月夜
「帰って」がとても短いのと、昨日更新が凄く遅くなったお詫びに、今日はもう一話更新しようと思います。
楽しんで戴けたら嬉しいです。
京介は立ち上がると、ワタシを振り返った。
ワタシを見て京介は驚いて大きく眼を見開いた。
「ミューズ………………」
涙が止まらなくて、どうしたら止められるのかも解らなくて、とても困った。
京介はワタシの傍へ来るとワタシの頬を指先で触れて天井を見上げた。
それからワタシの顔をじっと見詰めると、京介はワタシを抱き締めて言った。
「ごめん
ごめんね、一人ぼっちにさせて」
ワタシは京介がワタシの事を思い出してくれたのが嬉しくて、更に涙が溢れた。
嬉しくても涙は出るものなんだ。
でも、京介はワタシが哀しくて泣いてると思ってるみたいで、頻りに言った。
「独人にしてごめん
淋しい想いさせてごめん
オレが莫迦だったよ
ごめんね………………………………
ごめんね………………………………」
京介はワタシの涙を拭いてくれて、月が見える様に椅子に座らせてくれると床に座り込んでワタシの膝に頭を預けた。
丸い月がとてもキレイな夜で、遠くまで地面が続いていて、遠くが小高くなって碧く光っていた。
京介は眠ってしまった様でじっと動かない。
ワタシは京介の髪を撫でたいと思った。
撫でられない自分が哀しい。
また、涙が零れた。
こんなに京介が大事なのに。
こんなに大好きなのに。
何も伝えられない。
何もしてあげられない……………………。
月が急に明るくなって、柔らかな光がワタシを包む。
ワタシを包んで、月明かりは一瞬煌めいた。
そよ風がワタシの髪を弄んで逃げて行った。
胸がドクンと言って身体がだんだん暖かくなってきた。
強張っていた身体が緩んで重たくなって、だらんと首が垂れた。
え?
ワタシは頭を上げた。
大きく息を吸い込んでみた。
胸が大きく膨らんだ。
ワタシは呼吸しているんだ!
何度も息を吸ったり吐いたりしてみた。
辺りを見回してみると、月は相変わらず透明な青白い光を放っている。
自分の膝の上を見下ろすと、京介が安らかな顔をして眠っている。
指を動かしてみた。
次は手を。
次は腕を。
ワタシは嬉しくなって微笑んだ。
手を見詰め、次に京介を見詰めた。
ワタシはそっと京介の髪を撫でた。
京介の髪は柔らかくて、するっと指から零れた。
嬉しい…………………………。
京介が急に眼を開くから、ワタシは驚いて声を上げた。
京介は起き上がった。
辺りを何度も見回した。
それからじっと、いつまでもワタシを見詰めた。
京介の呼吸が次第に荒くなって言った。
「オレは夢を見ているの? 」
ワタシは小首を傾げて京介を見詰めた。
「ミューズ…………………………? 」
ワタシはどう答えればいいのか解らなくて微笑んだ。
そして、ゆっくり言ってみた。
「きょうすけ」
名前を呼ぶ事ができて、ワタシは胸は喜びにはち切れそうになる。
京介はみるみる笑顔になってワタシを呼んだ。
「ミューズ! 」
「京介」
京介はいきなりワタシを抱き上げくるくる回った。
「ミューズ!
オレは気が狂ったの?
それなら狂っていたい!
夢なら、このまま死ぬまで夢を見ていたい! 」
「夢じゃ無いよ
人形は夢を見ないもの」
京介はワタシをそっと下ろした。
眼を回してふらついたワタシを、京介は慌てて支えてくれる。
「ミューズ!
やっぱりキミなんだ! 」
ワタシは笑顔で答えた。
「月が魔法をかけたの」
「月が……………? 」
「京介に話したい事いっぱいあるよ」
「うん、オレもだ」
京介は笑った。
読んで戴いて有り難うございます❗
読んで下さった貴方様に感謝です。
今回、ミューズが涙を流すシーンがありましたが、一歩間違わなくても、これってホラーだよなあと思いました。笑
娘たちにも突っ込まれましたが、ミューズを求める気持ちが強い京介にとってはホラーにはならなかった様です。笑
この作品で詩を入れると十作目です。
「ラプンツェルの接吻」を去年の暮れ辺りから書き始めて4月に投稿を始め、はや一年。
あっと云う間の一年でした。
その間に、水渕成分さん、恣迷さんと仲良くさせて戴ける様になって倖せな一年でした。
思えば、水渕成分さんと恣迷さんに巡り逢わせてくれた作品が「月の恋人」でした。
この「月の恋人ー人形ー」は今年最後の作品なのも、不思議な巡り逢わせを感じます。
ワタシの下手な小説を読んで下さった皆様、水渕成分様、恣迷様、まだ今年は少しありますが、素敵な一年を有り難うございました。