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第230話 襲撃者

 

 王都の街を二人の女性が駆け回っていた。外套を翻し、鬼気迫る表情で誰かを探している。

 彼女が行きそうな場所はある程度検討を付けている。しかし、見つからない。もしかしたら入れ違いになっているのかもしれない。

 女性二人は走り続ける。


「早く見付けなくては!」

「アルス様! どこにいらっしゃるのですかっ!?」

「か、彼氏とデートなど……。よくもあの可憐で美しいアルス様に汚らわしい毒牙を! 惨殺しなければ気が済まない!」


 濃ゆいピンク色の髪の鋭い目つきの女性、フウロがいきり立つ。ギリッと奥歯を鳴らし、拳には血が滲むほど力が入っている。

 隣を走る白髪の女性ラティフォリアも同意するように頷いた。普段はおっとり笑顔を浮かべる彼女だが、今はのっぺりとした無表情。瞳には冷たい怒りの炎。

 二人はアルスのデートを阻止しようとして、魔法で拘束されてしまった。その隙に、アルスはデートに出かけて見失ってしまったのだ。

 主であるアルスを連れ戻すために、二人はこうして王都の隅々まで探している。

 大通りへ向かう近道として、二人は人通りが皆無の路地に入った。二人の足音だけが響く。

 親龍祭で多くの道は人通りが多い。こういう裏道は大幅なショートカットになる。

 突如、走っていた二人は身体を反転させた。

 キィンと金属同士がぶつかり合い、火花が散った。


「何奴!?」


 フウロは背中に背負っていた槍を引き抜き、屋根の上から飛び降りてきた襲撃者に向けて一閃したのだ。

 襲撃者が繰り出す槍の攻撃を同じく槍で打ち払う。槍同士がぶつかり合う甲高い金属音が路地に反響した。

 相手はフードを被っており、顔がわからない。背丈はそれほど高くない。フウロよりも少し高いくらいだろう。

 傍から見たらよくわかる。フウロと襲撃者の構えはとても似ていた。繰り出す突きも払いもまるで鏡写しのよう。襲撃者の攻撃をフウロが捌き、彼女の反撃を襲撃者が同じ技で防ぐ。


「何故我らを襲う?」

「……」

「答えないか。ならば力尽くで聞き出すのみ!」


 フウロの瞳が鋭さを増し、槍も苛烈になった。暴風のような勢いで、フウロの槍が襲撃者を襲う。荒々しい攻撃。一閃一閃が空気を斬り裂く。

 しかし、その攻撃は襲撃者の身体には届かなかった。

 流れる清水のように優しく滑らかにフウロの攻撃を捌いて受け流す。神速の一撃に軽く槍を当てて逸らし、最小限の動きで躱す。

 全て紙一重。まさに神業だ。


「こ、この技は!?」


 目を見開いたフウロは背後に飛んで襲撃者から距離を取る。攻撃している最中は気付かなかったが、この技を見せられたら嫌でも理解した。

 彼女と構えや攻撃や防御が似ている理由。そして、全てを受け流すあの技術。

 それが出来るのはフウロが知る限り一人しかいない。


「強くなったようですが、まだまだですね。気づくのが遅すぎです」


 襲撃者が初めて口を開き、フードを取った。

 濃ゆいピンク色の髪。鋭い目つき。フウロが年を取ったら襲撃者の女性のようになるだろう。


「母上っ!?」

「久しぶりです、フウロ。元気にしていたようで何よりです」


 襲撃者の名前はツツジ・ゼラニウム。ヴァルヴォッセ帝国の将軍の一人。フウロ・ゼラニウムの実の母親だった。

 目を丸くしたフウロが警戒を解き、ふと連れのラティフォリアに視線を向けた。彼女は更に目を見開く。

 ラティフォリアは無言でホールドアップをして、自分の首に重厚で鋭利なナイフを突きつけているもう一人の襲撃者に降参の意を示していた。


「ラティ!? いつの間に!?」

「強くなったようだが、まだまだ精進が必要だな。フウロ・ゼラニウム、ラティフォリア・フレックルス、もっと周囲の気配を読め」


 気配もなくラティフォリアを人質にしていたもう一人の襲撃者、ブーゲンビリア・ヴァルヴォッセがゆっくりとナイフを下ろした。ラティフォリアは解放されてほっと息を吐いた。

 元帥の言葉に将軍がゆっくりと頷く。娘を一瞥して情けないといった表情でため息をついた。


「ええ、閣下のおっしゃる通りです」

「も、申し訳ございません」

「精進いたします」


 フウロとラティは素直に頭を下げて謝罪した。

 襲われるまで全然気づかなかった。いや、襲われてもブーゲンビリアに気づくことが出来なかった。彼女たちが本当の襲撃者だった場合は、なす術もなく殺されていただろう。

 もしその場に主であるアルスがいたら、逃がすことさえできずに死ぬ。

 もっと強くならなければと二人は固く決心した。

 ブーゲンビリアは厳しい顔をフッと和らげ、優しい笑顔で二人に話しかけた。


「ずっと探していたが、まさかドラゴニア王国の王都にいるとはな」

「いろいろとありまして」

「あの子は元気か?」

「ええ、まぁ……」

「最近は更に元気で、私たちも振り回されています」

「くっくっく! そうかそうか。(ワタシ)の愛しい人は相変わらず元気か! それで……」


 スゥーッとブーゲンビリアの瞳が死神の鎌のように鋭くなった。周囲の空気が変質する。一気に気温が下がったかのよう。


「あの子は今どこにいる? 何故一緒に居ない?」


 帝国最強の位置している元帥の殺気は、例え無意識に漏れだしたものだとしても濃密だ。

 歯が噛み合わずカチカチと音を鳴らし、身体はガタガタと震えながら、フウロとラティフォリアは何とか言葉を絞り出す。


「ア、アルス様は現在お知り合いと祭りを散策されております」

「……男か?」


 これ以上は隠し事は出来ない。二人は顔を青くしながら頷いた。

 それを見たブーゲンビリアの身体から膨大な魔力が噴き出した。燃えるような灼熱の力。周囲の壁や地面に罅が入る。


「くくく……あーっはっはっは! そうか。男か。愛するアルスをこの(ワタシ)から奪うか! 良い度胸だ。これは殺してやらなければな!」


 殺意の籠った哄笑が空間を揺るがす。

 紅く燃える紅玉(ルビー)の瞳は、どこの誰だか知れない男に明確に狙いを定めるのだった。


















「うおっ!? ゾクッとしたぁ」

「どうしたの? 風邪でも引いた? 裸だから寒い? 一緒にお風呂入る?」

「そうしようかなぁ」

「じゃあ、運んで! 運んでくれたらお風呂でたっぷりとお礼をしてあげる」

「喜んで、お姫様」


お読みいただきありがとうございました。

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