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第205話 第一王子

 

 ジャスミンとリリアーネが実家に帰ってしまった後、俺も実家に戻っていた。実家と言うのはもちろん王城。人が忙しそうに働いている。

 二、三日すれば各国からの要人がやってくる。その為、今は最後の準備で大忙しだ。多分、備品などのチェックを五回くらい行っているだろう。不備があったら王国の責任になるから。

 俺を気にする余裕もないらしく、城で働いている人たちが走り回っている。

 のんびりと王族のプライベートエリアを歩いていると、前から妖精めいた凛々しい顔立ちの長身の男性が堂々と歩いてきた。斜め後ろには女性が付き従っている。

 彼を見て思わず変な声が出る。


「うげっ兄上!?」

「うげっ、とは素晴らしい挨拶じゃないか、シラン!」


 彼は逃げ出そうとする俺をあっさりと捕まえ、俺の首を脇に抱えて頭のてっぺんを拳骨でグリグリしてくる。猛烈な痛みが脳天に感じるぅ~。


「ぎゃー! 痛い痛い痛い痛い! 兄上超痛い!」

「シラ~ン? 挨拶は~?」

「お、お久しぶりです、痛い、エルネスト兄上、痛い!」


 まあいいだろう、とグリグリは止めてくれたけど、首は離してくれない。何故だ!?

 兄上のイケメン顔をチラッと見上げる。うわぁー超楽しそう。


「兄上はいつ着いたんですか?」


 第二王妃エリン母上の第一子であり第一王子のエルネスト兄上は、王太子として今は王族直轄の街の一つを統治している。経験を積むためだ。街くらい治められないと国王としてやっていけない。

 昨日はまだ着いていなかったはず。報告されていない。


「ついさっきだ。これから父上に挨拶に行くところだ」

「そうですか。リナリア義姉上(あねうえ)は元気ですか?」


 リナリア義姉上はエルネスト兄上の妻だ。


「リナは元気だぞ。母上たちに捕まってる」

「あぁ~。女子会が始まりましたか。近寄らないでおこうっと」


 女子会に近づいてしまうと玩具(おもちゃ)にされてしまう。過去の黒歴史の暴露大会が始まって恥ずかしくて死にそうになる。もう何度聞いたことか。母上たちは全く飽きないらしい。

 その兄上の苦笑いから察するに、いくつか暴露されてしまい、恥ずかしくて逃げ出してきたな?


「兄上は父上に挨拶に行くんでしたよね? 行ってらっしゃ~い」


 だから、この首に回されている腕を離してくれませんかね? 早く逃げたいんだけど。


「その前にシラン」


 あぁーなんか嫌な予感がする。


「婚約おめでとう。遂にジャスミン嬢と結ばれたか。良かった良かった」


 おっ? お説教されると思っていたのに予想外だ。

 エルネスト兄上はしみじみと嬉しそうに頷いている。小さな頃から一緒だったジャスミンは、兄上からすると妹のようなものだろう。結構可愛がっていた。


「ありがとうございます」

「しかし、《神龍の紫水晶(アメジスト)》だけじゃなく《神龍の蒼玉(サファイア)》までとはな。よく手を出そうと思ったな。ヴェリタス公の溺愛っぷりは有名だったのに」

「斬りかかられましたね」


 実際は貫かれたけど。あの時は痛かったぁ。遠い昔のようだけど、まだ数カ月前のことだ。

 でも、一つ訂正がある。俺は手を出そうと思っていない。


「全て父上のせいですよ。いつの間にかウチの屋敷に住み始めていましたから。まあ、今では感謝していますよ」

「身を固めて夜遊びを辞めて欲しいって言う父上の願いだろ。聞いた話によると、まだ多くの女性と遊んでいるそうじゃないか」


 一瞬で不味い状況になってしまった。兄上は俺が暗部に属していることを知らない。だから、ただ遊んでいると思っている。

 兄上の性格は真面目だ。次期国王としても相応しいだろう。でも、弟の俺からすると、ただのお説教好きの兄だ。

 首に回されていた腕が緩んだ。逃げようと思えば逃げられるが、俺は大人しくその場に正座した。そして、廊下であるにもかかわらず兄上のお説教が始まった。


「シラン、お前は王子なんだぞ。遊び歩いてどうする。もっと王族らしくしっかりしろ! お前は昔から…………」


 兄上のありがたいお説教を、はいすいません、ごめんなさい、と相槌を打ちながら、ひたすら項垂れて聞き続ける。これだからエルネスト兄上には会いたくなかった。何度お説教されたことか。

 10分くらいお説教を受けていると、兄上の背後でコホンと咳払いの音が聞こえた。兄上はお説教を中断して振り返る。


「どうした、マリア?」

「エルネスト様。そろそろお時間です。国王陛下の下へ向かわれたほうが宜しいかと」


 マリアさん。貴女は女神ですか!?

 マリア・ゴールド。彼女はエルネスト兄上の秘書だ。平民出身の彼女は超有能で、兄上の補佐を任されている。

 俺が手に入れた情報だと、二人は結構いい雰囲気らしい。義姉上になるのも時間の問題だ。王族のプライベートエリアに立ち入りを許可されているくらいだからな。

 兄上は時計で時間を確認し、はぁ、とため息をついた。正座する俺を見下ろす。


「これから気を付けるように!」

「はい、兄上!」


 ふぅー。終わった終わった。城に来て最初にお説教されるとは思っていなかった。まあ、ジャスミンやランタナのお説教よりマシかな。


「じゃあ、また後で」


 俺の肩をポンポンと叩いて歩き去る兄上。マリアさんも俺に一礼して兄上についていく。

 ふと、兄上は足を止めて振り返った。


「そうだ、シラン。お爺様とお婆様たちもいらっしゃってるぞ。ご挨拶しておけ」

「お爺様たちが!?」

「朝早くにいらっしゃったそうだ」

「なら、今から向かいますね」


 俺は兄上とマリアさんを見送った。

 久しぶりだなぁ。元気にしてるかな…………あのお爺様なら元気にしてるか。

 少し呆れた笑みを浮かべながら、俺はお爺様たちの下へ向かった。


お読みいただきありがとうございました。

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