遊園地
楽しんで戴けたら嬉しいです。
相変わらず京介は、毎日とても忙しそう。
ワタシが人形に戻ると少しの間眠って、起きると絵を描き始める。
お昼からは大抵出掛けて夜まで帰って来ない。
それでも京介は、夜になるとワタシだけの京介になる。
二人で夕食の支度をしてテーブルを挟んで食事をして、一晩中話したり、散歩したり、出掛けたり。
でも、そんな日が続いて心配になる。
最近、京介は細くなった気がする。
老いた人形師も細くなって血を吐いて帰って来なくなった。
京介もそうなったら、どうしよう……………………………。
ポーズを取りながらワタシは言った。
「京介、最近忙しそう」
京介は筆を動かしながら言った。
「そうだね、忙しいかな
近々、個展があるから」
「個展? 」
「そんな大規模なものじゃ無いけど、オレの作品だけを展示する展示会だよ」
「ワタシも手伝えることある? 」
「ミューズには、いつもモデルになって手伝って貰ってる
それだけで充分だよ」
「でも心配
京介、この頃細くなった」
京介は笑って言った。
「そうだ!
知り合いから遊園地の入場券貰ったんだよね
明日行かない? 」
ワタシは少し考えてから言った。
「京介が行きたいなら、ワタシも行きたい」
「じゃ、明日行こう
ミューズの喜ぶ顔が一番元気付けられるんだ」
京介は笑った。
京介が選んでくれた淡い紫のワンピースを着ると、京介は首を振った。
店員さんが選んでくれたボタンの付いた白いワンピースも、京介は手でバツ印を作った。
花柄の、腰に薄い青紫のリボンが付いた裾がひらひらしたTシャツに、二枚重ねの折り目がいっぱい付いた、薄い黄色のスカートを来あわせると、やっと京介は笑って親指を立てた。
櫛で髪をとかしてくれて、仕上げに京介は香水をワタシの耳朶の後ろに軽く着けてくれた。
タクシーを降りると、そこには暗い空に聳え立つ白く光る建物が迎えてくれた。
門をくぐると電気の光がそこいらじゅうに溢れて、ワタシは眼を見開いた。
この世界には、こんなにも美しい世界があるんだ!
頭の大きな毛むくじゃらの生き物が赤い風船をくれた。
何処を見ても光がいっぱい。
人もいっぱい。
京介はワタシの手を掴むと指を絡ませて握った。
可愛い色の物がいっぱい置いてある小さな建物の中に入って、京介はさっきの毛むくじゃらの生き物と同じ耳の飾り物を取ってワタシの頭に着けた。
「うん、似合うよ
可愛い」
そう言われてワタシは顔が火照った。
「京介は着けないの? 」
「男が着けても可愛く無いよ」
「そんな事無い
京介にも似合うよ」
ワタシは耳を一つ取って京介の頭に着けた。
あれ?
やっぱり、ちょっと微妙かも……………………。
でも、ワタシは言った。
「うん、似合う
京介、可愛い」
京介は困った様な顔をして瞳を上に上げた。
それから白い大きな箱の中に人が入っている前に来ると、京介は中に入っている人に言った。
「イチゴクレープ二つ下さい」
箱の中の人はペラペラの丸い物に白いふわふわの物を塗って、赤くてコロコロしたのと濃いピンク色の液を掛けると折って、ピンクの丸いのを載せて、最後に紙に包んでワタシと京介に差し出した。
受け取ったワタシはどうすればいいのか解らなくて京介を見た。
京介はそれに、思い切りかぶり付いて見せた。
真似をしてワタシも思い切りかぶり付くと冷たくて良い匂いが口の中いっぱい広がって、甘い(?)味がした。
「ワタシ、これ好き」
ワタシが笑うと京介はワタシの口の端を指で拭ってくれた。
ワタシも京介の口の端についた白色のふわふわを指で拭って、二人して笑った。
ワタシは指差して言った。
「京介、あれキレイ!
あれ何? 」
くねくねした飾りの付いた箱や模様のついた赤い布をお腹に着けた白い生き物が上下しながらぐるぐる回っていた。
「ああ、メリーゴーランドだよ
乗る? 」
「京介も一緒? 」
「メリーゴーランドは勘弁して
オレの柄じゃないよ」
京介は頭を掻いた。
ワタシは不満だった。
「京介が一緒じゃないとつまんない」
京介は困った顔をして項垂れて言った。
「解った
でも乗るのは馬車ね」
メリーゴーランドに乗ってる間中、京介は困った顔をしているのが可笑しかった。
大きな平たい建物に入るとガチャガチャした音や音楽が鳴ってワタシは思わず耳を塞いだ。
そこで網のぶら下がった輪にボールを入れるゲームと云う物で遊んだ。
京介はとても上手にボールを網に入れるのだけど、ワタシが投げるとボールはとんでもない方向に飛んで、ちっとも網に入ってくれなかった。
初めてボールが網に入るとワタシは思わず京介に抱きついて何度も飛び上がって喜んだ。
大きな大きな大ーーきな車輪の端に人が入れるくらいの箱がいっぱい付いた乗り物の前で、他の人たちがするように並んだ。
「京介、この大きなのは何?」
「観覧車って言うんだよ」
凄く大きくて圧倒される。
順番が来て箱に乗り込むと京介とワタシは中にくっついている椅子に並んで座った。
どんどん上に上がって行くと景色が少しずつ広がって行って、ずっと遠くまで灯りが見えた。
ワタシが外の景色に眼を奪われていると、京介は言った。
「愛してる、ミューズ」
「え? 」
ワタシが振り返ると京介は優しい眼でワタシを見詰めていた。
その眼が本当に優しくて、ワタシはどう応えればいいのか解らなくて戸惑った。
「月に心から感謝するよ
ミューズとこうして話したり行動できるのが嬉しくて仕方無いんだ」
ワタシは小首を傾げた。
「時々、ミューズが人形に戻らなければいいって思うんだ
朝なんか二度と来なければいいって」
京介はワタシの頭を抱き寄せた。
「凄く欲張りだよね
こうしていられる時間が在るだけで奇跡なのに」
ワタシは温かい胸から聞こえる京介の鼓動を聞きながら、とても安心して眼を閉じた。
読んで下さり有り難うございます❗
波乱続きの連載でしたが、後二話で完結です。
面白く読んで戴けてたら良いのですが。
フィギュアスケートの羽生君は、絶世の美少年だなあと常々思ってます。
ワタシは凄い美少年好きで、娘いわく「母さんが認める美少年はレベル高過ぎ」
ちょっとやそっとの美少年じゃ納得しないのですが、その中でも、ターミネーター2に出ていた頃のエドワードファーロングとザクライアントに出ていた頃のブラッドレンフロは美少年と太鼓判押してます。
でも、羽生君は彼らを凌ぐ美しさだと思っています。
あのスケートに注ぐ情熱から滲み出る彼のオーラは本当に美しいです。
手の動きがおざなりに見えがちな人多いですが、羽生君の動きは正に芸術。
一分の隙も無く、手の動き一つですら完璧に美しい。
フィギュアスケート界で羽生君を越える点数を
出す人も居ますが、彼ほどフィギュアスケートを美しく表現できる人は見たこと無いです。
個人的に普段の少年の様な表情とリンクに立った時見せる男の顔とのギャップがめちゃめちゃ好きですね。




