第232話 寝取られ!?
親龍祭三日目。俺は多くの女性を連れて王都に繰り出していた。全員美女美少女だから、注目が集まっている。男性の嫉妬と殺意の視線が凄いこと。視線だけで射殺されそうだ。
「やっと三日目が来たわ。遊べるー!」
「ふふっ、ジャスミンさんも変わりましたね。前はお忍びデートに反対しておられたのに」
「あれはシランが誰にも言わずに外出するからよ。今日は隊長たちが周囲で護衛してるから大丈夫なの!」
お忍びの格好で歩くジャスミンとリリアーネ。変装しているのに《神龍の紫水晶》と《神龍の蒼玉》と呼ばれる美女二人の美貌が隠しきれていない。キラキラと輝く美のオーラを纏っているようだ。
昨日と一昨日、二人は実家に捕まっており、今日は体中から開放感が溢れ出している。余程大変だったらしい。ヴェリタス公爵もグロリア公爵もタイプは違うけど親バカだから。
大きく伸びをして爽やかな笑顔を浮かべているジャスミンに、近衛騎士団の部隊長がじっとりとしたジト目を送る。
「……最近は、ジャスミン様もシラン殿下とコッソリ外出していらっしゃるようですが?」
「た、隊長!? え、えーっと、それは……」
キョトキョトと紫水晶の瞳を彷徨わせるジャスミンは言葉を濁す。一筋の冷や汗が額から流れ落ちた。
ランタナは深いため息をつき、俺たちのデートを邪魔しないように少し距離を取った。これ以上は何も言わないらしい。
「姫様、ご気分はいかがですか?」
「だ、大丈夫。人が多くて酔いそうだけど」
今日のデートはフェアリア皇国のヒースとエリカも一緒だ。人の心が読めるヒースは人混みが大の苦手。膨大な心の声が一気に押し寄せてくるからだ。他人の様々な感情が襲ってきたら、誰でも気分が悪くなるだろう。
「ヒース。辛いのなら俺があげたブレスレットを使ってくれ。遮断できるから」
ヒースの左手首に輝く蛋白石のブレスレットは婚約の証であり、彼女を守る魔道具でもある。制御できていない読心の力を抑え込むことが出来る。
そっとブレスレットに触れ、ヒースは首を横に振った。
「もう25%まで抑え込んでるの。でも、全部は遮断しない。だって怖すぎるから」
生まれてからずっと人の心の声が聞こえていたヒースにとっては、聞こえるのが当たり前なのだ。彼女にとって心の声が聞こえなくなるということは、普通の人が目が見えなくなる、耳が聞こえなくなるということと同じことだろう。
「それに、シラン様が傍にいてくれたら私は大丈夫なの」
ぎゅっと俺の腕をヒースは抱きしめた。手も握る。ヒースの手は冷たくて若干震えていた。
俺なんかで安心してくれるのなら、好きなようにしてくれ。それにデートなんだからこれくらいは普通だ。
「あ、あれっ? エリカはいつも通り私の邪魔をしないの?」
キョトンと蛋白石の瞳を瞬かせ、ヒースは隣を歩くエリカに問いかけた。
いつもは、ヒースが俺にキスしようとしたり、ベッドにダイブインしようとしたりした場合は、即座に間に割り込んで邪魔をしてくる。14歳のヒースにはまだ早いという判断らしい。
でも、今は何もしない。エリカはクールなすまし顔だ。
「手を繋ぐ。抱きしめる。この程度なら許可します。それ以上はまだ早いですが」
「いいのっ!? じゃあ、添い寝は!?」
「添い寝ですか……何もしなければ許可するのですが、姫様も旦那様もいまいち信用がありませんので」
「「 酷い! 」」
俺とヒースは同時に抗議の声をあげる。信用してないなんて酷い。酷すぎる。ヒースはともかく、そんなに信用ないのか、俺は!?
エリカに訴えるような眼差しを向けると、金緑石の瞳で睨み返された。
「何か?」
「「 いいえ何も 」」
信用がなく、いろいろと心当たりがある俺たちはあっさりと目を逸らし、白旗をあげて降伏する。やはりエリカには勝てません。
俺よりもエリカの睨みに耐性があるヒースはすぐに食い下がった。
「エリカも一緒に添い寝すれば問題ないよね?」
「そうですね。私の隣に姫様と旦那様が寝れば……」
「ちょっと! それってエリカが真ん中になるってことでしょ! 私がシラン様に抱きつけないじゃん! 私が真ん中なのです!」
「そしたら私が旦那様に抱きつけません」
むむむ~、と睨み合う二人。そっくりだから姉妹みたいだ。実際は従姉妹だけど。
「では、旦那様を真ん中に」
「そうだね。それしかないね。お姉ちゃん、こそっと変なことしないでよ」
「その言葉はそっくりそのままお返しします、ヒース」
「あっ、やっぱりしてもいいよ。その代わり、私も混ざるから!」
「絶対にしません。ヒースにはまだ早いです」
むむむ~、と再び睨み合う二人。バチバチと視線がぶつかり合っている。
俺が添い寝して二人の抱き枕になることは確定なんだね。俺の意見はどこに? まあ、喜んで抱き枕になるけど。
逆に二人が俺の抱き枕になっても文句を言わないでくれよ。
「セレネもにぃにぃと一緒に寝たい!」
「あらあら。セレネったら。なら、今度にぃにぃと一緒に寝よっか」
「うん!」
「テイアさん!? 良いのっ!?」
「私もセレネも構いませんが」
良いのかよ!? なんかテイアさんの好感度が高い気がする。
まあ、テイアさんが許可してくれるのなら俺は大歓迎だ。
その時、獲物を狙う肉食動物のように瞳をキラーンと輝かせる人たちがいた。
「ズルい! 私もセレネちゃんと一緒に寝たい!」
「シラン様だけズルいです!」
「わ、私も! エリカ、良いよね!?」
「ええ。出来れば私も一緒に……」
「あらあら。セレネったら人気者ね。どうする?」
「ねぇねぇたちと一緒に寝るぅー!」
「「「「 きゃー! 」」」」
悲報。俺の婚約者たちが癒しの天使のセレネちゃんに寝取られるようです。今も盛り上がって俺のことなんか忘れ去られている。眼中にない。
一緒に寝たいという気持ちはとても分かる。わかるのだが……この寂しさはどうすればいいのだろう。
俺は一人寂しく女性陣を眺めていた。
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