絶望のシンクロニシティー

序章

３

寒い。

それが僕が最初に死んで感じた感覚(かんかく)。

人は心臓が止まってからも数秒は、

脳は生きてるらしい。

そして僕は死の感覚(かんかく)を体感する。

それは死を選(えら)んだ人間だけが体験できる、

特等席(とくとうせき)だ。

寒い、寒い、寒い・・・

不思議と痛みは無かった。

ただどこまでも底無(そこな)しの寒さだけが、

全身を覆(おお)っていた。

周(まわ)りは底無(そこな)しの闇で、

ただ寒さだけが辺(あた)りを満(み)たしていた。

唐突(とうとつ)に声が聞こえた。

心の中で囁(ささや)かれた様(よう)な声だった。

　【目覚(めざ)めよ我(わ)が君(きみ)よ】

目覚めろ？

何を言っているんだ！？

目覚めて、

この苦痛(くつう)を永遠(えいえん)に味わえとでも言うのか。

ふざけるな！

もう死なせてくれ・・・

僕はもう疲れたんだ

「目覚めよ我が君よ」

「うるさい！！」

僕は思わず出た自分の声に驚(おどろ)いて目を開けた。

辺(あた)りは暗く目が霞(かす)んで何も見えない。

一瞬生きているのかと思ったが、

やはり死んでいる様(よう)で安堵(あんど)した。

そんな静かな闇の中に唐突(とうとつ)に光が灯(とも)った。

１つ、２つ、３つ、数えきれない灯火が灯(とも)る。

その火の玉は、

左右一列(さゆういちれつ)に道をつくって続いていた。

良く見るとフードで顔を覆(おお)った異教徒(いきょうと)が、

一列に並(なら)んで松明(たいまつ)を掲(かか)げていた。

そしてその中心、

薄暗い闇の中で一匹(ぴき)の鬼が佇(たたず)んでいた。

鬼の顔をした何かが。

鬼の仮面にさしては生々(なまなま)し過(す)ぎるなにか・・・

その姿に地獄の閻魔(えんま)大王を想起(そうき)し納得(なっとく)する。

そうか僕に安息(あんそく)の地なんて無かったんだ。

死んでからも僕は地獄で苦しむんだ。

そう思うと倒錯(とうさく)した笑いが込み上げた。

「クックックック」

その異形(いぎょう)の何かは、そんな僕にかしずき囁(ささや)いた。