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第298話 無意識

 

 パタン!


 パタン!


 パタン!


 パタン!


 パタン!


『ふぅ~!』


 五つの本を閉じる音。五人の大きく息を吐く音。

 あれから二時間ほど。各々トイレや水を飲むとき以外は全員が黙々と読書をしていた。

 集中力の凄いこと。俺が話しかけても皆無視だった。

 今ちょうど、読みたい本を全て読み終わったらしい。

 凝り固まった身体を伸ばす女性陣。衣擦れの音。気持ちよさげな艶めかしい声。

 思わず俺の意識が本からズレて、女性陣に向いてしまう。

 紫水晶(アメジスト)の瞳と目が合った。


「……何やってるのよ」

「何って見ての通り読書だが」


 今度は蒼玉(サファイア)の瞳と目が合った。


「シラン様。それはどう見てもイチャイチャにしか見えません」

「えっ?」


 リリアーネに指摘されて、俺は自分の状況を確認する。

 まず、目の前には宙に浮かぶ本。読書をしていたのだから本があるのは当然だ。

 そして……ふむ。この右手に感じる柔らかくてスベスベした気持ちの良いものはなんだろう?

 さっきから無意識に触っていたもの。ずっと触り続けていたいもの。

 右手で触っているものを確認。


「なん……だと!? これはランタナの太ももか!?」


 膝枕をしてくれているランタナの太ももを俺はスリスリしていた。際どい付け根や太ももの内側までバッチリと。

 何故か上半身に俺のシャツしか纏っていないランタナ。下半身は穿いていない。

 少し視線をずらせば下着が……見えない! 丁度よく太ももがみっちりとくっついていて見えそうで見えない!

 くっ! これはこれで良いじゃないか。男心がくすぐられる。


「んっ? この左手の感触は……テイアさんの太ももだと!?」


 左手は隣に座るテイアさんの太ももを触っていた。

 こちらはもっちりふわふわ。

 テイアさんも素晴らしい太ももをしていらっしゃる!

 いつの間にかやって来ていたセレネちゃんは、テイアさんのお隣でお昼寝中。近くには絵本が置いてあるので、絵本を読んでいたら眠くなったのだろう。

 手を引っ込めようと思ったが、俺の手にはテイアさんの手が置かれていた。握られていて手が離せない。


「テ、テイアさん? ごめん」

「はぁ~……」

「今すぐ手を……って、聞いてる?」

「はぁ~……」


 うん、聞いていない! 本に集中して本人は何も気づいていないし声も届いていない!

 ど、どうしよう。

 ガッチリと握られているし、仕方がないよなぁー(棒読み)

 左手はそのままにして、そろそろ起き上がりますか。ランタナの膝枕は気持ち良いので名残惜しいけど……。


「よいしょ……って、あれ!?」


 起き上がろうとしたのだが、俺は起き上がれなかった。

 気付かなかったのだが、ランタナの手が俺の頭に置かれている。ゆっくり動かしてナデナデ……。


「えーっと、ランタナさん?」


 ぺちり!


「あいたっ!?」

「今、とても良いところなので邪魔しないでください……」

「あっ、はい。ごめんなさい」


 ランタナも本に夢中らしい。

 職務がどうとか言っていたが、結局本にハマってしまったようだな。

 たぶん、無意識で俺が逃げ出さないように頭に手を置いているのだろう。

 膝枕をしながら頭をナデナデ。

 何という魔の誘惑。これはもう拘束と言ってもいい。

 この状態から俺は逃げることはできない。逃げられるわけがない。

 これは仕方がないなぁー(棒読み)


「「「「 はぁ…… 」」」」


 呆れた女性陣のため息。五人中四人が呆れている。

 ただ一人だけ悔しそう。


「くっ! 私もシラン様に膝枕をしておけばあんなイチャイチャができたのにぃー! というか、いつシラン様は帰ってきたの?」


 ヒース……読書に夢中で気づかなかったんだね。

 何度か目が合った気がするけど、俺の気のせいだったようだ。


「それを言うなら、ソノラはどうしてこの家に? コンテストの二日目を欠席して心配してたのよ」

「瞳の色が変わっていますね。黄玉(トパーズ)みたいで綺麗です」

「あはは。実はですね、かくかくしかじかで……」


 おいおい。かくかくしかじかで伝わるわけが―――


「なんですって!? 黒翼凶団に捕まった!?」

「儀式に巻き込まれて淫魔(サキュバス)化したんですか!?」


 な、何故伝わってるぅー!?

 えっ? あれっ? 念話でも使ってる?

 ジャスミンとリリアーネだけではない。ヒースやエリカにまで伝わっているようだ。

 俺には意味が分からない。


「旦那様に、うまうましかしか、だったんですか?」


 エリカさん、うまうましかしかってなんですか?

 もしかして、馬と鹿で俺のことをさりげなく罵倒している?

 女性陣には何故か内容が伝わる。


「そうなんですよぉ~! いちゃいちゃらぶらぶで、ぐちゅぐちゅねっとりでした!」


 いちゃいちゃらぶらぶで、ぐちゅぐちゅねっとりって何だ!?

 なんか卑猥!

 それは擬音通りの内容ってことでいい?


「シラン様! どうして私には手を出してくれないのぉ~!」


 内容はわからなかったが、ヒースの言葉から俺が想像したような話だったらしい。

 恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたソノラ。

 でしょうね、と言いたげなジャスミンとリリアーネ。

 いつでもウェルカムだからぁ~、と服を脱ぎだそうとするヒース。

 ヒースを止めようと拘束するエリカ。

 どうして内容が皆無な言葉で、彼女たちが状況を理解しているのか理解できないんだけど……。

 俺がおかしいのだろうか?


「まあ、ソノラには手を出すと思ってたから」

「むしろ、今まで手を出していらっしゃらなかったことに驚きです」

「なんだそれ……」

「私のことなんかどうでもいいんです! 今からしなければならないことはたったの一つ!」

「「「「 感想会! 」」」」

「そのとーり! では、各々感想を言い合いましょー!」

「「「「 おぉー! 」」」」


 女性陣は仲良くぺちゃくちゃと感想を言い始める。ソノラが変化したこととか重要なことだと思うのだが、彼女たちにとってはどうでもいいことらしい。

 俺は一人取り残される。独りぼっち。混ぜてよ……。

 仕方がない。読書に戻ろう。そして、テイアさんやランタナとイチャイチャしよう!

 この日、女性陣の本の感想会は夜遅くまで行われるのだった。















 ▼▼▼



「”出来損ない”。首尾は?」

「…………」


 人形製造者(ドールメイカー)の問いかけに、造られた少女は無言で頷く。

 計画はすべて順調。後は時が満ちるのを待つだけ。24時間以内には何かが起こるはずだ。

 彼が突発的に命じた計画のほうも、今のところ支障はない。


「予想以上に地脈が乱れていましたが、逆に好都合でしたね。ドラゴニア王国には恨みはありませんが、スポンサーの依頼です。いずれ滅びてもらいましょうか」


 祭りで賑やかなドラゴニア王国の王都を眺めながら、人形製造者(ドールメイカー)は酷薄に笑う。


「残念ながら、今回は威力偵察。ふふっ。王国よ。せいぜい足搔いて踊ってくださいね。私の手のひらの上で!」


 舞台役者のように、彼は大きく手を広げた。


「さあ、始めましょう! 終わりの始まりを!」


 男の哄笑が響き渡る。

 ひっそりと蝕まれているドラゴニア王国を完全なる破滅へ導く緻密な計画が今、始まろうとしていた。

 ―――歪な少女は狂った創造主を透明な瞳で見つめ続けている。



























<おまけ>



「で、殿下……? あっ、そ、そこは……んんっ! んっ!」

「ああ、うん……」

「シ、シランさん……そんなところをっ!? んぅっ! やぁんっ!」

「ああ、そうだねー……」

「ほ、本に夢中で……あっ! あぁっ! んくっ!」

「私たちの話を、ひゃぅんっ!? いやっ! だめぇっ!」


 身体が刺激されて、美しき女性二人の身体がのけ反る。

 もう堪えきれない。我慢などできない!


「「 ~~~っ!? 」」


 二人の身体に電流が駆け抜け、声にならない悲鳴が迸った。


………

……



パタン!


「ふぅー! 面白かった! って、あれ? ランタナ? テイアさん? 顔赤いぞ。ピクピクしてるし、どうした?」

「「 うぅ~! 」」


ペチン! ペチン!


「えっ? なんで俺、叩かれたの?」


 顔を真っ赤にして恨みがましく睨む女性二人に、俺はもう一発ずつ優しく叩かれた。

 だから何でっ!?










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痺れた足をシランが無意識に触ったんだろうなぁー。 by作者



お読みいただきありがとうございました。

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