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第27話 王子の部屋 (改稿済み)

 

 俺は母上に呼び出されて城へとやってきた。

 当然、俺の隣には近衛騎士の鎧をつけた《神龍の紫水晶(アメジスト)》のジャスミンと、ドレスを着た《神龍の蒼玉(サファイア)》のリリアーネ嬢がいる。

 二人の美女が傍に居て、城で働く者や貴族たちに注目される。

 男性たちからは嫉妬と殺意の籠った視線で睨まれ、女性たちからは冷ややかな眼差しで睨まれる。

 俺は娼館通いの夜遊び王子。この視線にもう慣れた。

 突き刺さる視線を平然と受け流しながら城の廊下を歩く。

 リリアーネ嬢に話しかけようとする貴族もいたが、ジャスミンの一睨みで退散していった。

 城のメイドに案内されて、ひとまず城の中の俺の部屋へと移動する。

 即座に母上たちのお茶会が始まるわけもない。だから、開始時間まで部屋で過ごすことになったのだ。


「そう言えばさ、ジャスミンもお茶会に来るのか?」


 ふと疑問に思ってジャスミンに聞いてみた。

 何故か俺たちを案内するメイドがビクッと反応する。

 ………そんなに警戒しなくても手は出さないから。俺、城のメイドに手を出したことないでしょ。

 屋敷のメイドは自分の使い魔だけなので、手は出しているというか、襲われます。

 隣を歩くジャスミンは、何言ってるの、という訝しげな顔。


「行くに決まってるじゃない。私はシランの護衛よ」

「……その服でお茶会に出るのか?」


 俺はじっとジャスミンの服装を見つめる。

 じーっと見られたことで少し頬を朱に染めたジャスミンは、自分の服装を見下ろした。

 今ジャスミンが着ているのは近衛騎士団の制服に鎧。

 遠くから護衛するならいいけれど、俺の近くに侍るならふさわしくない格好だ。

 それに、今回のお茶会は王妃と王女だけ。流石に無礼すぎる。


「ちょっと不味いわね……」


 ジャスミンも自覚したようだ。悩んでいる。

 まあ、ジャスミンは公爵令嬢として、俺の幼馴染として、母上たちや姉上たちとも仲がいいし、母上たちも気にしないだろうけど、ここは人の目が多い城の中だ。身分の差を考えなければならない。

 そうこうしているうちに城の中の俺の部屋に着いた。

 メイドに扉を開けてもらって俺たちは中に入る。


「んっ? 何かおかしい? 模様替えした?」


 部屋の中に入って違和感を感じた。使っていない家具を使った形跡がある。

 それに、俺じゃない小物もいろいろと置いてある。これは女性ものか?

 まあ、いっか。ここは城に来たときしか使わないし、ほぼ休憩室だ。メイドが掃除の時に移動させたり、忘れ物をしたりするときもあるだろう。


「ジャスミンどうする? そのまま騎士団の服で遠くから護衛するか?」

「う~ん、やっぱり近くのほうがいいわよね……」

「じゃあ、実家に頼んでドレスを持って来てもらうか? それとも、一回実家に帰るか?」


 ジャスミンの実家はグロリア公爵家だ。

 公爵家の屋敷は、有事の際に即座に対応できるよう城から一番近いところに建っている。

 だから、連絡すればすぐにドレスを持って来てもらえるだろうし、家に帰ることもできる。

 公爵令嬢のジャスミンが悪戯っぽく微笑んだ。


「別にその必要はないわ」


 ニヤリと笑うと、ジャスミンは何故か使っていないクローゼットに近づいていく。

 そして、扉を開けると中にはドレスがたくさん……なんでっ!?


「ジャ、ジャスミンさん!? なんでっ!? どうしてっ!?」

「シランが使ってなかったから私が使おうと思って。シランのモノは私のモノ、私のモノはシランのモノよ!」

「この横暴幼馴染が! ……んっ? 横暴か?」

「ふふんっ! 一応シランに婚約者がいた時は遠慮していたんだから、そこは感謝してよね!」


 確かに、少し前まで俺の部屋はジャスミンの私物で溢れていた。

 俺とジャスミンが共有で使うものも多かった。

 そして、俺に婚約者ができてからは、いつの間にかジャスミンの私物はきれいさっぱり無くなっていたのだ。

 ジャスミンなりに配慮していたらしい。

 でも、俺は婚約破棄した。だから、再び俺の部屋に私物を置くことにしたらしい。

 何故かジャスミンの私物で溢れていたほうが落ち着く自分がいる。


「あの~? ここはどういったお部屋なのでしょう?」


 リリアーネ嬢が恐る恐る聞いてきた。

 あれっ? 説明してなかったっけ?


「ここは俺の部屋だぞ」

「そして、私の倉庫」

「おいっ! せめて部屋って言ってくれよ!」

「じゃあ、私たちの部屋ってことにしてあげる」


 はいはい。それでいいですよ。ジャスミンさんはとても嬉しそうですね。

 最近、幼馴染が酷いと思うのですが……あっ、昔からか!


「あの、えっと……申し訳ございません!」


 オロオロと狼狽えたリリアーネ嬢がいきなり頭を下げて謝ってきた。

 えーっと、何事? なんで謝ったの?


「リリアーネ嬢? 頭を上げて説明してくれる?」

「は、はい! じ、実は……」


 リリアーネ嬢がソファから立ち上がって、スススッともう一つのクローゼットの前に立った。

 そして、静かに扉を開けると、その中には沢山のドレスが……デジャヴ!


「国王陛下からここのお部屋を自由に使っていいと……」

「なるほどね。だから、私が知らない物もあったのね……」


 なるほど。全てはあの変態のせいか。

 部屋の中に置かれた小物の中にはリリアーネ嬢の分もあったようだ。

 俺に報告なしに許可したあの変態を永久脱毛させてやろうか!


「シラン様! 申し訳ございません!」

「あぁー、別にリリアーネ嬢が謝ることはないぞ。変た……父上が悪い。それに、俺は普段王都の屋敷にいるから、この部屋はあんまり使ってないし。ジャスミンもこの通り、勝手に使ってるから、リリアーネ嬢も好きに使ってくれ」

「よろしいのですか?」

「いいのよ! シランもいいって言ったんだし、使わせてもらいましょ! それに、城にドレスとか置いておくと、いざという時に助かるのよ。パーティとかに、躓いたふりをして飲み物をかけてくる令嬢とかいるし」


 ジャスミンさんはもう少し遠慮しましょう? そして、俺に優しくしましょう?

 ドロドロとしたパーティでは飲み物をかけてくることもあるだろうけど!

 だから俺はほとんどパーティに出席しないんだ! あんな場所に顔を出したらストレスで胃を壊す。


「それで、シラン? どのドレスを着たほうがいいと思う?」


 ジャスミンが恥ずかしそうに目を伏せて聞いてきた。か、可愛い。

 ティーカップを手に取りながら俺は即答する。


「左から6番目の紫色のシンプルなドレス。ジャスミンの瞳の色と一緒のやつ。王族とはいえ身内のお茶会だから、シンプルなドレスがいいと思う。ダンスもないし」

「そ、そう。わかったわ」


 ジャスミンが目を丸くしつつも、嬉しそうにドレスを手に取った。

 俺が言ったドレスに決めたらしい。

 じーっと何かを期待する視線をもう一人から感じる。

 俺は紅茶を一口飲んで口を開いた。


「リリアーネ嬢は今着ているドレスより、クローゼットの右側から2番目の蒼いドレスのほうがいいと思う。今回は非公式とはいえ、リリアーネ嬢は社交界はほぼ初めてだろう? 母上や姉上たちからの覚えが良くなるように、ちょっと気合を入れたほうがいい」

「わかりました!」


 リリアーネ嬢も嬉しそうに微笑んで俺が言ったドレスと手に取った。

 俺は部屋にいたメイドに目配せをする。

 城のメイドがテキパキとジャスミンとリリアーネ嬢のお世話を始めた。

 ふぅ……紅茶が美味しい。


「で? いつまでそこにいるつもり? シラン、早く出て行きなさい!」

「えっ? なんで?」


 何故か俺はジャスミンからキッと睨まれている。

 メイドからの視線も痛い。


「なんでって、今から私たちが着替えるから」

「いや……ここ俺の部屋……」

「あ゛っ?」

「すんません! 今すぐ出て行きます!」


 俺はスクっと立ち上がって敬礼すると、即座に部屋から出て行く。

 うぅ……俺の部屋なのに……王子の部屋なのに……。

 俺王子だよ? 扱い酷くない?

 地味にショックを受けながら部屋を出た俺は、心に復讐の炎が宿る。

 よしっ! 絶対に笑っているであろう、これを仕組んだ下着好きの変態と巨乳好きのメガネを脱毛させてやろう!

 暗い笑みを浮かべる俺は、一人国王の執務室へと向かうのだった。













<おまけ>



 俺はバタンと国王の執務室のドアを開ける。


「失礼しまーす! おいコラ! いろいろと企みやがって、いい加減にしろよ!」


 いきなりの俺の登場に、部屋の中の心当たりがある人物たちが動揺する。

 父上は椅子から滑り落ち、宰相は焦りながらメガネをフキフキと拭く。


「い、いいいいいったいどうしたのだですか、マイサンよ? パパ、身に覚えがないなー!」


 立ち上がった父上が挙動不審になりながら、棒読み口調で言った。

 いろいろと言葉もおかしくなっている。

『どうしたのだですか』だって? 『マイサン』だって? 『パパ』だって?

 一国の国王が動揺しすぎだろ! 宰相もメガネ拭きすぎ!


「身に覚えがありそうですねー。そこの妻の下着を嗅ぐのが趣味の性癖異常者とスレンダーな妻を持つ巨乳好きのメガネ! というわけで、復讐しまーす!」


 俺は国王と宰相の身体を魔力で拘束する。

 そして、虚空から錠剤の入った瓶を取り出した。

 近衛騎士団長が俺の前に立ちふさがる。


「いけませぬぞ殿下!」

「ほう。レペンス騎士団長も俺の敵なのか。ならばこの脱毛薬を飲ませてあげよう」

「私は殿下の味方です!」


 何という手のひら返し。レペンス騎士団長は即座に敬礼して持ち場に戻った。

 流石騎士団長だ。話がよくわかる。

 性癖異常者と巨乳好きの顔が絶望に染まった。

 固まって動けない国王と宰相の口の中に錠剤を一粒押し込んだ。

 錠剤はすぐに溶けてなくなる。

 無くなったのを確認して、俺は魔力の拘束を解いた。


「シ、シラン! なんてことをしたんだ! 俺の髪が……俺の髪がぁぁぁああああ!」


 父上が両手で頭皮を押さえている。宰相も珍しく顔が真っ青だ。


「父上、宰相。俺は脱毛薬とは言ったけれど、頭の毛が抜けるとは一言も言っていませんよ」

「……では、どこの毛が抜けるのだ?」


 おうおう。国王と宰相が固まったぞ。騎士団長は笑いが堪えきれていない。

 俺は暗い笑みを浮かべ、ニヤリと笑う。


「下の毛。つまり、アソコの毛です」

「ぬぅぅわぁぁあにぃぃいいいい!?」

「なん……ですと!?」

「ぷっ! くくく!」

「フハハハハ! 奥方たちに笑われるがいい! 次なんか企んだら、頭のてっぺんだけ永久脱毛させてやります! あっ、この薬はすぐ生えてくるんでご安心を! では、さらばだ!」


 俺は復讐をするとさっさと執務室から出て行く。

 背後から父上の叫び声が聞こえて気がしたけど、気のせいだろう。

 ささやかな復讐をして少し心が軽くなった。

 ふぅー、すっきりした!



お読みいただきありがとうございました。

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