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第296話 夜伽!?

 

 ジトーッ……


 見つめられている。呆れられている。無言の眼差しが突き刺さる。

 正座して反省している俺の前に、女性が二人同じように正座していた。

 一人は、日長石(サンストーン)の瞳を持つ猫の獣人テイアさん。猫耳をぴょこぴょこ、尻尾をユラユラさせながら、息子を説教する母親のような眼差しで俺をじっと見ていた。

 もう一人は、優しげな琥珀(アンバー)の瞳の真面目そうな女騎士ランタナ。無表情なのが怖い。せめて何か喋って。お説教をして! 無言で見つめられるのが一番辛い!


「……誠に申し訳ございませんでした」


 沈黙に耐えきれず、俺は何度目かわからない謝罪をして、深く深く頭を下げる。

 床に額を付けて、手までそろえた綺麗な土下座。

 罪悪感がぁ……とても反省しておりますので……どうかお許しを。


「はぁ……謝罪を受け入れます。頭をお上げください」


 ようやくため息をついて無表情を解いたランタナ。どうやら許してくれるらしい。

 だが、真っ直ぐと琥珀(アンバー)の瞳で俺を射抜くと、彼女はビシッと言い放った。


「ですが! 次からは必ず! 本当に必ず! 外出の際は我ら近衛騎士団に連絡してくださいね! もう何度言ったかわかりませんけど!」

「はい……」


 俺ももう何度言われたかわかりません。本当にごめんなさい。

 今回のお説教時間、僅か10分。とてもとても長い10分だった。

 何も言葉はなかった。俺はただテイアさんとランタナに無言で見つめられていただけ。

 なのにそれがとても辛くて、二人の温かな眼差しが俺の心を容赦なく抉るんだ。

 こんな反省方法もあるんだなぁ……。

 ランタナは、弟を優しく諭す姉のような表情でさらりと述べた。


「私は夜伽をしてもいいんですよ?」

「…………はい? 今なんて言った?」


 あまりにあっさりと言われて、俺は一瞬呆然としてしまった。

 ランタナは嘘偽りなく、恥ずかしがることもなく真面目に答える。


「夜伽と言いました」


 聞き間違いじゃなかった!? よ、夜伽だとっ!?

 ランタナが? 俺と? いやいやいや! どういうことだ!?


「あのーシランさん。夜伽というのは男女が夜を過ごす以外にも意味があるんですよ」


 教えてくれたのはテイアさんだ。


「警護や看護、お通夜のために夜通し起きて過ごすことも夜伽と言います」


 なぁ~るほど。初めて知りました。夜伽と言われたらエッチなことだと思っていた。

 ということは、ランタナが言いたいのは俺とエッチなことをするのではなく……


「このお屋敷に常駐して夜通し警護をしましょうか?」

「それは勘弁してください!」


 再びの土下座発動。

 せめて、この屋敷の中では自由にのびのびして過ごしたいんだぁ~!

 いつも自由にしていますよね、と言いたげな視線が後頭部に突き刺さっている気がする。ランタナはジト目をしている気がする。

 全て気のせいだったらいいのになぁ。


「では、気を付けてくださいね」

「はい!」

「今日は一日、私は殿下のお傍を離れませんけど」

「そ、それは……」

「何か問題でも?」

「ありません! はい! 何も問題ございません!」


 有無を言わせぬ迫力の笑顔に俺は屈する。即座に白旗をあげて降伏だ。

 よろしい、とランタナは満足げな笑顔。

 どうやら今日は一日中ランタナに付きまとわれる日だそうです。

 まあ、いいか。今日の予定は特にないからゆっくりと部屋でゴロゴロしようと思っていたところだ。

 ちなみに、お買い物デートはあまりブラブラすることなく、本を読みたいソノラの要望を受けてすぐに帰ってきました。

 屋敷に着くなり、ソノラは部屋に戻って読書タイムに移行しました。俺はこうしてお説教タイムでした。

 お説教も終わったことだし、立ち上がって大きな伸び。


「部屋に戻るかぁ~。ランタナは?」

「当然お供します」

「ですよねー。テイアさんはどうする?」

「そうですね、まずはセレネはどうしているのか確認を……」


 それは心配だな。ネアに連れて行かれたけど、大丈夫だろうか? 無理させていないだろうな?

 念話を繋いで確認してみよう。


『おーい。ネアさ~ん! セレネちゃんは無事ー?』

『ヘヘッ……ヘヘヘッ……無事に決まってるよぉー。フヘヘ!』

『ど、どうしたんだ!? 笑い方が気持ち悪いぞ!』

『気持ち悪いってなんだよ! ボクだって乙女なんだぜ! 傷つくよぉ~! カラム~! ボクを癒してぇ~! フヘヘ、おっぱい最高!』


 うわぁー。なんといういやらしい笑い声。言葉から推測するに、ネアは今、カラムの胸を揉みしだき、巨乳に顔を埋めていることだろう。

 んっ? カラムということはネアたちは工房じゃなくて食堂にいるのか?


『その通りだよ、シー君!』

『ちょっとネア。止めて。迷惑』

『良いではないかぁ~良いではないかぁ~! ムフフ!』


 マグリコットと嫌そうなカラム、そしてスケベ親父と化したネアの声が頭に響く。


『セレネちゃんはどうしてる?』

『私のおっぱいを背もたれにしながら楽しそうにお絵描きしてるわよー!』

『ぷにぷにほっぺ、最高! 至高のほっぺ! ネアは邪魔』

『そんなぁ~! ボクのおっぱいがぁ~! へぶっ!? ちょっ! 宝石はダメ! 痛い! 硬くて痛い! 先っちょ尖らせたらダメぇ~!』


 ぎゃぁあぁあああああ、と可愛くない悲鳴はシャットアウト。

 ネア……成仏してくれ。いざとなったらニュクスに頼むから。

 ボクはまだ死んでないよ、という頭の中に響いたツッコミは無視しよう。

 テイアさんにセレネちゃんの無事を伝えるか。


「セレネちゃんは食堂にいるんだって。楽しそうにお絵かきしているらしい。マギーやカラムが可愛がってるみたい」

「そうですか。ならもう少しお願いしましょう」


 母親離れの訓練はもう少し続くようだ。


『あっ、そうだ。シー君、一つ言いことがあるんだけど』

『マギー、どうした? 夕食の内容か?』

『ううん。別のこと。地脈、おかしくなってるよ』

『地脈?』


 地脈とは地中を流れる魔力の流れだ。

 世界には魔力が満ちている。魔力も場所によっては淀んで溜まったり、川のように集まって流れたりする。

 マグリコットは溶岩牛(マグマ・カウ)。溶岩の中に棲む灼熱の神牛だ。地脈には詳しい。

 魔力も自然の一部。毎日毎日流れは変化する。だが、川のような地脈は一日二日で大きな変化が起こることはない……のだが。

 地脈の変化に心当たりがあるな。


『数日前、黒翼凶団が地脈を使って召喚儀式を行ったから、多少変化は起きてるだろうな』

『そっかー。だからぐちゃぐちゃになったんだねー。これだから人間は!』

『気になるのなら地脈を整えたら?』

『無理無理無理! 私、手加減苦手なのシー君も知ってるでしょー!』

『止めて。本当にお願いだからマギーに地脈の操作なんてさせないで。暴発させてこの辺り一帯が吹き飛ぶから冗談でも止めて!』


 お、おぉう……。カラムが必死だ。冗談もだめなのか。

 過去に一度火山を吹き飛ばした前科の持ち主だしな、マギーは。


『地脈が乱れているから、モンスターが多少暴れるかも。気を付けてね、シー君!』

『りょーかい』

『ちなみに、私たちも乱れます。性的に』

『カラムさーん! まだ日が高いですよー。小さい子も目の前にいるでしょ。乱れるなら夜にしなさい!』

『口には出していない。心の中だからセーフ。ほっぺぷにぷに、最高』


 確かにそれならセーフだけど! そして、俺もほっぺぷにぷにしたい!


『じゃあ、ボクは?』

『存在がアウト』

『酷い!?』

『うるさい。寝て』

『ふぎゃっ!? 痛い痛い痛ーい! あっ、封印はらめぇぇぇえええええ』


 徹夜明けテンションのネア。カラムによって強制的に大人しくさせられたらしい。

 カラム……よくやった。



お読みいただきありがとうございました。

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