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第300話 ライブの準備

祝! 300話!

 

 先日、働く女性コンテストが開催されていた王都の広場。

 コンテスト会場をそのまま使用し、明日は歌姫セレンのライブ会場となる。

 もちろん、装飾や観客席など変更することは多い。現在、スポンサーのファタール商会の職員たちがせっせと設営中だ。

 指示を出すのは歌姫セレン本人。


「それはですねぇ~、そこじゃなくてもう少し左のほうへぇ~。あぁ~行き過ぎですぅ~。そうそう。そこでお願いしますねぇ~」


 ステージ上で、間延びした声ながらもテキパキと配置を細かく指示している。

 俺とジャスミンとリリアーネとヒースとエリカの五人は、邪魔にならないよう隅っこに集まりながらその様子を眺めていた。


「はぁ……すごい」

「舞台裏まで見ることができるなんて」

「お兄様やお姉様に自慢しよっと!」

「旦那様、感謝いたします」


 ファンの女性陣はこういうライブの裏側を見ることができて感激している。

 キラキラした眼差し。直接の感謝の気持ちがくすぐったい。

 彼らは王侯貴族の令嬢だ。見たいと思っても本来は見ることができない不自由な立場。

 地位が高くなればなるほど、柵が多くなるのだ。


「礼を言うならセレンに言ってくれ」


 この舞台裏ツアー(?)はセレンからの申し出だ。

 それを聞いた女性陣は即座に上目遣い。無言のおねだりに俺は即座に撃沈しました。

 おねだりしなくても誘うつもりだったし……でも、可愛い彼女たちを見ることが出来て良かったです。


「それに、ライブの準備を見ようと思えば見れるからな」


 舞台袖からそっと顔を出すと、王都の広場には多くのファンが詰めかけていた。

 歌姫セレンを一目見ようと集まっているのだ。

 ライブ前日なのに大盛り上がり。ステージ上で指示を出すセレンに大歓声。


「セレン様はすごい人気ですね」


 リリアーネが蒼玉(サファイア)の目を丸くしている。


「だよな。前日の準備も有名というか、ファンの間では前日の準備と本番当日を合わせた二日間がライブなんだ」

「「「「 へぇー 」」」」


 歌を歌っている時とは別人のような素のセレンが見られるということで、前日は前日でファンが大勢押し掛ける。

 そして、ファンの中には決して破ってはいけない禁断のルールというものが存在するという。


 ―――歌姫セレンの邪魔をしない。


 たったのこれだけ。

 それも当然だろう。迷惑をかけるのはファンとは言えない。

 彼らは邪魔をしないようセレンを見守り、応援する。明日のライブのために。

 しかし時々、セレンに近づこうとしたり、準備の邪魔したりする人もいる。が、彼らはセレンのファンに拘束され、どこかへと運ばれていくらしい。

 その後は人が変わったかのように大人しくなってファンの仲間入りするというが、運ばれていった先で何が起こっているのだろう。

 洗脳? 調教? 教育?

 恐ろしいからこれ以上知りたくない……。世の中には知らないほうが良いこともある。

 もはや一種の宗教と言っても過言ではない気がする……。


「俺たちは隅っこでこうしてじっとしておくこと。絶対に邪魔をしてはいけないぞ」

「「「「 はーい! 」」」」


 素直な返事ですな!

 俺たちは無言でじーっとセレンの様子を観察し続ける。


「そ、そんなに見つめられると恥ずかしいですぅ~」


 セレンは照れてモジモジ。

 いやいや。現在進行形でファンの数百人、数千人に見つめられているではないか。

 たったの俺たち五人に照れてどうする。


「っ!?」


 ハッ!? 熱狂的な信者……じゃなくてファンたちの視線を感じる!?

 邪魔すんじゃねぇぞゴラァ~、という裏社会の人間と遜色ない無言の脅迫が突き刺さるぅ~! ……俺にだけ。

 なんで女性陣には睨まないの? なんで!?

 きっと彼女たちが美女だからだろうなぁ。

 世の中は理不尽だ。


「シラン君、手を出してぇ~」

「あっ、はい」

「少し飛びますよぉ~」


 反射的に差し出した手を握ったセレンは、タンッと軽やかにステージの床を蹴った。そして、セレンは俺を引っ張って10メートル以上の高さから飛び降りた。

 ファンの間から悲鳴が上がる。

 しかし、セレンは飛び降り自殺をしたわけでも俺と共に心中したわけでもなかった。

 重力から解放されたように不自然なくらいゆっくりと宙を飛び、設営が進む観客席の中央付近に俺たちは衝撃もなく地面に着地する。怪我は一切していない。

 どよめきが巻き起こる。


「シラン君から見てぇ~、ステージはどう思いますかぁ~?」


 おっとりとした声だが、ステージを見つめる表情はとても真剣だ。

 多くの人に最高の歌を届けたい。純粋な想いだ。


「上からと下からじゃ見え方が変わるな……」


 観客席に立つと、ステージ上では気付かなかったところがわかる。


「少し左側の装飾のバランスが崩れていないか?」

「んぅ~? いいえ、違いますねぇ~。左側が正しくて、右側がズレていますよぉ~」


 何やらハンドサインで装飾の変更を告げる。瞬く間に修正された。

 後はそうだな……


「セレン。一度ステージに立って発声練習か何かをしてくれないか? 本人が立たないとよくわからない」

「それもそうですねぇ~」


 タンッと軽やかに地面を蹴り、再び重力から解放されるセレン。彼女はそのまま空を滑るように飛び、音もなくステージに着地した。

 まるで背中に羽が生えているような動きだ。


『あぁ~あぁ~テスト、魔道具のテストですぅ~』


 拡声の魔道具がセレンの声を遠くまで届ける。


『聞こえていますかぁ~?』


 俺は手で大きく丸を作ってセレンに返答。

 ファンたちが集う俺の背後は、不気味なほど静まり返っている。なんか怖い。


『ではぁ~、軽く歌ってみますねぇ~』


 アカペラで歌い始めるセレン。歌っているのは彼女のお得意の子守歌。

 くっ! わざわざその曲を選択しなくても……。

 美しい歌声に酔いしれながら、俺は明日のライブの設営のお手伝いをするのだった。










 ▼▼▼



「モンスターがいねぇ。出てこーい」

「しっ! 静かにしろ! 近くに潜んでいたらどうする!?」

「そう言われてもよぉ。全然いないじゃん。逆に襲ってきてくれた方がありがたいぞ」


 王都から少し離れた森の中。冒険者のパーティが常設依頼を受けて探索をしていた。

 幼馴染で構成された五人の少年たちのパーティ。

 全員十代半ばだろう。思春期によくある驕りが感じられる。


「これじゃあ報酬が無しだ。こんだけ探してゼロとか洒落にならねぇーよ!」


 苛立った少年の一人が剣を抜いて近くの茂みを切りつける。

 葉や枝がバラバラと地面に散らばった。


「おっ?」


 鬱蒼とした茂みが切り裂かれたことで、少年は何かを発見した。

 遠くに見える何かの影。何かが動いている。大きそうだ。


「やったぜ! 見つけた!」


 少年たちは息を潜め、ゆっくりと近づいていく。

 今まで焦らされていた分、彼らは興奮が抑えきれない。

 配置についた。彼らは目配せをして、モンスターに奇襲を仕掛ける。

 茂みから飛び出したその瞬間―――彼らは言葉を失った。


「な、なんだこれ!?」


 地面に輝く緻密な魔法陣。魔力は感じない。

 それもそのはず、魔法陣の中心に蠢く何かが魔力を貪欲に喰らっているのだ。

 ゴブリン、ラビット、ゾンビ、人間、スライム、その他いろいろな生物が混ざり合った吐き気を催すほど醜悪な物体。ブヨブヨした奇怪な肉塊。化け物(クリーチャー)

 地脈から供給される魔力を喰らって成長し、増殖している。


 果たしてこれを生き物と言っても良いのだろうか……?


 蠢く肉塊はドクンと不気味に脈動。

 腕というよりは触手を伸ばすと、捧げられたエサを絡めとる。

 エサというのは―――動きを止めた冒険者の少年だ。


「う、わぁぁあああああああ!」

「い、いやだぁぁあああああ!」

「誰か助け……!」


 魔力の豊富な生きた新鮮な血肉を、蠢く肉塊は貪欲に喰らって自らの糧とする。

 少年たちは一人の残らず跡形もなく喰われた。

 ドクンと脈動して瞬く間に成長した肉塊は、なおも地脈の魔力を喰らいながら、決められたプログラムに従って自らの身体の一部を切り離す。

 二つに分裂した肉塊。脈動しながら成長し、また分裂する。

 分裂しては成長し、分裂しては成長する。その繰り返し。

 増加した肉塊たちは、刻まれたプログラムに従って、ゆっくりと蠕動しながら動き始める。

 人によって造られた生き物が向かう先は、新鮮なエサが多く集まるドラゴニア王国の王都だ。




 この魔法陣と奇怪な肉塊が配置されているのは、東西南北の四か所。そして、王都の内部に一か所。

 ゆっくりと危険が迫っていることに、今はまだ誰も気づいていない。


お読みいただきありがとうございました。


これからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 300話おめでとうございます。これからも頑張ってください。
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