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第39話 アクセサリー

 

 ジャスミンとリリアーネ嬢はとてもご機嫌だ。

 沢山洋服を買ってもらったことが嬉しいらしい。

 リリアーネ嬢がきらびやかなお店を指さす。


「あそこは何のお店でしょう?」

「う~ん……アクセサリーの店ね。それも宝石を使った超高級品の。行くだけ行ってみる?」

「はい!」


 二人は俺の腕を引っ張って行く。

 あれっ? このお店って……。


「ちょっと待った! ここは行かないほうがいい!」

「別に買ってなんて言わないから! 見るだけよ! それとも、またシランの女関係?」


 ジャスミンの怒りの籠ったジト目が突き刺さる。

 何故か恐怖で汗が噴き出す。


「い、いや、ここは全く関係ないけど……」

「ならいいじゃない! 行くわよ!」


 へいへい。俺に拒否権はないんですね。わかりましたよ。

 いざとなったら俺が止めればいいか。

 俺はジャスミンに連れ去られるようにして宝石店へと入っていった。

 お店の中はちょっと目が痛いくらい輝いていた。

 俺には趣味が悪い印象を覚えるゴテゴテとした装飾だ。

 すぐに太ったおじさんが出迎えてくれる。彼の太い手の指には大きな宝石の指輪があった。

 明らかに町娘の服装をしているジャスミンとリリアーネ嬢を見て、一瞬だけ顔をしかめるが、すぐにハッと気づく。二人が普通の町娘でないことに。

 魔道具ですら抑えられないジャスミンとリリアーネ嬢の美貌に舐めるように厭らしい視線を向け、夜遊び王子として有名な俺を見てニヤリと微笑む。

 明らかにカモとして見られている。


「ようこそいらっしゃいました! ささ、どうぞどうぞ」


 脂ぎった顔で擦り寄ってくる店の男。二人の身体を触って案内しようとする。

 その前に、俺は二人の腰に手を回し、グッと抱き寄せる。


「きゃっ!」

「ひゃぅっ!?」


 二人から小さく可愛らしい声が聞こえたけど、ちょっとだけ我慢してくれ。

 このお店は良い評判を聞かないお店なんだ。油断してはいけない。


「二人は俺の女だ。近寄るな」

「も、申し訳ございません!」


 明らかに今、一瞬だけ怒りと侮蔑と嫉妬と殺意の視線で俺を睨んだな、この男。

 はぁ…今日は使い魔とのデートじゃないから油断していたけど、このお店では普段通りにしたほうがいいか。


「俺たちは勝手に選ぶ。放っておいてくれ」

「わかりました」


 俺は二人を抱き寄せたまま飾られているアクセサリーを眺めはじめる。

 二人は顔を真っ赤にして大人しい。体温も熱く感じる。

 顔から蒸気が出てるけど、大丈夫かな?

 俺は二人の耳に顔を近づけて囁く。


「このお店ではいつも通り夜遊び王子を演じる。二人とも悪いが付き合ってくれ」


 二人は声を上げる余裕もないようだ。コクコクと真っ赤な顔で小さく頷いた。

 さてと。何回か来たことはあるが、なんかいいものはあるかなぁ。

 ふむふむ。やっぱり派手なアクセサリーが多いな。俺の趣味じゃないんだが。


「二人は気に入ったものはあるか?」

「ふぇっ? あっ…えーっと……どうかしら?」

「あの……えっと……これ…とかどうでしょう?」


 リリアーネ嬢が適当にルビーの指輪を指さす。


「実にお目が高い!」


 でっぷりと太った男が声を上げる。

 俺は放っておいてくれって言ったんだけどな。

 まあいいや。取り敢えず説明を聞こう。


「これは300年ほど前のドワーフが作った一点ものでございます! お嬢様にお似合いかと!」


 これがリリアーネ嬢に似合う? こんな派手で趣味の悪い指輪が?

 リリアーネ嬢も適当に指をさしただけだったので、キョトンとしている。

 似合います?、と視線を向けてきたので、僅かに首を横に振っておいた。


「それは500万…いえ、1000万イェンでございます」


 こ、こいつ! 俺からぼったくるために値段を二倍にしやがった!

 男は欲深い濁った瞳をして、ジャスミンとリリアーネ嬢の身体を眺め、口はニヤリと笑っている。


「う~ん……私が気に入ったものはないわね」


 ジャスミンが店内を確認して呟いた。

 それを聞いた男が僅かに怒気を漏らし、なんのか堪えて俺たちを引き止めようとする。


「す、少しお待ちください! 店の奥からお嬢様にお似合いのとっておきを持ってきますので!」


 太った男はドタドタと足音を響かせ、店の奥へと消えていく。

 そして、すぐに戻ってきた。男が持ってきたのは大きなアメジストとサファイアが使われたネックレスだ。他にもダイヤモンドとかシルバーとかゴールドも使われている。


「これはどうでしょう? 綺麗でしょう? お二人の瞳のように美しいアメジストとサファイアで出来たネックレスでございます」


 ドラゴニア王国では瞳を宝石で例えるのは最上の褒め言葉だ。

 しかし、普段からお世辞を言い慣れているジャスミンとリリアーネ嬢には効かない。

 持ってこられたネックレスをじっと見つめている。


「ねえ? これはいくらかしら?」

「お一つで1億イェンにございます」

「ふぅ~ん。これ、つけてみてもいい?」

「もちろんでございますとも!」

「それでは私も」

「どうぞどうぞ!」

「あっ、待って。シランがつけてくれない?」

「私もシラン様がいいです」


 男がネックレスをつけようとしたのを察したジャスミンが俺にお願いしてくる。

 太った男はキッと俺を睨みながらも渋々俺に代わった。

 俺はジャスミンとリリアーネ嬢にネックレスをつけてあげる。


「どうかしら?」

「似合っていますか?」

「大変お似合いです!」

「アンタには聞いてないわ! シランどう?」


 ジャスミンさん容赦ない! 流石だ。

 俺はじっと二人を眺める。


「正直な感想を言ってもいいか?」

「ええ、もちろんよ」

「もちろんです」

「あんまり似合ってない」

「そうよね。似合ってるって言ったらぶっ飛ばしてたわ」

「ですよね。流石にこれは私も……」


 俺はササッとネックレスを外してあげる。

 すると、呆然と固まっていた太った男はプルプルと怒りを押し殺しながら言葉を発する。


「こ、これはあの《神龍の紫水晶(アメジスト)》と呼ばれているジャスミン・グロリア様と《神龍の蒼玉(サファイア)》と呼ばれているリリアーネ・ヴェリタス様が愛用していらっしゃる姉妹品ですよ! 今買わないと実に勿体ない! それに、長年店を営んでいる私にはわかります! とてもよくお似合いでした!」


 そこまで買わせたいのか。否定されたことでプライドが傷ついたか?

 本人を前にそんな嘘を言うとは憐れだな。

 ジャスミン・グロリアとリリアーネ・ヴェリタスは知らなかったという顔を作る。


「へぇー! あの《神龍の紫水晶(アメジスト)》様が愛用ねぇ」

「知りませんでした。《神龍の蒼玉(サファイア)》のリリアーネ様が…」


 ぷっ! 二人ともやめて! おかしくて笑いが漏れそう!

 びっくりした演技をしている二人を見て男は機嫌を良くしたようだ。


「そうですとも! 私のお店は《神龍の紫水晶(アメジスト)》様と《神龍の蒼玉(サファイア)》様の御用達のお店なのです!」

「ふぅ~ん。そう言えばシラン殿下はお二人とも仲が良いとお聞きしましたけど?」


 ジャスミン本人が俺に問いかけてくる。

 俺を思い出した男が顔を真っ青にして汗をダラダラと流し始める。

 特にジャスミンとは幼馴染で仲がいいというのは昔から有名だ。


「う~ん…どうだったかなぁ? 覚えていないなぁ」


 俺はわざと惚けてみた。

 男はふぅっと安堵の息を吐く。

 おいおい。覚えていないというのは知らないってことだぞ。


「そうなの。まあ、普通の町娘の私たちには荷が重いわね」

「そうですね。私たちは普通の町娘ですから気後れしてしまいます」

「行きましょシラン」

「デートの続きをしましょう」


 ジャスミンとリリアーネ嬢は俺の腕を引っ張るとあっさりと店の外へ出る。


「お、お待ちください…!」


 男は後ろで何か叫んでいたけど俺たちはすべて無視した。

 街を歩きながら俺は二人に言う。


「だから言っただろう? 行かないほうが良いって」

「そうね。私には合わなかったわね。それに平然と嘘つくし」

「私たちに向ける視線も気持ち悪かったです。それに、宝石の質が悪くありませんでしたか?」

「そうよね! あれであの値段とかありえないわよ! シランからぼったくる気満々だったわね」


 流石公爵令嬢。ちゃんと目利きができたか。

 ちゃんと目利きができる貴族は使わないお店だ。

 目利きができないバカな貴族がぼったくられることで成り立つお店なのだ。

 ジャスミンが俺の腕にギュッと抱きついてくる。


「ねえシラン? シランが良く行くお店ってどこなの? 時々アクセサリーをプレゼントしてくれるでしょ?」

「私も知りたいです! というか、ジャスミン様が羨ましいです…」

「シランを今から連れて行って、可愛らしくおねだりすれば買ってくれるんじゃない? 私も一緒にお願いしようか?」

「お願いします!」


 俺の両サイドで盛り上がっている。

 そういう会話は、せめて俺がいないところか聞こえないようにしてくれませんかね?


「シラン! 私たちはあんたの女なんでしょ! 案内しなさい!」


 へいへい。俺はジャスミンの命令に逆らえないんです。

 俺は嬉しそうな美女二人をお気に入りのお店へと案内するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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