何もできない
楽しんで戴けたら嬉しいです。
その日は、京介は忙しくて殆ど眠る暇も無くて、朝早くから出掛けて行った。
夜中になっても京介は帰って来なかった。
そして、朝になっても…………………………。
京介の居ないアトリエはガランと静かで、窓から差し込む光が少しずつ移動するだけ。
やがて弱った日差しが夜と溶け合って暮れて行った。
ベッドに括り付けた風船も淋しそう。
また夜が来ても京介は帰って来ない。
ワタシは玄関を出て家の前の道路に立って待った。
自動車は何台か通り過ぎて行ったけど、京介を乗せたタクシーでは無かった。
このまま京介を探しに行きたかったけれど、何処をどう探せばいいのか見当も付かない。
京介が帰った時にワタシが居なかったら、今度は京介がワタシを探しに行くかも知れない。
ワタシは諦めてアトリエで待つ事にした。
大きな窓の傍に置かれた椅子に座って寝台の傍のドアをじっと見詰めて待った。
じっとしているのは得意だけど、この不安はどうしていいのか解らない。
こんなに帰って来ないのはどうして?
細くなった京介は年老いた人形師の様に何処かで血を吐いて、朱い服を着た男たちに何処かへ連れて行かれたの?
そしたら人形師の様に二度と帰っては来ない。
怖い。
怖い!
お願い京介、早く帰って来て!
京介は次の日のお昼頃帰って来た。
京介は部屋に入るなり、椅子に座るワタシを見てホッとした顔をした。
良かった!
京介は血を吐いて連れて行かれた訳じゃ無かったんだ!
京介の後ろから茶髪の女が入って来た。
茶髪の女が言った。
「強引に退院して大丈夫なの?
まだふらついてるじゃない
病院から電話来た時は驚いたよ
急に倒れたって言うから」
倒れた……………………………?
京介、具合が悪いの?
「ちゃんと眠ってる?
食べてる?
こんなに痩せて、いったいどんな生活してるの? 」
眠らないと具合が悪くなるの?
「キミには感謝してるよ
もう大丈夫だから」
京介は忙しそうに部屋を動き回っている。
「ねえ、あの女のせいじゃないの?
あの女に付き合って夜中じゅう遊び回って、寝ないで個展の準備してるんじゃないの? 」
あの女ってワタシ?
ワタシと過ごしていたから京介、具合が悪くなったの?
京介は茶髪の女を振り返った。
「彼女は関係無い! 」
「だいたい何なのよ、あの女
いかにも京介の彼女でございって顔して、いざ京介が倒れて入院しても、看病どころか見舞いにも顔を出さなかったじゃない」
「黙ってっ!! 」
京介は大声で怒鳴った。
茶髪の女は驚いて黙った。
ワタシの為に眠らなかったから、京介は具合が悪くなって倒れた。
それなのにワタシは京介の為に何の助けにもならなかった。
「もう、帰ってくれないか!
個展の用意で忙しいんだ! 」
「京介…………………
どうして私じゃ駄目なの?
私なら京介の何もかもを受け入れられる
今回みたいに京介に何かあったら京介の為に直ぐ飛んで行って支えになってあげられる
どうして私じゃ駄目なの? 」
京介は茶髪の女を見詰めて言った。
「キミはいい友達だと思ってる
理屈じゃないよ
そう云うものだろ?
人を愛するって云う事は…………………」
「そんなに愛してるの? 」
「うん、彼女じゃなきゃダメなんだ」
「散々負担かけられて、いざとなったら知らん顔するような女なのに」
「彼女はそんな人じゃ無い! 」
「そんな人でしょ!
実際ここに、あの女は居ないじゃない! 」
「オレには彼女の存在が必要なんだ!
そして彼女にもオレが必要なんだ! 」
「…………………………莫迦みたい」
茶髪の女は俯くと部屋を出て行った。
京介は茶髪の女が出て行ったドアを暫く見詰めていた。
京介はワタシを振り返ると直ぐに椅子に座るワタシの前に来て膝まずいた。
「ミューズ、ごめんね
一人で淋しかったろ?
彼女が言った事は気にしないで
オレが倒れた事とミューズは関係無いから」
うそっ!
ワタシのせいで京介は倒れた!
京介は夜まで絵を描いていた。
月の光がワタシを包むと、京介は絵筆を止めてワタシの傍に来た。
ワタシは身体が動くようになると言った。
「京介の嘘つき! 」
京介は驚いて言った。
「いきなりどうしたの? 」
ワタシは椅子から立ち上がって言った。
「ワタシの為に眠らなかったから京介は具合が悪くなって倒れた!
京介が倒れたのにワタシは京介の為に何もできなかった! 」
京介は慌てて言った。
「彼女が言った事を気にしてるの?
あれは彼女の誤解だよ」
「どうして嘘付くの?
ごまかされるのは嫌!
ワタシが京介の具合を悪くした!
ワタシが京介の大事な時間を奪ったから、京介は眠れなくて倒れた! 」
「ミューズ、落ち着いて話そう」
「ワタシは京介に負担を掛けるだけ
京介が困っても何もしてあげられない…………………………」
ワタシの身体は硬くなって動かなくなった。
「ミューズ!
まだ朝じゃ無いよ!
ミューズ!! 」
京介は言った。
「ミューズのせいじゃ無い!
オレが莫迦だったんだ!
ミューズと過ごせる時間が一分でも惜しくて自己管理を怠った!
ミューズのせいじゃ無い! 」
京介……………………………。
ワタシは大事な京介が具合を悪くしてる事にすら気付かないでいた。
京介が細くなったのに、京介を休ませると云う事にすら気づけなかった。
京介が倒れたのに傍に居てあげる事もできない。
どうして?
それはワタシが人形だから。
人の当たり前が解らないただのお人形さんだから。
所詮人形は人形、可愛がられる意外、何もできない。
ワタシの心は暗闇に沈んで行った。
読んで下さり有り難うございます❗
とうとう残り一話となりました。
400字詰め原稿用紙でちょーど100ページ。
肩こりました。笑
今、新作を手掛けてます。
来年1月には投稿できると思います。
新作の資料にハリソン・フォードの「推定無罪」
観なきゃです。
頭悪くて、字を読むのが苦手なので、情報資料は大抵、映画。
書くのは凄く好きなんですけどねー。
情けないです。(T_T)




