第83話 浴衣
混浴を楽しんだ俺たちは、現在、ネアが作った浴衣に身を包んでいる。
一人一人に似合うようにデザインされた浴衣は、女性陣の魅力を更に際立させている。
縁側に座って、温まって火照った体を少し冷ます。
ここからは屋敷の庭園が眺めることができるのだ。美しい光景に酔いしれる。
「うほぉ~! ボクが作った浴衣を着た女の子たち! 最高だよ!」
静かな縁側にテンションMaxのネアの声が響き渡る。
女性陣に突撃したと思うと、抱きつき、胸を揉み、お尻を軽やかに撫で、クンカクンカと匂いを嗅ぐ。グヘヘ、と汚い声で笑い、口から垂れそうになった涎を拭う。完全にセクハラ親父の変態だ。
羨ま……ゲフンゲフン。流石にやり過ぎだ。
「ネア。いい加減にしろ」
「えぇー! 可愛い子たちがいるんだよ! ボクはこのためだけに来たんだ! ボクの楽しみを奪わないでぇ~!」
ネアは巨乳美女三人に抱きついている。真ん中にいるマグリコットの胸に顔を押し付けてグリグリし、匂いを嗅ぎながら、両手で左右にいるカラムとケレナの胸を鷲掴みしている。
巨乳の人は浴衣が似合わないとか言うけど、全然そんなことないよ。三人ともとても綺麗だ。
そして、ネア。羨ましいぞ! 俺もしたい!
「シー君。ネアちゃんは気にしないでいいわよ~! 全然嫌じゃないし」
「一緒にどう?」
カラムが実に心を揺さぶられる誘惑をしてくる。
ネアによって胸元がはだけているから、余計に飛び込みたくなる。
「………今は止めておく」
「ふふっ。じゃあ、あとで」
チョコンと可愛らしくカラムがウィンクした。
うむ。ぜひ、あとでお願いします。
「ご主人様ぁ~! 私には罵倒を~! 蔑みを~! 愛のある辱めと甘美な痛みを~!」
「家畜は言葉をしゃべるな!」
「ぶひぃ~!」
嬉しそうにブヒブヒ言い出した変態のことは視界に入れないようにする。更に嬌声が上がった気がするが、全て気のせいなのである。
はぁ…黙っていれば美人なのに…。
「こここ。主様よ。飲んでおるかの?」
狐の獣人に変化した神楽がモフモフの尻尾をユラユラさせながら絡んできた。
簪で髪を結いあげ、胸もとは大胆にはだけさせている。手にはお猪口と徳利。
「ほれっ! 飲め飲め!」
「俺、成人してないからお酒飲めないぞ」
「大丈夫じゃ。酒ではない。これはミルクじゃ」
「ってことは…」
「うむ! マギーとカラムの搾りたてよ。やはりお風呂上りはミルクに限る」
徳利からは本当に白いミルクが出てきた。
マグリコットとカラムのミルクは美味しいからなぁ。
でも、今日は一味違う感じにしたい。
「これにフルーツジュースを混ぜて、フルーツミルクにするのはどうだ?」
「おぉ! いい考えじゃな、主様よ。では、いろいろと試してみるかのぅ」
「………実験なら私の出番」
「ぬぉっ!? いきなり出てくるとびっくりするぞ、ビュティよ」
突然傍に現れた紫色の髪のポワポワした幼女のビュティに驚いた神楽が毛をピーンと逆立てている。
ビュティが黙々と果実を取り出して、ミルクと調合を始める。
しれっと『世界樹の果実』が置かれているけど、指摘はしないことにする。美味しければそれでいい。
「シラン。お、お待たせ」
「シラン様。お待たせいたしました」
少し遅れてやってきたのは俺の可愛い婚約者二人。
浴衣はとても似合っている。思わず見惚れて固まってしまうほどだ。
恥じらう感じが更に可愛い。
「二人とも。紫水晶と蒼玉みたいに綺麗だよ。よく似合ってる」
「あ、ありがと」
「シラン様もよくお似合いですよ」
二人の反応が可愛いし、嬉しいことを言ってくれたので、二人の腰をグイっと引き寄せて抱きしめた。ジャスミンもリリアーネも抵抗はしない。三人でイチャイチャを繰り広げる。
そこに、近衛騎士団第十部隊部隊長のランタナがやって来た。手にはバケツなど、いろいろな袋を持っている。袋からは手持ち花火が覗いていた。
「お任せ致しました。花火をお持ちしました」
俺は思わず二度見をしてしまった。
何故なら、ランタナも浴衣を着ていたのだ。
「ラ、ランタナ? 何故浴衣を?」
「そ、それはその…」
「ふっふっふ! 感謝してよね、シラン君! ボクが着せてみましたー! どやぁ!」
巨乳に埋もれたネアがドヤ顔をしている。
感謝感激雨霰。ナイスだネア! 念話でネアを褒めまくる。
悦に入ったネアは、ますます得意げになって美女の巨乳を揉みしだく。
ランタナは顔をカァっと赤くして、慌てて逃げ出そうとする。
「に、似合ってませんよね! すぐに着替えて…」
「いやいや! 似合ってるから! とても綺麗だから!」
俺はランタナの腕を掴んで引き止める。
化粧まで施したランタナは、正直驚くほど綺麗だ。
普段は近衛騎士の仕事で化粧っ気がないのが実に勿体ない。
「私なんかが着ても、殿下の目が汚れるだけですからぁ」
「そんなに自分を卑下しなくても…。じゃあ、命令な。浴衣のまま、花火を楽しむこと」
「………め、命令なら従います」
真っ赤な顔のランタナが顔を伏せて大人しくなった。
おずおずとしながらも、テキパキと手際よく花火の準備を始めていく。
近衛騎士たちもローティーンを組んで休憩を取り、花火で遊びたい人は遊んでいいよと言ってあるのだ。意外と楽しみにしているらしい。特に女性騎士たちが。
ちょくちょく目に入るランタナの綺麗な瞳。透明感があって、優しい橙色だ。この瞳は…。
「………………琥珀」
「ひぅっ!」
ランタナがビクッとして、手に持った手持ち花火を地面に落とした。
俺の後頭部にバシンッと衝撃が走る。
「痛っ!? なにすんだよ、ジャスミン!」
「婚約者が目の前に二人もいるのに、口説こうとするなんて良い度胸ね、この女好き王子!」
「えっ…? 俺、口に出してた?」
「はっきりと隊長のことを琥珀って言ってたわよ!」
周りを見渡して確認すると、リリアーネはおっとりと頷き、ランタナは恥ずかしそうに顔を逸らした。他の近衛騎士たちは、女性騎士が軽くウィンクして、男性騎士は小さくサムズアップをしている。騎士たちは皆、良く言った、と頷いている。
皆に姉御と慕われているランタナは、全く男の縁が無くて心配されていたらしい。『相手は女好きの王子だけど、女性を大切にするからまあいっか。姉御をお願いします!』と騎士たちの顔にはっきりと書かれている。
それでいいのか、近衛騎士たち!?
「まあ、シランが口説く気持ちはよくわかるわ」
「ランタナさんはとてもお綺麗ですよね」
「《神龍の紫水晶》様と《神龍の蒼玉》様が何をおっしゃいますか! 私みたいなブスが宝石で例えられて良いわけがありません! 殿下も、お美しい婚約者様がお二人もいらっしゃるのです! そろそろ女遊びはお控えください! そもそも未成年ではありませんか! 女遊びはメッです!」
何だろう、この優しい姉に叱られているほのぼのとした気持ちは。
「殿下! 聞いていらっしゃいますか!?」
「聞いてる聞いてる。では、紫水晶さん、蒼玉さん、琥珀さん、花火をしようか!」
「はいはい、そうね。女好きのことは諦めるわ」
「楽しみです!」
「シラン殿下ぁ~! ジャスミン様もリリアーネ様も殿下のことを諦めないでくださいよ~!」
ランタナを揶揄うのはちょっと楽しい。
最初は叱りつけてきたランタナも、花火を始めるとすぐに止め、うっとりと花火を眺めて童心に返っていた。
時々、ハッと真面目な顔に戻る瞬間があり、俺は密かに愛でていた。
俺は浴衣を着た愛しい婚約者のジャスミンとリリアーネや使い魔たちと戯れて、花火で遊び倒した。
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