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第260話 あいがん

 

「―――でさ、朝目覚めたランタナがグスグス泣きながら言うんだ。『これはリューちゃんが漏らしたの』って! いやぁー実に可愛かったな! 別に正直に言っても怒んないのにな! あっ、ちなみにリューちゃんっていうのはランタナが愛用している神龍様のぬいぐるみ枕の名前な。神龍様にお漏らしを(なす)り付けるのはウチの娘くらいのもんだろ!」


 アッハッハ、とランタナのお父上グーズさんが豪快に笑いながら俺の背中をバンバン叩く。

 へぇー。ランタナも可愛い時代があったなぁ。というか、痛い痛い! 背中が痛い! 絶対に赤くなっている! 力強い!

 今は真面目な印象が強いから、こうして微笑ましい話を聞くとホッコリする。彼女も人間なんだなぁとより可愛く思える。

 俺は今、グーズさんやサルビアさんにランタナの小さな頃を話を聞いていた。というか勝手に聞かせてくれている。


「ランタナちゃんったら小さい頃から建国物語が大好きでねぇ。それで騎士に憧れ始めたのよ。神龍様のぬいぐるみ枕も大好きで大好きで。ほつれたところを自分で縫うほどの溺愛っぷり。今もその枕を使っているのでしょう?」

「そうなのか、ランタナ?」


 顔だけでなく耳や首までこれでもかと真っ赤にしたランタナは、顔を伏せたままチラリと俺に視線を向けた。琥珀(アンバー)の瞳が涙でウルウル。


「……そうですよ。使ってますよ! 何か悪いですか!?」

「可愛いな」

「~~~っ!?」


 頭から蒸気が噴き出た気がする。

 そのままゆっくりと前へ倒れ込み、コツンと頭がテーブルにぶつかった。何度かグリグリと擦り付けると、脱力して机に突っ伏した。

 ……なにこの可愛い生き物。


「死にたい……死にたいです……殿下に知られるなんて、こんなの生き地獄です……」

「死ぬのは禁止なー! これ、俺からの王族命令!」

「こんなところで滅多に使わない王族命令を使わなくてもいいじゃないですか! 私、殿下が使用したのを初めて聞きましたよ!」

「使うかどうかは俺が決める」

「うぅ~!」


 あ、今度は唸り声を上げ始めた。だから、なにこの可愛い生き物。

 今日一日でランタナのイメージが一気に変わったな。

 いやー可愛い可愛い! 実に可愛らしい!


「もうお父さんもお母さんもいい加減に黙ってください! そんなに私の黒歴史を殿下に喋るのが楽しいですかっ!?」

「「 もちろん最っ高に楽しいですが何か? 」」

「大っ嫌いです!」


 うわぁ~ん、と喚き声をあげたランタナが机に突っ伏したまま耳を塞ぐ。自分は聞かない。喋るなら勝手に喋って、というアピールだろう。

 まあ、気持ちはよくわかる。大変よくわかる。ディセントラ母上がジャスミンやリリアーネに俺の黒歴史を喋っているから。その時の母上はお二人のように実に楽しそうだぞ。

 同情の気持ちを込めて、ランタナの背中を優しく撫でる。


「で、続きは? もっと聞きたいんですけど」

「よく言った! 婿殿!」

「ふふっ。ランタナちゃんの可愛いお話が26年分あるわよ? 働き始めてからちっとも帰って来てくれないからここ最近の分は少ないけどね!」


 ヤバい。このご両親と俺は仲良くなれそうだ。もう仲良くなっているけど。

 でも、そろそろランタナが可哀想かな。自分の黒歴史を他人に、特に異性の俺に聞かれるなんて絶望だ。穴があったら入りたいだろう。

 助け舟を出してあげますか。


「グーズさん、サルビアさん。やっぱりランタナの小さい頃の話はここで終わりにしましょう」

「「 えぇー! ここからが良いところなのに! 」」


 くっ! そ、それはとても気になるではないか! 心が惹かれる。


「殿下ぁ……!」


 耳を塞いでも聞こえていたランタナは感謝感激。神を拝むように涙目で上目遣い。言葉に尊敬の念が込められている気がする。

 こんなランタナ初めてだよ。

 しかし、ランタナ。俺のことがわかっていないな?


「よく考えてください。こういう話は一度で全部聞いたら勿体ないでしょう? また今度ランタナと来るのでその時にぜひ続きを!」

「「 そういうことなら喜んで! 」」

「殿下ぁ……!」


 仲の良いお二人は笑顔でサムズアップ。

 一方愛娘はというと、先ほどと同じ言葉なのに今度は掠れた絶望の声だった。裏切られて、感謝から一気に絶望のどん底へと叩き落とされた表情。

 仕方がないじゃないか。だってランタナの話は気になるじゃん!

 ユラリと立ち上がったランタナは、ヨロヨロとふらつきながらどこかへと歩いていく。


「ランタナちゃん、どこ行くの?」

「……水、飲んできます」

「あら。じゃあお母さんもついて行くわ! お茶ももう無くなっちゃったし!」


 サルビアさんは娘の腕に抱きついて、仲良く店の奥へと消えていった。いや、介助と言った方が良いかもしれない。ランタナは今にも倒れそうだったから。

 しかし、やっぱり似ているな。流石親子だ。特に、サルビアさんは若々しいから、最初に見た時は姉妹かと思った。


「ランタナは大丈夫かな?」

「んあ? 大丈夫だろ。人間、恥ずかしさで死ぬことはない。愛しい人が恥ずかしがる姿に萌えて悶絶してキュン死することはあるけどな! そういう夜は激しく燃えるんだ! あっはっは!」


 仲がよろしいことで。

 ランタナが危惧した通り、新たな命が誕生しても不思議ではないな、この熱々夫婦は。ランタナがお姉ちゃんになるかもしれない。

 ひとしきり笑ったグーズさんは、急に真面目な顔になる。


「さてと。女性陣は女同士の会話をしに行ったから、オレたちは男同士の会話をするか、婿殿よ」


 これは拒否できないやつだな。

 わかりました。男同士の会話、しましょうか!






 …………取り敢えず、背中をバンバン叩くの止めてくれません?


お読みいただきありがとうございました。

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