驚かされた。
( 成長してるんだなぁ・・ すこし ふざけて悪かったかなぁ )
『 パパ。 』
『 ん? 』
『 コロナ、はやく終わるといいね。 』
そう言うと、
ムスメは わたしの手を握って笑った。
ピラ・リ
未来を見つめる大地の眼
なんだか、
大人が もっと頑張らないといけないな
そう感じた、ある週末の出来事でした。
このたびは
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
また、会いましょうね。