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第33話 八百屋

 

 俺は今、ジャスミンとリリアーネ嬢を連れて王都の街をデート中。

 ここら辺は商店が立ち並ぶエリアだ。多くの市民がお買い物をしている。


「人がいっぱいですね!」


 リリアーネ嬢はサファイアのように綺麗な青い瞳をキラッキラ輝かせている。

 そりゃそうだ。王都はドラゴニア王国最大の街だからな。

 何気にジャスミンもアメジストのような綺麗な紫色の瞳を輝かせている。


「ジャスミンはなんで珍しそうなんだ?」

「当たり前じゃない! 普通、公爵家の娘がこんな人混みの中を歩かないわよ! 来たとしても馬車に乗ってるし、普通の貴族は市民の邪魔になるからと言って近寄らないわよ!」


 それはごもっともで。

 こんな賑わいを見せる市場に馬車で乗り込む貴族など余程の馬鹿だ。

 王都には貴族の馬車が走る優先道路も存在する。

 貴族でも余程のお忍びではないとこんな場所に来るわけがない。

 こんなに賑わうからこそ楽しいのに!


「でも、ジャスミンはこの前、色街にいたよな?」

「誤解を招く言い方をするな! あれはあんたを捕らえに行ったの! この夜遊び王子!」


 バシッとジャスミンに思いっきり背中を叩かれた。

 痛い。絶対に背中に真っ赤な手形がついている。うぅ…痛い。

 ただ一人、色街という言葉を知らない少女が可愛らしく首をかしげる。


「色街、ですか? とても綺麗で楽しそうな名前の街ですね!」

「はぁ……。リリアーネ、色街は娼館が立ち並ぶエリアよ。それくらい覚えておきなさい」

「しょうかん…?」


 リリアーネ嬢は全くわかっていないようだ。

 ヴェリタス公爵! それくらい教えててくださいよ! 貴族の娘として本当に危ないですから!

 ジャスミンが呆れた様子で詳しく説明する。


「娼館と言うのはね、所謂性的なサービスを行うお店よ。どっかの馬鹿な王子が頻繁に通う場所ね! このバカ!」


 ぐはっ! ジャスミンの華麗な回し蹴りが俺の背中を直撃する。

 俺は吹き飛ばされて、あるお店の中に突っ込んだ。


「あら! 夜遊び王子じゃないか! 寄ってくかい?」


 豪快な女性の声が聞こえた。

 顔を上げると恰幅の良いおばちゃんがいた。

 ここは俺がよく喋りに来る八百屋じゃないか。


「あぁー、ちょっと寄ってくか。二人ともちょっと休憩しよう」


 俺は慌てて入ってきたジャスミンとリリアーネ嬢に声をかけた。

 二人を見た八百屋のおばちゃんが目を丸くするが、すぐにニッコリと笑った。


「可愛いお嬢さんたちじゃないか! 流石女誑しで女好きの王子殿下だねぇ」


 八百屋のおばちゃんは大声で豪快に笑い、俺の背中をバンバンと叩く。

 おばちゃんの言葉を聞いたジャスミンの顔がピキっと凍り付いた。

 ジャスミンは俺の悪口を聞くと怒るのだ。自分ではよく言うくせに…。

 怒気を放ち始めたジャスミンを背後に隠し、俺は慌てて誤魔化す。


「だろ? 今は可愛い二人とデート中なんだ。八百屋のお姉さん、この綺麗な二人に食べて欲しい美味しいフルーツはない?」


 背後の怒気が収まっていくのを感じた。

 ふぅー。危なかった。危うくジャスミンが暴れ出すところだった。

 八百屋のおばちゃんは俺に近寄って背中をバシバシと叩きながら豪快に笑う。

 だから背中が痛いって!


「あっはっは! 相変わらず正直者だねぇ! 丁度フルイト地方の桃があるけど、どうだい?」

「一個いくら?」

「一個900イェンだよ」

「………ちょっと高いな」


 と言いつつも、俺は四個分の料金を八百屋のおばちゃんに差し出す。

 高いのは不作だったのか? それとも、別の理由があるのかな?

 おばちゃんはお金を受け取り、桃を持ってきながら説明してくれる。


「そうなんだよねぇ。桃は傷みやすいから、輸送費がかかるんだよ。仕入れてみたのはいいものの、高いしすぐ腐っちまうから悩んでるんだよ。丁度今日くらいが食べごろなんだけど」

「ふむふむ。確かに美味しそうだ」


 桃の見た目も綺麗だし、甘い香りが漂って、このまま齧り付きたくなる。

 俺は桃を受け取ると、風の魔法で器用に皮をむき、氷の魔法で冷やし、空中に浮かび上がらせて一口サイズに切り、虚空からお皿を取り出して盛りつける。

 フォークを用意して、完成! ゴミはちゃんと持ち帰ります。


「おぉ! いつ見てもすごいねぇ!」

「シラン様凄いです!」


 八百屋のおばちゃんとリリアーネ嬢が目を輝かせて褒めてくれる。

 ちょっと気分がいい。どやぁ!

 それに対して、ジャスミンは呆れている。


「その超絶な魔法の技能をこんなところで披露しなくても……。魔法使いたちが泣くわよ」

「かっこいいだろ?」

「はいはい。すごいわねー。そんな技術を持っているなら、もっとやる気を出しなさいよ!」


 あっはっは! 能あるグリフォンは爪を隠す、とか言うだろ?

 俺はドヤ顔をしながらジャスミンとリリアーネ嬢に桃を差し出す。

 二人はフォークを突き刺して口に運んだ。

 その瞬間、目を見開いて驚き、美味しそうに顔が緩む。


「んぅ~~~! 美味しい!」

「はふぅ~~! 美味しいです!」

「どれどれ? おっ! 本当に美味しいな」


 桃の果肉が口の中で蕩けて消えていく。果汁も物凄く溢れ出してくる。

 八百屋に立ち寄ったのは正解だったな。

 俺たちの美味しそうな顔を見て、八百屋のおばちゃんはニッコリと笑う。


「そりゃよかったよ。《神龍の紫水晶(アメジスト)》様と《神龍の蒼玉(サファイア)》様にそう言ってくれると嬉しいねぇ」

「えっ?」

「ふぇっ?」

「ありゃ? 二人に気づいていたのか? お忍びの変装もさせたし、認識を阻害させてたんだけど」


 何故八百屋のおばちゃんにバレたんだ?

 パッと見ではわからないはずなんだけど……。


「あっはっは! 気づかないわけないさね! 噂が出回ってるよ! 《神龍の紫水晶(アメジスト)》様と《神龍の蒼玉(サファイア)》様が殿下のお屋敷に住み始めたって! そして、殿下が変装させた訳ありの綺麗すぎる女性二人を連れてきた。瞳は綺麗な紫色と青色。これはもう二人しかないだろう? 特に《神龍の紫水晶(アメジスト)》のジャスミン様は殿下と親密な関係と言われているからね。すぐにわかったよ」


 くっ! 流石井戸端会議議長の八百屋のおばちゃんだな。名推理だ。

 そして、ジャスミンさん? 親密な関係と言われて嬉しそうにしないでください。可愛いから。

 あと、認識阻害用のメガネも改良しないと。瞳の色を変更させないとなぁ。課題がたくさんだ。


「八百屋のお姉さん。お忍びだから秘密にしておいてくれ。訂正しておくが、二人は俺の家に住み始めていないからな。旅行気分でお泊りに来ているだけだからな」

「あっ、シラン。言い忘れてたけど、私、住み始めたわよ」

「私もです。引っ越しをしました」


 えっ? そうなの? 住み始めた? 引っ越しした?

 ………………事後報告止めません?


「ちなみに、誰が許可したの?」

「「国王陛下!」」

「あのクソ親父! 今度会った時覚えてろよ!」


 俺は城に向かって叫ぶ。

 あの性癖異常者! 頭のてっぺんだけ永久脱毛してやる!


「あっはっは! よかったじゃないか殿下! こんな可愛らしい女性が二人もひとつ屋根の下だなんて!」


 背中をバシバシと叩いてくる八百屋のおばちゃん。

 痛い痛い痛い! 痛いってば!

 俺は背中がひりひりしながら、みずみずしい桃を食べる。

 この甘さが癒される。俺を癒してくれるのはこの桃だけなんだ…。


「おにいたん! ちょーだい!」

「んっ? いいぞー。ほれっ、あ~ん」

「あ~ん! んぅ~! おいし~!」


 そうかそうか。それは良かったな。

 ………………………………んっ? 今のは誰の声だ?

 ふと真下を見ると、美味しそうに桃を頬張っている幼女がいた。

 えーっと、この可愛らしい幼女様はどちら様?



お読みいただきありがとうございました。


すいません。

昨日、人物紹介を忘れていました。

今回はロイヤルファミリーを紹介します。

出てきていない人もいますけど……。



国王ユリウス・ドラゴニア


第一王妃アンドレア

→第一王女アリーネ  21歳 結婚済み

→第二王子アルバート 20歳 結婚済み

→第四王子アーサー  13歳 婚約者あり


第二王妃エリン

→第一王子エルネスト 22歳 結婚済み

→第二王女エルーザ  19歳 婚約者あり

→第三王女エミリー  18歳 婚約者あり


第三王妃ディセントラ

→第三王子シラン   17歳 婚約者なし(婚約破棄済み)


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