第315話 動きだす者たち
大変お待たせいたしました。
前回までのあらすじ:歌姫セレンが歌い始め、オーロラが広がった。
夜空に広がるオーロラのカーテン。
緑、紫、赤と色を変え、揺らめきながらドラゴニア王国の王都を照らし出す。
幻想的な光景は人だけでなくモンスターさえ魅了する。誰もが動きを止めていた。
オーロラを作り出したのは宙に浮かぶ一人の女性。舞い落ちる黒い羽。
極光を背景に歌を歌っている。
耳だけでなく心や魂にまで直接届く彼女の歌声は、聞く人を内側から震えさせ揺さぶった。
『なんだ……女神……か?』
『私たちは……夢を見ているの……?』
『儂は……死んだのか? ここはあの世か?』
『ありがたやぁありがたやぁ』
『綺麗……』
モンスターに襲われていることなど忘れて、歌姫セレンの歌に酔いしれる。
ある者は呆然と口を開け、ある者は涙が止まらない。またある者は膝をついて祈りを捧げ、ある者は純粋無垢な眼差しを向ける。
真っ先に歌姫の呪縛から逃れたのは心を持たないモンスターだった。
刻まれた本能が復帰し、本能の赴くまま、獲物を求めて動き出す。
不快な高周波をまき散らしながら、奇怪な肉塊が這い進む。
次に動き出したのは、ある人に縁のある女性たち。
――歌姫セレンの行動をきっかけに、彼女たちも動き始める。
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「――何を呆けておる?」
「っ!?」
オーロラに見惚れ、歌声に聞き惚れていたジャスミンは、揶揄いを含んだ蠱惑的な女性の声で意識を取り戻した。
視界いっぱいに広がるのは襲い掛かってきたモンスター。
ジャスミンに襲い掛かろうとしていた肉塊が展開された結界にぶつかって弾き飛んで行ったところだ。
シャランと神楽鈴の音色が鳴り響く。
「貴女は……」
「ほれほれ。さっさと倒さぬか。呆けておる暇などないぞ」
コココ、と漏れる笑い声。鉄扇を広げて彼女はニヤリと浮かんだ笑みを隠す。
「ギブアップならそう申すがいい。妾が全て倒してやろう」
どうする、と花魁風の金髪金眼の狐の獣人は流し目でジャスミンを挑発する。
ムッと苛立ちを覚え、ジャスミンはあえて挑発に乗った。
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リリアーネの眼前に巨大な火柱が立ち昇る。
不思議と熱は感じない。心地良い温もりを感じるだけだ。まるでぬるま湯に浸かり、背後から愛しい人に優しく抱きしめられているかのよう。
玉のような肌にとても目立つかすり傷が癒えていく。
敵には灼熱で炙り、味方には再生を与える赤い炎だ。
身体の奥底から力が湧いてくる。
「うーん……極光の歌姫ちゃんが行動したかぁ。なら、私もすこーし頑張ろうかなぁー」
「緋彩さん?」
「こっちの話。そろそろ飽きてきたし、早くぐ~たらしたいなぁってことで、私、動きます!」
メイド服の少女の足元から赤い炎が噴き出す。
炎を自由自在に操りながら、赤い翼を生やした少女は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「多く倒したほうがご主人様に甘えられるゲーム。スタート!」
「ちょっ! そんな突然!? 待って! 少し待ってください!」
「待ちませーん! 早い者勝ち!」
リリアーネの目の前で、視界の中にいたモンスターが全て焼き尽くされた。
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モンスターが店を壊す。
王都の中でも一番賑わいを見せる商業地区だ。
高ランクの冒険者が防衛していた区画でもモンスターが動き出した。
しかし、冒険者たちも逃げ遅れた大勢の人々も心を奪われて動けない。
無防備な者たちにモンスターが襲い掛かる。
防衛にあたっていた冒険者ギルドの人気受付嬢シャルが我に返るがもう遅い。
彼女に伸びる触手とのしかかる巨大な肉塊――
「《繰糸》」
どこからともなく糸が伸び、瞬く間にモンスターを絡めて覆い尽くした。
モンスターの膨らみが残る糸玉。
糸が蠢き、絡み合い、織り合って、膨らみがどんどん小さくなっていく。
スルスルと糸が解けた後には何も残っていない。モンスターは跡形もなく消え去った。
「一体何が……!?」
「――あのさ。せっかく人が気持ちよく作業してたのにさ、邪魔する奴はどこの誰だい?」
シャルの狼耳がピョコピョコと動き、声の主のほうを振り向いた。
有名服飾店『夕雲の恋糸』から出てきたのは赤と黒のメッシュ髪の有名デザイナーだ。
ゴゴゴッと空間が震えるほど怒りをあらわにしている。
「ひぃうっ!?」
シャルが怯えてしまったのも無理はない。
糸を操る彼女の血走った瞳はギラギラと光り、激怒していることは誰の目から見ても明らかだ。
決して、寝不足だからイライラしているわけではない……はず。時間を忘れるほど夢中になっていた服の製作を邪魔されたから怒っているのだ……たぶん。
あまりの迫力にシャルの耳がペタンと折れ、尻尾がだらしなく垂れ下がる。
そして、怯えを知らずに襲い掛かるモンスターの群れ。
ギラリと少女の瞳が光った。
「《絡糸嬢》」
糸を紡いで出来上がった複数の女性の像。
少女は糸を伝って女性たちを操り、モンスターを撃退していく。
糸の乙女たちに倒されたり、糸に包まれて消え去るモンスターの群れ。
「フハッ……フハハハハ! 何徹したかわからないボクのテンションを嘗めるなぁー! 邪魔する者には死だぁー! 殲滅だぁー!」
フハハ、と魔王のような高笑いが響き渡る。
周囲の人々は呆気に取られて硬直。
その時、どこからともなく狼の遠吠えが轟いた。
「ひぃっ!? ごめんなさいごめんなさい! 私も頑張りますぅー!」
ビクッと震えたシャルも、涙目になりながらモンスターに襲い掛かった――ふっわふわの尻尾は恐怖で垂れ下がったまま、片手でお腹を隠して。
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王都の北門では、オーロラに目を奪われて、誰もが空を飛ぶモンスターの大群を忘れていた。
歌姫の歌声に混じる耳障りな高音で思い出した時には、もう既に敵が迫って来ていた。
対処をしようにも甚大な被害は逃れられないだろう。
アルストリアの隣に、ふわりと黒いローブ姿の少女が降り立った。
コンッと杖を地面に打ち付けると、空と地面に巨大な魔法陣が描かれる。
「今ここに現世と幽世は重なり合ウ。《冥界顕現・黄泉》」
その瞬間、その場にいた人は自分は死んだと思った。
首筋を撫でる明確な死を感じた。
目の前に広がるのは黄金の川。あらゆる伝説に登場する冥界を流れる川である。
川辺に咲き誇るのは赤い彼岸花。妖しく咲き乱れ、濃密な血の芳香を漂わせている。
この場は危険だと誰もが思った。あの川の先に進んではいけないと本能が警告している。が、何故か魂が引き寄せられる。
気を抜けば足が黄金の川へと進んでしまう。
モンスターも例外ではない。生きている限り世界の法則に従う。
理性が存在せず、刻まれた本能しかない分、冥府の引力に強く引かれてしまうらしい。
フラフラと誘われて冥界の川へと自ら落ちていく。
落ちたモンスターは黄金の水に溶かされ、肉体の形状が保てず崩壊する。そのまま冥界の川の流れに流されて消え去った。
病的なまでに肌が青白い黒髪黒目の少女は再度杖を打ち付ける。
「この地は冥界。故に女帝リッチは命ジル! 目覚めヨ! 《骸骨の軍団》」
地面から這い出してくる人骨。数百、数千の骸骨が隊列を組む。
「まさか……《死者の大行進》!? ローザの街みたいに!?」
《魔物の大行進》と同時に発生した《死者の大行進》に戦っていた者たちは絶望した。
「いえいえ、違いますヨ。彼らは味方デス」
言葉を失うアルストリアの隣で、骸骨を召喚した少女が得意げに微笑んだ。
命令に従ってモンスターを取り押さえ、自分もろとも冥界の川に落ちる。
彼女の魔力が枯渇しない限り補充され続ける無限の死者の軍団に、冒険者たちは寒気を堪えきれない。
「嘘……なにこれ……これは夢?」
「いいえ、現実デス。あのォ~、固まっていないで手伝ってくれまセンカ? この大群を一人で何とかするのは出来なくはないけれど、時間がかかりマス」
「あっ、そ、そうですよねー」
「ちなみに、ローザの街では身内? がご迷惑をおかけしマシタ。ワタシ、あの《死者の大行進》の時の皇女リッチデス。今は女帝リッチですケド」
「えっ……? 女帝リッチ? えぇぇぇえええええっ!?」
突然の告白に、アルストリアは驚きから復活するのにしばらくの時間を要した。
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王都の東では、モンスターが赤紫色の石柱に閉じ込められていた。
透明感のある煌びやかな緋色の翠玉。
封印にも似た強固な結晶をモンスターは侵食することが出来ない。
身動き取れないモンスターを、易々と石柱ごと砕く鮮やかな溶岩色の髪の女性。
「やぁ! たぁ! とぉー!」
可愛らしい掛け声と共に放たれる拳と蹴り。
動くたびに巨乳がたゆんたゆんと揺れる。
「とりゃっ!」
腕が振るわれ、また石柱ごとモンスターが粉々に砕け散った。
ついでに、勢い余って地面を深く抉るが気にしない。いや、見て見ぬふり。
ツゥーッと一筋の冷や汗が流れた。
そこら中地面はクレーターだらけ。隕石が大量に衝突したかのように地形が変形している。
彼女が攻撃するたびに地震が起きる。
「もうちょっと手加減して」
緋色の翠玉の石柱を作り出す赤紫色の髪の女性が、自然破壊を行う女性をジト目で睨んだ。
物凄く不快そうな表情だ。
瞳が、迷惑を被るのはこっちなんだぞ、と言いたげ。
ダラダラと冷や汗をかく女性は石柱を砕きながらギギギッと首をかしげ、
「こ、これでも手加減してるんだけどなぁー……あっ!」
力加減を間違え、地面を殴りつけた途端噴き出す灼熱の溶岩。
半径50メートル内の石柱に降りかかり、ドロドロに溶けたオレンジ色の波が呑み込んだ。
グツグツと煮立った地面の音が戦場を支配する。
どうしよう、と慌てる涙目の女性と、全てを察知して被害を免れた女性の、やっぱり、と言いたげな冷たく濡れたジト目。
「け、結果オーライ?」
「どこが? また滅茶苦茶にして……」
「ごめんなさーい! 今度はちゃんとするから! 地面には影響ないように、地面には影響ないように……」
足を肩幅に開き、腰を落とす。構えたまま呼吸を練る。
「《空振波》」
虚空に放たれた掌底。
空気の振動が衝撃波を発生させ、辺り一帯に広がった――火砕流の如く、敵味方関係なく地面を深く抉りながら。
草木が吹き飛び、灰が舞う茶色い地面の大地。
「…………」
「せめて何か言って! 何か言ってよぉー!」
「……怪力乳牛のあほ。また私まで殺す気?」
「ぐはっ!? そんなつもりじゃなかったのぉー!」
私はただの乳牛になりたいよぉー、と叫ぶ女性に、巻き込まれかけた女性のジト目が突き刺さる。
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二人の獣人が南門の上から眺めていた。
太陽と月のような毛並みを持つ狼の双子の獣人だ。白い仮面をつけて顔を隠している。
一人は生真面目に、一人は好戦的に迫りくるモンスターを睨みつけた。
「あれ、倒していいの? ぶっ殺すよ?」
「ええ。殲滅です」
「少しは遊べるかなぁ」
「遊べるといいですね。物足りなかったらご主人様に遊んでもらえばいいと思います」
「ナイスアイデア! さっすが真面目ちゃん」
「貴女がだらしないだけです……ふぁ~あ。眠いです」
彼女たちは恐怖を一切感じていなかった。欠伸をする余裕すらある。
「それにしても、腑抜け獣人種が多いねー」
クンクンと鼻を鳴らし、チラホラと見える獣人たちの恐怖の臭いを嗅ぐ。
残念。落胆。期待外れ。
今にも尻尾を丸めて逃げ出しそうな獣の血を引く者たちが残念でならない。
歌姫の歌声で硬直していなければ、多数の逃亡者が出ていたことだろう。
「一度喝を入れましょうか」
「そうしよー」
獣の誇りを思い出させるために、二人は大きく息を吸った。
『『 ワォォォォオオオオオンッ! 』』
ビクッと飛び跳ね、振り返る獣人たち。中にはその場に倒れてお腹を見せる者もいた。
圧倒的格上の獣人の遠吠えに本能が悲鳴を上げる。
耳がペタンと垂れ、尻尾は股の間。身体は小さく縮む。
「……やりすぎましたね」
「……だねぇー」
遠吠えは逆効果だったようだ。喝を入れるつもりが萎縮させてしまった。
「まあいいでしょう」
「久々に大暴れするぞー」
タンッと最前線に軽やかに着地し、同時に雄叫びを放つ。
『『 GaaaAAAAAAAAAAAAA 』』
《獣の咆哮》――大音量の吠え声が衝撃波となってモンスターを吹き飛ばした。
一瞬の空白地帯で、背中合わせに立った双子の姉妹がニヤリと歯をむき出して獰猛に微笑む。
まさに獣。獲物を狙う野生の狩人。
「撃破数でも競っちゃう?」
「いいですね。偶には勝負しましょう」
狼の姉妹は同時に攻撃を繰り出す。
「《陽爪》」
「《月爪》」
黄金と白銀の爪によって数百体のモンスターが塵になった。
姉妹は同時に動き出す。
今宵は一方的な蹂躙の時間だ。
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「《獄炎槍》」
一閃。
真紅の線が走り、数十体のモンスターが蒸発する。
王都の西側を防衛するヴァルヴォッセ帝国の元帥ブーゲンビリア・ヴァルヴォッセは戦場を駆け抜けていた。
すれ違いざまに槍で突き刺し、斬り裂き、薙ぎ払う。
足は一度たりとも止めない。彼女が駆け抜けた後にはモンスターが次々に消滅していく。
「ハッ!」
チラリと頭上を見上げてブーゲンビリアは笑みを漏らす。
彼女を照らすオーロラの光。彼女を後押しする歌姫セレンの歌声。
身体から湧き上がる力や高揚感が彼女の心をさらに昂らせる。
「ハハッ!」
殲滅速度が上昇する。
斬って、突いて、薙ぎ払って、倒して、燃やして、吹き飛ばして殺し尽くす。
「ハハハッ!」
戦場に戦闘狂の獰猛な歓喜の笑い声が響き渡る。
込み上げる笑いが抑えられない。我慢できない。
次から次へと湧き出すモンスター。まさに入れ食い状態。
こんなに楽しい戦場は久しぶりだ。そして同時に――はらわたが煮えくり返る。
「この街は余の妹が住む街だぞ」
槍を持つ手に力が入り、手加減抜きの一撃が放たれた。
モンスターの大群が蒸発し、空気が燃え盛り、空間が焼け焦げる。
ブーゲンビリアは怒りのまま咆えた。
「余から妹を……家族を、奪う気か!? モンスターども!」
真紅の爆炎が立ち昇った。熱風や爆風が吹き荒れる。
彼女は槍を一閃し、煙や熱せられた空気を全て断ち切る。
陽炎が揺れる。
なおも押し寄せるモンスターの大群。
縦長となった真紅の瞳を燃やす帝国騎士は、大量のモンスターを睨みつけた。
「かかってこい。帝国最強が相手をしてやる」
刻まれた本能しかないはずのモンスターが、彼女の圧に、存在に、恐怖した。
▼▼▼
閃光が弾けた。
光の矢がモンスターを貫き、消滅させる。
「姫様、せめて戦闘員はお力の範囲外にして欲しかったです」
「えーっと、ごめんね?」
強力な精神魔法によってヒースの声が届いた範囲の人物は全員が空を見上げて呆けていた。
空に浮かぶのは歌姫セレン。
避難民も戦闘員も全員が魅了されて動けなくなっていたのだ。
モンスターの襲撃に反応できたのはエリカだけ。
力の制御ができなくてつい……、と手当たり次第精神を誘導したヒースが可愛らしく舌を出すが、エリカには通用しない。
ため息をつきたい気分だが、詰めが甘いヒースには慣れっこだ。彼女の補佐をするのがエリカの役目。
「姫様のおかげで民の不安は取り除けました。私たちの役割は――」
「――この場をまとめることだね……って、他国の私たちがやってもいいのかな?」
「……緊急事態なので。何か言われたら、旦那様の婚約者だから、と押し通します」
「なるほどー」
地面が揺れ出したのはその直後のことだった。
ゴゴゴッと下から突き上げるような小刻みな震動。
モンスターの襲撃か、と民の間に恐怖と緊張が走る。誰かが悲鳴を上げた。
その時――
「《精霊樹》」
地面を震わせながら王都の広場にニョキニョキと成長する一本の樹。
枝が絡み合うように太くなり、みずみずしい緑色の葉が生い茂った。
まるで世界樹。人知を超えた力を持つ古の大樹だ。
心を落ち着かせる木の香りが辺りに漂い、嗅いだ者がリラックスする。
薄っすらと輝く大樹の光には治癒を促進させる効果もあるらしい。軽い切り傷やかすり傷が癒えていく。
自然と関わりのある種族であるエルフたちは、涙を流して大樹へと祈りを捧げ始めた。
大樹の根本。まるで木の精霊ように幹に寄り添って立つ女性が一人。
緑色の瞳で優しげに微笑む。
「怪我人をここへ。治療いたします」
御伽噺のごとき光景だった。
ハッと我に返ったヒースがすぐに民を誘導させる。
「怪我した人は彼女のところへ。治癒魔法が使える人も移動をお願いします。重傷者や戦っている人が優先です! ご協力をお願いしまーす。はいそこ! 割り込まない!」
エリカやランタナたち騎士団にも助けられながら、ヒースは民を誘導していく。
大量の避難民が集まる王都の広場は、それ以降、大きな混乱は起きることはなかった。
「全ては甘美なご褒美のために! あぁ……大勢の人がいるこの場で、誰にもバレないようにご主人様にイジメられたい……」
ざわめきを取り戻す王都の広場。
愛おしそうに首に嵌められた首輪を撫でながら呟かれた独り言は、誰の耳に届くこともなく密かに消えていったという。
▼▼▼
セレンの歌声が響き渡っている。
身体の奥底から湧き上がる力。元気。勇気。やる気。興奮。高揚。
疲労感や恐怖や絶望もどこかへと吹き飛び、今は身体に有り余るほどの力が宿っている。
歌姫セレンの歌声の影響だ。精神に作用して気分を昂らせる。
アドレナリンの分泌によってもたらされる火事場の馬鹿力の強制解放である。
『これは……なんだ!?』
『力が……力が溢れてくるぞ!』
『痛みも疲れも消えた!? これならやれる!』
『歌姫セレン様の応援だー! 見ててください、セレン様ぁー! 俺、やってやりますよー!』
『はぁ? 歌姫は俺を応援してくれてるっつーの!』
『あ゛? 俺に決まってるだろ!』
『ヒャッハー! やっちまえー!』
『モンスターなんかぶっ飛ばすぞ、野郎ども!』
『『『 おぉぉぉおおおおおおおおおおおお! 』』』
『野郎じゃなくて淑女もいるっ! 私たちもやるわよ!』
『『『 おぉぉぉおおおおおおおおおおおお! 』』』
戦う者たちの鬨の声が空気を揺るがす。
モンスターへの反撃が始まる。
お読みいただきありがとうございました。




