木こりの日常
俺の名前は銘酉楠男28歳。
元々はしがないサラリーマンだったのだが今は訳あって
へき地の限界集落で木こりをしている。
昔は林業を生業としていた山村だったらしいが安い輸入木材のあおりを受けて
50年ほど前から徐々に廃れて行き住民も減って今では農業をやってる
数名の爺さん婆さんが僅かに残っているだけの滅びゆく村だ。
俺は犯罪者というわけでは無いのだがこの山奥の山村に隠れ住んでいる。
とある組織から逃れる為だ。
追跡を逃れるために身元を明かせない俺が碌な職に就けるはずもなく。
流れ着いたこの村で山の地主の爺さんにほぼ無給でこき使われて暮らしている。
報酬は、放置されて久しかった空き家への居住権と爺さんの家から
素人配線で引き込んで使っている電気。
後は最低限の生活用品と現地生産された米や野菜や肉などを現物支給。
肉は畜産物ではなく害獣駆除で捕獲された鹿や猪だ。
村中に手作りのくくり罠や囲い罠が設置されているし
畑の周囲には鉄線が張り巡らされていて致死量の電流が流れている。
これ絶対違法だよな……、駐在所も無いド田舎だからやりたい放題だ。
こんなド田舎の連中が労基法など知っているはずもなく
夜明けから日暮れまで木こりという重労働を強いられている俺の固定給は
なんとたったの月2千円、山でたまご茸を沢山見つけて持ち帰った月には
3千円貰えたな。山主のジジイは町で転売したら5万円で売れたと小躍りしていた。
もっと分前をくれてもいいんじゃないか?ケチなジジイだ。
とは言っても支給品だけで生活出来ているし、逃亡者の俺は
町に下る気は無いので現金を使う機会はなく困ってはいない。
今使ってるノートパソコンが壊れたら新調したいので全額貯金して
ジジイが町に行った時に中古のノートパソコンでも買って来て貰おう。
そんなブラック待遇な俺の具体的な仕事内容はと言うと
山に一人で入り、チェーンソーで木を倒し、一メートルほどの長さに
輪切りにした丸太を2本両肩に担いで山道まで降りて軽トラに積み込む。
村に持ち帰った丸太は斧で割って村で使う分を除きジジイに納品する。
今どき薪なんて二束三文にしかならないが町で売るそうだ。
倒した木を輪切りにせずに山から降ろせれば木材としてそれなりの値が付くらしいが
俺一人ではとても無理なんだからしょうがない。
こんな大して金にならない作業でも山の管理目的として伐採が必須らしいので
俺は木こりをさせられている。
ド素人の俺がジジイの簡単なレクチャーを受けて手探りで始めた木こり業。
最初の頃は木の倒れる方向がコントロール出来なくて倒木が肩を掠めてヒヤッとしたり
丸太を担いで山を降る時にバランスを崩して斜面を転げ落ちたり。
何度も死にそうな目に合いながらもなんとか2年間木こりを続けてこれた。
重労働と村人共に押し付けられる獣肉での肉食中心の食生活で
今では筋肉モリモリマッチョマンの変態だ、年寄り共は肉をあまり食べないからな……。
ただのリーマンだった俺がこんな過酷な生活に耐えられているのは
今の俺には守るべきものがあるからだ。ああ、早く会いたい。
よし、丁度きりが良いしこの丸太を降ろしたら今日はもう帰るか。