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第234話 ツンデレのちびっ子たち

 

 孤児院の出店からすぐ隣にあるベンチに座って買ったばかりのクッキーの袋を開ける。すぐに美味しそうなバターとミルクの匂いが漂った。もうこれだけで美味しいことがわかる。

 黄金色に焼かれたクッキー。以前試食した時よりも更に出来が良い。腕をあげたな。

 形は孤児院の建物。王都の住人は一目で孤児院だとわかるだろう。

 ゆっくりと口に運んで、パクリと一口。サクッとした触感。香ばしい香りが鼻に抜け、じんわりと優しい甘さが口の中で蕩けた。


美味(うま)っ……」


 なんだこのクッキーは。美味しすぎる。頬が落ちそう。城で出されるデザートに匹敵するぞ。

 女性陣も一口齧って目を丸くし、幸せそうな表情をしている。トロットロに蕩けて、周囲に甚大な被害を巻き起こしていた。

 心臓を撃ち抜かれた男が地面に倒れ伏し、目をハートにしてビックンビックン。美女や美少女たちの魅了にやられてしまったようだ。

 そんなことは一切気にせず、女性陣はクッキーを味わってゆっくりと食べる。


「うわぁ……美味しい」

「もっと食べたくなりますね」

「ドラゴニア王国ってこんなのが普通に売ってるの? すごっ!」

「……」


 ジャスミン、リリアーネ、ヒースは思わず声を漏らしたようだが、エリカは珍しく無言だ。クールな彼女が小動物のようにハムハムとクッキーを齧っている。

 エリカの新たな一面が見ることが出来た。ギャップに萌える。可愛い

 純真無垢な猫耳幼女は、クッキーよりも別のことに興味を抱いたようだ。コテンと首をかしげてある方向を指さす。


「ママ、皆倒れてるよ。お腹痛いの?」

「セレネ、見ちゃいけません」


 そうそう。テイアさんの言う通り。そんな穢れたものを見たらセレネちゃんの目が腐ってしまいます。見てはいけません。

 ……場所を変えようかな。


「おにいたん、あ~ん!」

「はいはい。レナちゃん、あ~ん」

「はむっ!」


 孤児院の幼女のレナちゃんがクッキーを食べてニッコリ笑顔。それを見た俺もニッコリ笑顔だろう。癒される。流石癒しの天使だ。

 はっ!? 無意識にあ~んをしてしまった。まあいいか。相手はレナちゃんだし。


「よくできただろ! どやぁ! もぐもぐ。美味い!」

「もぐもぐ。ウマウマ。自画自賛だぜ!」

「結構頑張ったのよ、私たち。もぐもぐ。美味しい」

「そうだな。頑張ったな! 最初は真っ黒に焦げてたのに。偉いぞ!」


 ちびっ子たちの頭をグシグシと撫でる。触るな、と口では言うものの、顔はとても嬉しそう。俺の手を避けようとしないし。まったく、誰かさんみたいにツンデレなんだから。


『誰がツンデレよ!?』


 インピュアの声が頭の中に響き渡った。俺はインピュアって言ってないんだけどなぁ。自覚があるようで。

 それにしてもちびっ子たちよ。そのモグモグしているクッキーはどこから取ったんだい? 俺の袋のクッキーが減っているのは見間違いか?


「兄ちゃんのおかげだぞ。サンキューな!」

「さんきゅ~べり~まっち」

「おにいたんありがとー!」

「材料とかいろいろと用意してくれたでしょ。お兄ちゃんがいたからここまでできました。お礼にソノラお姉ちゃんをあげるね」

「なんで報酬がソノラ? それにどうした? 柄にもなくお礼なんか言って」

「兄ちゃんひっでぇ~! 折角俺たちが正直にお礼を言ったのに」

「ソノラ姉ちゃんと院長先生にニッコリ笑顔で脅は……命れ……言われたんだ。兄ちゃんにお礼を言いなさいって」


 なるほど。そういうことだったのか。ソノラと院長先生か。脅迫とか命令って言いかけていたのが若干気になるが。

 このちびっ子たちは普段俺にはお礼を言わない。照れくさいそうだ。言わない代わりに、後々こそっと何かをしてくれる。やるよ、と照れくさそうにプレゼントをくれたりだとか、ソノラの秘密の情報をくれたりだとか。

 だから、こうやって面と向かって言ってくれるのはちょっと新鮮。

 成長したんだなぁ。お兄さんはジーンと感動を覚えてしまいました。


「てっきり俺のクッキーを食べたことを誤魔化そうとしてお礼を言ったのかと……」

「「「 …… 」」」


 孤児院のちびっ子たちが一斉に黙り込み、統率のとれた動きでスゥーッと顔を逸らした。

 えっ? うそっ!? どういうこと?


「何故目を逸らす?」

「「「 な、なんとなく 」」」

「ちょ~っと俺の目を見よっか」

「「「 嫌! 」」」

「おいコラ! 折角人が感動してたのに! 俺の感動を返せ!」


 ちびっ子たちはいつものちびっ子たちだったようだ。まあ、これが彼ららしいか。

 若干反省はしているものの、平然と開き直ったちびっ子たちは、俺の弱点である女性陣を巻き込む。


「姉ちゃんたち! 一つ情報があるぞ!」


 い、一体なんの情報なんだ!? 俺に関する不味い情報を言うつもりか!?


「姉ちゃんたちが食べているのは普通のクッキーなのだ!」

「オレたちは他の種類のクッキーも売ってるぜ」

「チョコチップにドライフルーツ。他にも色々。味は保証する!」

「お兄ちゃんにおねだりしたら?」


 キラ~ンと女性陣の宝石の瞳が美しく光った気がする。視線の先にいるのはもちろん俺。

 彼女たちの身体から放たれる”食べたい”オーラ。”買って”という圧力(プレッシャー)

 ただ今、肉食動物が狙っている獲物の気分を味わっております。ガクガクブルブル。


「今ならオレたちが取ってくるぜ。列に並ばなくてもいいぞ」

「どうする、兄ちゃん? 大好きな姉ちゃんたちのために男を見せたらどうだ?」


 ものすっごくニヤニヤ顔のちびっ子たちが悪魔のごとく囁いてくる。

 くっ! ちびっ子たちは賢いな。こうやって話を誤魔化すとは。

 女性陣の無言の熱烈なおねだりの眼差しに俺は弱いんだ。それに、俺も別のクッキーを食べたい。


「……買う。人数分頼む」

「「「 まいどありー! 」」」


 ちびっ子たちのクッキーはどれも美味しかったとだけ言っておこう。そして、ツンデレのちびっ子たちは人数分のジュースをオマケしてくれた。

 こういうところが可愛いんだから。頭をグシグシと撫でてあげると、満更でもなさそうな笑顔でちびっ子たちは照れるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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