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第40話 ドワーフとエルフ

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 

 俺はジャスミンとリリアーネ嬢を連れて、王都の商店が立ち並ぶエリアから閑静な地区へとやってきていた。

 昼間なのに人通りは少ない。子供が楽しそうに追いかけっこをして遊んでいる平和な地区だ。

 あちこちからカンカンと金属を叩く音がする。

 ジャスミンとリリアーネ嬢が珍しそうにあたりを見渡している。


「ここ、初めてきたんだけど。どういう所?」

「ここは所謂職人地区さ。ここで作られたものが店で売られているんだ」


 俺は複雑な道を迷うことなく進んでいく。

 時折、子供たちがお菓子をねだってくるので渡しながら、少しお喋りもする。

 子供に手を振って別れると、ジャスミンが呆れたようにため息をついた。


「はぁ…シラン、どんだけ通っているのよ」

「う~ん……結構頻繁に? 子供たちとか井戸端会議しているおばちゃんたちはいろんな情報を知ってるからよくお喋りしてる」

「アンタ何やってるのよ…。変なことしてるんじゃないわよね?」


 おっと。思わず口が滑ってしまった。

 勘のいいジャスミンが探るような目つきで見つめてくる。

 どうやって誤魔化そうかなぁ。

 多少は本当のことを言いますか。嘘をつくときの基本だ。


「俺、こういう街中のことを調べて父上にこそっと報告しているんだ」

「なんでこそっと? 堂々と報告しなさいよ! だから無能なんて呼ばれて…」


 こういうのはこそっとするからかっこいいだろ?

 堂々と仕事するなんて嫌だ。隠れてコソコソするのが楽しいんだ。


「陰でコソコソするのはなんか浪漫がありますよね!」

「だよな!」


 流石暗殺術を極めているリリアーネ嬢! ここに同志がいたか!

 同志ではないジャスミンは、何を言っているんだ、と妙な人を見る目をしている。

 そんな話をしていると、目的の場所に着いた。店かどうかもわからない家に入る。


「こんちはー!」

「おや。ウチ一番のお得意様ですか。こんにちは」


 背の高い筋骨隆々の人物が出迎えてくれた。メガネをかけて知的な印象も感じる。

 彼の名前はオウラ。ドワーフ族の男性だ。

 このお店『ハーミット』を経営している。

 オウラが俺が連れている女性二人を見て深く納得する。


「なるほど。女誑しの殿下が新たな女性とデート中ですか。あの噂は本当でしたか」

「ここまで噂が広まってるのか……」


 ジャスミンとリリアーネ嬢が家に引っ越したという噂は思ったよりも広まっているらしい。この様子なら王都中に広まっているな。

 オウラは姿勢を正して挨拶する。


「オーダーメイド宝飾店『ハーミット』へようこそ。店主をしているオウラと言います。種族はドワーフですが、よろしくお願いします」

「こっちは幼馴染のジャスミン・グロリア。そしてこちらはリリアーネ・ヴェリタス嬢。噂通り二人とデート中。連れて来た」


 ジャスミンとリリアーネ嬢がオウラに軽く一礼する。

 流石貴族令嬢。そのちょっとした動作にも気品が漂っている。


「二人とも、ここではメガネを取ってもいいぞ。というか、取ったほうがいい」


 訝しげに首をかしげながらもジャスミンとリリアーネ嬢が認識阻害のメガネを取った。

 取った瞬間、魔道具でも抑えきれなかった美貌が露わになる。

 オウラも珍しく二人の美しい雰囲気に飲まれた。


「これはこれは……流石女誑し。どれだけ美姫をそろえれば気が済むのでしょう? 殿下、本日もお買い上げありがとうございます」

「おい! まあ、頼むつもりだけどさ。というわけで、いつも通りお願いしまーす」

「かしこまりました。妻を呼んできますね」


 オウラが店の奥に奥さんを呼びに行った。

 ジャスミンとリリアーネ嬢が首をひねる。


「えっ? 彼、ドワーフでしょ? どういうこと?」

「あぁー。ドワーフが作るってイメージあるよな。でも、オウラは鍛冶とか細工が苦手なんだとさ。それよりも経理が得意なんだ。だから、オウラが店を経営して、奥さんが作るんだ」

「そういうことです」


 店の奥から女性の首根っこを掴んで戻ってきたオウラ。

 俺たちの言葉が聞こえていたようだ。


「ドワーフ族は一般的に鍛冶が得意なことで有名ですが、私は苦手で。昔から計算とかが好きだったんです。それに、ドワーフ族もみんながみんな鍛冶が得意で低身長なわけではありません。私のように高身長なドワーフもいますし、農業が好きな者、狩猟が得意な者、デスクワークが得意な者もいます。というか、様々な人がいないとやっていけません」


 そうなんだよなぁ。イメージが定着しすぎてるけど、人族だって普通に得意なことは人それぞれだ。

 オウラは手に持っていた髪がボサボサの女性を前に突き出す。


「エルフだって同じですよ。このお店の宝飾師はエルフですから。私の妻のアージェです」


 エルフのアージェはオウラに掴まれながらもクークー寝ている。

 見るからにだらしない系の女性だ。胸は大きいけど。

 オウラがアージェをプラプラと揺らす。


「アージェ。お客様ですよ。とても綺麗な女性です」

「綺麗な女性!?」


 寝ていたアージェがカッと目を見開いて突然起き、ジャスミンとリリアーネ嬢を見た瞬間、オウラの手から姿が消え去る。

 次の瞬間にはジャスミンとリリアーネ嬢に抱きついて頬ずりしていた。


「きゃー! なんて可愛い女の子なの!? このスタイルの良さ! 肌の潤い! 胸とお尻の感触! 顔も可愛い! 最高よ! うほぉぉおおおおおお!」

「きゃっ!? ど、どこ触ってんのよ!」

「あぅっ!? そ、そこは…!」


 オウラは呆れてため息をつき、慣れた様子でアージェを二人からペリッと引き剥がす。

 首根っこを掴まれたアージェは残念そうにプラ~ンプラ~ンしている。


「ウチの妻が本当に申し訳ございません。ほらアージェ」

「ごめんね~! 二人とも可愛くてつい……」


 二人は軽く息を荒げて俺の背中に隠れた。アージェを敵認定したらしい。

 可愛らしく隠れた様子もアージェは気に入ったようだ。ますます興奮しているように見える。


「アージェは女性にセクハラをするけど、腕はいいから」

「およっ? 殿下ちゃんいたの? ふむふむ。綺麗な紫の瞳と青の瞳。噂の《神龍の紫水晶(アメジスト)》ちゃんと《神龍の蒼玉(サファイア)》ちゃんね! やっと連れて来てくれたのね! 特に《神龍の紫水晶(アメジスト)》ちゃん!」

「わ、私? 一体何で?」

「殿下ちゃんがプレゼントする女性の中で《神龍の紫水晶(アメジスト)》ちゃんだけが来てなかったの! ウチはオーダーメイドだから、やっぱり本人にあったデザインのものを作りたいんだよね! ディセントラ様は連れて来るのに」


 ちょっと! アージェ! 何暴露してんだ!

 おっふぅ…。ジャスミンからのジト目が……怒りの籠ったジト目が突き刺さる。


「シラン? なんで王妃のディセントラ様は連れてきて、私は連れてこなかったのよ! というか、どうやって王妃様を連れだしたのよ!」

「い、いや……母上だし。半ば無理やりに。それに、ちょっと前まで俺、婚約者いたし…」

「あの高飛車女は連れて来たの?」

「いや教えてない。というか、まともにプレゼント贈ってない」

「………ならよし! でも、これからは私を連れて来ること!」

「へいへい。かしこまりましたよ、お嬢様。………そんな顔しなくてもリリアーネ嬢も連れるから」

「はい!」


 ジャスミンとリリアーネ嬢は嬉しそうだ。

 このやり取りを見て聞いていたオウラとアージェが同時に呟く。


「「女誑し」」

「なんでっ!? はぁ…いつも通りよろしく。九日後に舞踏会があるから、それに似合うものでお願い」

「りょーかーい!」


 いつの間にかアージェが解放されており、ジャスミンとリリアーネ嬢の手を取る。

 えっ、と驚く二人を余所に、アージェが店の奥へと連れて行く。

 俺は二人に手を振って見送る。


「セクハラをされるだろうけど、アージェに任せれば大丈夫だから。セクハラされるだろうけど」

「「えぇぇええええええええ!」」


 悲鳴を上げながらジャスミンとリリアーネ嬢が消え去った。

 俺とオウラは静まり返った店内に残される。

 オウラはいつも通りに頭を抱えている。


「なんかすいません」

「いいよいいよ。今日俺を振り回してくれたからな。少しくらいはこういうのもいいだろ。さて俺は…」

「おやっ? 殿下はどこへ行くおつもりで?」

「ちょっと外の空気を吸って日向ぼっこしてくる」


 俺はオウラにそう声をかけて店の外へと出た。

 店の建物の壁に背を持たれて、日向ぼっこをし始める。

 そして、ハイドに念話した。


『ハイド。俺を狙っている奴らは?』


 デート中、ずっと俺たちを狙っている者たちがいた。複数人。

 チクチクとした殺気を送ってきていた。わかりやすすぎる。

 たぶん、二流の暗殺者たちだ。


『雇われの暗殺者のようですね。逃げたものは全て処分済みです』

『ありがとう。消したらダメなやつはいるか?』

『いません』


 じゃあ、全部消すか。俺の行動範囲を知られるのは不味いからな。

 いつも狙われているからその都度消している。

 本当に懲りない奴らだ。誰が雇っているのかバレバレなんだけどな。

 空を見上げると太陽がまぶしく輝いている。

 小さくぼそりと呟く。


「《陽光よ(ソーラーレイ)》」


 太陽が更に明るく輝き、天から太陽光がいくつも降り注ぐ。

 潜んでいた暗殺者たちは、全て太陽光に焼き尽くされて塵一つ残らず消滅した。

 どこからの攻撃か、誰の攻撃か、自分に死の光が降り注いだことすらも気づかなかっただろう。

 痛みもない一瞬の死。

 お仕事完了。

 さてと、このまましばらく日向ぼっこをしておこうかな。

 俺は温かい太陽の光を楽しむのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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