表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/364

第63話 勘が良い婚約者

 

 心地良い怠さを感じる。

 甘い香りと優しげな温もりに包まれ、このまま惰眠を貪りたくなる。

 腕や体に感じる吸い付く柔らかな素肌。サラサラとくすぐったい金色の髪。ふわっと吹きかかる甘くて熱い吐息。僅かに感じる甘い汗の香り。

 他にも身体に複数の女体を感じる至福の時間。

 一生このまま時間が過ぎて欲しいが、そうは言ってもいられない。

 そろそろこの狂った時間の部屋から出なければ。

 懸命に重い瞼をこじ開け、名残惜しさを感じながらも眠りから覚醒する。

 薄暗い娼館の部屋の中。品の良い調度品。大きなベッド。俺に絡みついている複数の女性。

 自由な片手を動かし、丁寧にゆっくりと女性たちを引きはがしていく。


「んぅふぅ~……なぁに?」

「おはよう、ファナ」

「おはよう、あなた。そして、おやすみ」


 俺の使い魔であり、吸血鬼の真祖のファナが綺麗な長い金髪をサラサラと零れ落ちさせながら、わずかに紅い瞳で俺を射抜き、再びむぎゅッと俺を抱き枕にして目を瞑ってしまった。

 スゥスゥと可愛らしい寝息を立てている。

 思わずほのぼのと眺め、優しく髪を撫でてしまったけれど、そんなことをしている場合じゃなかった。


「ファナ、起きて。他の皆も!」

「………嫌」


 寝起きでちょっと不機嫌そうなファナが、目を開けることなく心底嫌そうに答えた。

 俺だって嫌だけど、起きないといけないの!


「外の時間はほとんど流れていないと言っても、もう一週間はこの部屋にいるぞ! そろそろ出るぞ! 外は朝日が昇る時間だ!」

「………私、吸血鬼。太陽、嫌い。だから、おやすみ」

「真祖のファナは太陽の影響はないだろ! ほら起きる! 起きないと襲うぞ!」

「………勝手に襲って」

「俺は一方的なのは嫌いなの!」


 金髪美人のファナをペイっと引き剥がす。

 あぁん、と妖艶な声が聞こえたが、グッと我慢してベッドから起き上がった。

 裸だったので洋服を着る。

 まだベッドの上でもぞもぞしている使い魔たちに言う。


「歩いて帰りたい人はそのまま。(らく)したい人は戻ってくださーい!」


 ほとんどの女性たちが光をあげて消えていき、俺の中に吸い込まれていった。

 ほぼ全員が顕現を解除したな。ベッドの上にいるのはファナだけだ。

 太陽を一切浴びたことが無いような真っ白な肌をシーツで隠しながら、眠そうに起き上がった。輝く金髪がサラサラと零れる。

 片手でシーツを押さえ、豊満な胸を隠し、反対の手を俺に伸ばす。


「あなた、おはよう………んっ!」

「はいはい。いつものキスな。おはよう、ファナ」


 そっとファナの唇にキスをする。

 グッと抱き寄せられ、首筋に顔を埋められた。チクリと痛みが走る。

 吸血鬼であるファナが俺の首筋に噛みついたのだ。

 溢れ出す血を舌で厭らしくチロチロと舐める音が響く。


「………ねえ。いつまで頑張る気?」

「何のことだ?」


 突然の質問で全くわからない。困惑していると、唇についた血をチロリと舐めとったファナが、血のように紅い瞳で俺を至近距離で見つめてきた。


「裏の仕事。暗部の仕事よ。いつまで頑張る気なの?」

「いつまでって……ずっと?」

「あなたは人殺しをするには優しすぎるわ。私たちに命令するだけでいいのに」

「俺はファナたちに手を汚させて、自分一人手を汚さないのは嫌だ。俺の性格は知っているだろう?」

「よく知っているけど…心を摩耗させてまでしなくていいじゃない…!」


 心配そうなファナを安心させるように優しくキスをして、彼女の頬を撫でる。


「俺が疲れたらみんなが癒してくれるだろ? それで十分さ。はい、この話はおしまい! 着替えた着替えた!」


 俺は裸のファナをお姫様抱っこをしてベッドから出す。

 そして、イチャイチャしながら服を着せたり、キスしたりして、準備を整える。

 準備が完了したら、外の時間と部屋の中の時間を同じにした。

 外は朝日が昇り始めたところ。王都の街は新鮮な野菜や魚を運ぶ馬車が行き交い、もう賑わい始めている。

 俺はファナと別れて娼館から出る。

 気持ちいい朝日を浴びながら、街の中を歩き、自分の屋敷へと帰る。

 屋敷では、使い魔たちが仕事を始めていた。屋敷で働くのは全て俺の使い魔だ。

 挨拶をされながら俺は部屋に戻っていく。

 寝室のドアを開けると、甘ったるい香りが充満していた。

 媚薬のお香の香り。女性と男性が交じり合った甘い香り。

 大きなベッドの上には、ジャスミンやリリアーネなど、多くの女性たちがスヤスヤと眠っていた。

 俺が暗部の仕事の前に気絶させた女性たちばかりだ。

 起床時間まで少し時間があったので、ベッドの上で横になって休むことにする。

 ベッドに手をかけた瞬間、ニョキッと腕が伸びてきて、ベッドの中に連れ込まれた。

 押し倒された俺の身体の上に、綺麗な女性が覆いかぶさってくる。


「あら、おはよう。愛しい愛しい私の婚約者さん。朝帰りとは大層なご身分ね?」

「お、おはよう、ジャスミン。お、俺の身分は王子ですよ?」


 裸のジャスミンがニコッと輝く笑顔を浮かべている。

 笑顔なのに、何故か背筋が凍り付くような恐怖を感じる。身体がガクガクと震えてしまう。

 こめかみに青筋を浮かべているのは気のせいだと思いたい。


「知ってるわよ、夜遊び王子さん。あんた………あれっ?」

「ど、どうした?」

「じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 ジャスミンがじーっと見つめてくる。

 紫水晶(アメジスト)のような綺麗な瞳が、至近距離で俺を射抜いてくる。

 甘い吐息が顔にかかる。

 しばらく俺を見続けていたジャスミンが、綺麗な唇を開く。


「シラン、どうしたの?」

「えっ? 何が?」

「なんか疲れているというか、憔悴してるというか、無理してるみたい」


 うぐっ! ジャスミン鋭い。何故ジャスミンはいつも俺の変化に気づくの!?

 幼馴染であり婚約者でもあるジャスミンが、心配そうにじーっと見つめてくる。


「身体…よりも心が疲れてる? まるで罅が入っているみたい…」


 俺の頬を優しく撫でながら、瞳の奥を覗き込んでくる。

 必死で目を逸らしたいのに、紫色の瞳が綺麗すぎて目が離せない。

 ジャスミンの真剣な声が体と心を揺さぶる。


「ねえ、シラン? 無理して夜遊び王子を演じているんじゃない?」


 おっ? そっち? そう捉えてしまった?

 まあ、暗部のことを言っていないから、そういう考えになるか。

 無理して夜遊び王子を演じていると勘違いしてくれているなら、俺にとっては好都合だな。

 彼女の勘違いを利用する罪悪感で心をチクチク苛まれながら、ちょっと本音を漏らす。

 嘘をついてもジャスミンにバレるだけだから。


「………まあ、ちょっと無理してるかも?」

「やっぱり!」

「だから、ジャスミン癒して~!」

「きゃっ! シ、シラン!?」


 裸のジャスミンを抱きしめて、びっくりしている彼女の唇にキスをする。

 そのままクルリと回転し、ジャスミンをベッドに押し倒す。

 乱暴に自分の服を脱ぎながら、ジャスミンのしなやかで引き締まった綺麗な身体を優しく愛撫していく。お腹や太ももが気持ちいい。

 恥ずかしさで真っ赤になりながら、弱々しく抵抗していたジャスミンは、結局諦めて俺を受け入れた。

 可愛らしくて愛おしいジャスミンとキスを続けながら愛を深め合う。

 ベッドに寝ていたリリアーネや他の使い魔たちも目覚めて混ざってくる。

 俺は癒しを求めて、早朝から最愛の女性たちと激しい運動を行うのだった。



お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ