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第53話 王族の眺め

 

 華やかなダンスホール。輝くシャンデリア。煌びやかな貴族たち。

 王族が入場しているため、貴族たちは軽く頭を下げているが、最後に入ってきた俺たちを見て固まる。正確にはジャスミンとリリアーネ見てだが。

 男性女性誰もがポカーンと間抜けな顔で凍り付いている。俺たちが通るたびに口を開けた人がじっと視線で追ってくる。

 あまりにもおかしくて、吹き出さないように我慢するのが大変だった。

 絶世の美女である《神龍の紫水晶(アメジスト)》ジャスミンと《神龍の蒼玉(サファイア)》リリアーネ。

 宝石の称号を持つ二人を伴い、王族の席へと誘う。


「ちょ、ちょっと待って! ここって王族の席じゃない!」


 何故かジャスミンが猛烈に慌て始める。リリアーネもギョッと目を見開いた。

 ダンスホールの壇上にある豪華な机と椅子。王族とその伴侶のみが座ることを許された席だ。許可なき者は近づくことすらできないエリアだ。

 周囲は近衛騎士たちが厳重に護衛し、暗部も潜んでいる。

 今日の暗部の統率はハイドだ。

 二人は今更何を慌てているのだろう?


「それがどうかしたのか? 二人は俺のパートナーとして参加しているんだろ? 普通だろ」

「で、でも…」

「流石に王族の席は…」

「はいはい、座った座った! ディセントラ母上が睨んでいるから!」


 ジャスミンとリリアーネが渋々座る。

 まあ、ディセントラ母上は全く睨んでおらず、ニコニコ笑顔で悪戯っぽくウィンクしているけど。

 二人の分の席を用意したのはディセントラ母上の策略らしい。これで他の貴族たちには二人が俺の婚約者として認識される。

 俺も椅子に座ると、まだ二人の美しさに呑まれている貴族が半数と、俺の隣に座ったことで驚愕しているのが半数、極少数がニヤッと微笑んでいる。最後の極少数はヴェリタス公やグロリア公の関係者だ。まあ、ヴェリタス公は俺を射殺さんばかりに睨みつけている。

 まだ居心地悪そうにしている二人にコソッと囁いかけた。


「二人とも、必ず俺と一緒に行動しろよ? それか、必ずこの席にいること。貴族たちに囲まれて大変なことになるからな?」

「それは……わかっているけど」

「身分的にここに座ってもいいのでしょうか? 私たちは公爵の娘ですよ?」

「それがどうした? 二人は王族の一員になるんだろう? 慣れろ」


 ジャスミンとリリアーネがゴクリと唾を飲み込んだ。


「シラン……それって」

「つまり……」

「おっと。父上のお言葉だ」


 父上ナイスタイミング! つい口がぽろっとしてしまった。

 俺は立ち上がり、一瞬遅れて二人も立ち上がる。

 貴族たちも全員立ち上がり、国王に注目する。

 国王の威厳を纏った父上が進み出て、舞踏会の開幕を宣言する。


「貴族たちよ。節度を持ち、大いに楽しめ! ここに舞踏会の開幕を宣言する!」


 音楽隊に合図がいき、軽やかなメロディが響き渡る。

 父上が第一王妃のアンドレア母上を誘い、踊り始める。

 普段は仲の良い母上たちにも一応王妃としての順番があるのだ。

 貴族たちも次々に踊り始めた。

 俺は一曲目は踊らず、軽食を食べながら貴族たちを眺める。

 あちこちで派閥同士で集まり、ヒソヒソとお喋りをしたり情報共有を行っている。ほとんどがチラチラと俺たちに視線を寄せている。

 聴覚や脳を強化し、あらゆる会話を盗み聞きする。


「シラン」

「んっ? どうしたジャスミン?」

「軽食ばかり食べていないでシャキッとしなさいよ!」

「やだ。俺は無能なの。あっでも、次の曲はダンスするから。どっちが先に踊る?」

「ジャスミン様、お先にどうぞ」

「えっ? いいの? 私、昨日踊ったんだけど」

「あの…少し緊張してしまって…」


 ふと見ると、顔を伏せたリリアーネの手が小刻みに震えているのがわかった。

 そういえばリリアーネは社交界は二度目だったな。二度目なのに王族の席に座っている。これは緊張で震えても仕方がない。

 俺は優しくリリアーネの手を握る。ハッと顔をあげたリリアーネに微笑みかけると、頬を朱に染めて少し弱々しく微笑んだ。少しずつ震えが収まっていく。

 同時に、ジャスミンの手も握る。ジャスミンの手も震えていたことに俺は気づいていた。


「な、なによ、いきなり」

「俺がただ握りたかっただけ」

「そう」


 ぷいっと真っ赤な顔を逸らしたジャスミンはそれ以上何も言わず、ただただ手をにぎにぎされていた。

 ジャスミンさんマジツンデレ。可愛い。


「どうだ二人とも? これが俺たち王族が見ている景色だ。平民よりも上の地位の貴族たちを更に見下ろす地位だ。責任重大だぞ!」

「………仕事を放り出して夜遊びしている王子が言うセリフじゃないわね」

「そりゃごもっとも! あはは!」

「笑い事じゃない!」


 騎士の握力でむぎゅッと手を握りつぶされた。

 痛い痛い痛い! 俺の手がペチャンコになってしまう!


「俺の傍に居たいって思うのなら、この眺めを覚えておくんだな」


 二人が舞い踊る貴族たちを王族の席から見下ろす。

 先ほどの緊張と恐怖はない。震えも治まっている。

 その代わり、紫と青の瞳に覚悟の光が宿っている。

 貴族ですら覚悟と責任のいる地位だが、王族はそれを遙かに上回る。

 影響力はこの国だけじゃない。他国にも影響を与える。

 王族が守るべきものは国と国に住む全ての者たちだ。

 本当に面倒くさい地位だと俺は思う。そのおかげで贅沢はできているが。


「さて、そろそろ曲が終わるな。ジャスミン、そろそろ行こうか」

「……ええ」


 ギュッと手を繋いだジャスミンが俺と一緒に立ちあがる。

 リリアーネが少し不安だな。一人でいるのは心細いだろう。

 こういう時は暇な人に任せよう!


「ディセントラ母上! リリアーネのことをお願いしまーす!」

「ええ。任されました」

「えぇっ!?」


 俺が座っていた席に実母のディセントラ母上が座って、驚くリリアーネとお喋りを始める。

 あたふたしていたリリアーネもすぐに打ち解けて、母上と楽しそうに喋り始める。

 んっ? 楽しそうにチラチラと視線を向けてくるのは何故だ? 俺の子供の頃の黒歴史を喋ったりしてないよな? 母上のことだからしてそうだな。諦めよう……。

 一度ジャスミンと手を離し、気障っぽく手を差し出す。


「俺と踊っていただけますか?」

「ええ、喜んで」


 貴族の令嬢として優雅に振舞いつつも、恥ずかしそうに頬を朱に染めたジャスミンが俺の手を取る。

 一曲目がちょうど終わる。盛大な拍手に包まれる。

 興奮冷めやらぬ中、すぐに次の曲が演奏され始める。

 俺はジャスミンを誘い、注目を集めながら、ダンスホールの中央へと進み出るのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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