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第17話 子供 (改稿済み)

 

 転移した先は、ありふれた廊下だ。俺の屋敷の地下の廊下。

 この廊下の先の部屋に目的の人物が引きこもっている。

 転移に驚いたリリアーネ嬢が俺に抱きついたままキョロキョロと辺りを見渡している。


「あの……ここは?」

「王都にある俺の家。正確には、王家が所有する屋敷なんだけど、俺が使わせてもらってる。使い魔の中に医術とか治癒魔法とかに詳しいやつがいるから、そいつに体調を見てもらおうか」


 俺はリリアーネ嬢を伴い、廊下の奥の部屋へと向かう。

 コンコンっとノックして見るが、案の定反応はない。

 だから、勝手にドアを開けて中に入る。


「おーい! ビュティいるー? 居たら返事ー! 居なくても返事してー!」


 居なかったら返事ができないのではないでしょうか、というリリアーネ嬢の呟きが聞こえた。

 部屋の中はカラフルな試験官が並んだり、ポワポワと煙が充満したり、火にかけてある鍋があったりする。

 錬金術師の研究室のようだ。

 あちこちに物が散乱してごちゃごちゃした部屋だ。

 誰も人影が見えない中、どこからか怠そうな声が聞こえた。


「……何の用?」


 眠そうに目を擦りながら起き上がった白衣を着た少女。

 紫色の髪を持つ、十歳前半に見える顔立ちと体つき。

 体中から眠気と怠さが放たれ、ポワポワと不思議ちゃんの雰囲気を醸し出している。

 彼女の名前はビュティ。スライムであり、薬学や医学に精通している使い魔だ。

 解毒薬や毒薬、女性のための美容液など様々な薬を作るのが趣味なのだ。

 眠くなったから適当に床で寝ていたらしい。寝癖がついている。


「彼女はビュティ。俺の使い魔だ。ビュティ、彼女はリリアーネ・ヴェリタス嬢。さっき攫われたんだが毒を盛られたみたいでちょっと様子を見てくれ。霊薬で解毒はしたんだが」


 俺は二人にお互いを紹介する。

 リリアーネ嬢は会釈をし、ビュティがコテンと首をかしげた。


「……シランの女?」

「違う! リリアーネ嬢の誘拐計画があって、それを潰すところだったの!」

「……じゃあ、シランの女にする?」

「しねーよ! はぁ……いいから見てあげてくれ」

「……りょーかい。こっちきて」


 おずおずとリリアーネ嬢は近寄って、差し出された椅子に座る。

 ビュティはじっとリリアーネ嬢を見ると、手を取って、ペロリと舌でひと舐めした。


「ひゃっ!?」

「あ~、大丈夫だぞ、リリアーネ嬢。ビュティはそうやって診断するんだ」

「は、はぁ……」


 リリアーネ嬢は不安そうにしながらも大人しくしている。

 ビュティは何も気にせずリリアーネ嬢の手をペロペロと舐めている。

 今度はクンクンと首筋の匂いを嗅ぎ、肩の辺りをペロリ。


「……んっ。わかった。使われたのは麻痺毒と媚薬と麻薬の混合毒」

「はぁっ!? 麻薬!?」


 麻薬は世界中の国で禁止されている薬物だ。

 効果がとても薄くされたものが、医療用の痛み止めとして使われるくらい。

 それは厳重に管理が施されて、悪用すれば終身刑や死刑が待っている。


「……んっ。それも麻薬が強すぎたから中毒症状が起きた」

「それで呼吸困難と痙攣か」

「……幸い後遺症もない。霊薬の効果」


 よかった。麻薬の依存性も消えているらしい。

 あの豚はどこから手に入れたんだろう? また調べることが増えたな。

 ファナに連絡しておこう。


『ファナ! 聞こえるか?』


 今頃ルーザー男爵家の捕縛を取りまとめているファナが即座に返答した。


『あら、どうしたのかしら、あなた? こっちは順調よ。全て捕らえて、今は家探しと尋問中』

『そうか。もう伝わってるだろうけど、リリアーネ嬢が毒を盛られた。解毒はして後遺症もない。だけど、ビュティによると、麻薬が含まれていたらしい』

『麻薬ねぇ……。流石にウチでも扱ってないわよ。医療用ならあるけど』

『そりゃ知ってるさ』

『どこから手に入れたか、ということね』

『そういう事』


 ファナのため息が聞こえてくる。


『わかったわ。全て吐かせるわ。廃人になってもいいのよね?』

『罪が重いやつだけな。どうせ死罪だろうし。地下室に囚われていた女性たちはどうなった?』

『精神の疲労が大きいから寝かせてるわ。衰弱も激しいし、二、三日は様子見ね』

『わかった。頼む』

『ええ。任されたわ』


 ファナとの念話を止める。

 後はファナが指揮して、暗部の者たちが情報を聞き出すだろう。

 ファナとの連絡をしているうちに、リリアーネ嬢の診断が終わった。


「……んっ! 何も問題なし!」

「そっか。よかった……」


 俺は安堵する。霊薬でも効かない毒があるのかと思った。

 まあ、その場合は緋彩に頼んで何とかしてもらう予定だったけど。

 でも、リリアーネ嬢はまだ不安そうでお腹を撫でている。

 不安と嬉しさを滲ませながらビュティに問いかけた。


「あの……お腹の赤ちゃんも大丈夫でしたか?」


 リリアーネ嬢の衝撃の発言で、俺の時が止まった。


「……はっ? リリアーネ嬢は妊娠してたのかっ!?」


 リリアーネ嬢は恥ずかしそうに顔を伏せ、小さく頷いた。

 う、嘘っ!? 全然知らなかったんだけど!


「あ、相手は!?」


 驚きと興味で思わず聞いてしまった。

 顔を真っ赤にしたリリアーネ嬢はスゥっと誰かを指さした。


「………………へっ? 俺を指さしてどうしたんだ?」

「あ、あの、シラン様との子供です」

「ふぁっ?」


 俺との子供? 嘘っ? 俺、お父さんになっちゃう? パパになっちゃう?

 と、戸惑いと嬉しさが……。


「……流石女誑しのシラン。手が早い」


 ビュティが深々と頷いて納得している。

 えっ? もしかして本当に? ど、どうしよう?

 こ、こういう時は深呼吸だ! ヒッヒッフー! ヒッヒッフー!

 少し冷静になった。


「んっ? ちょっと待てよ。俺、リリアーネ嬢とそういうことした覚えはないんだけど、なぜ子供が? ホワ~イ?」

「あ、あのっ! シ、シラン様とキ、キスを……!」


 リリアーネ嬢が顔を真っ赤にしながら唇を色っぽく撫でている。

 とてもグッとくる仕草だけど、今は驚きで欲情する暇がない。


「あれはリリアーネ嬢に霊薬飲ませるために緊急事態で……」


 そう言いかけて、俺はハッとあることに気づく。

 ストリクト・ヴェリタス公爵に超絶可愛いがって育てられている箱入り娘のリリアーネ嬢にちゃんとした性知識があるのか、ということだ。

 夜遊びという言葉も知らなかったほど、リリアーネ嬢の性知識は子供だ。

 貴族の娘なら小さい頃から教わるはずなのに……。

 ストリクト・ヴェリタス公爵が教えていない可能性もある。大いにあり得る。


「もしかして、キスで子供ができると思っていますか?」


 思わず敬語になってしまう俺。

 リリアーネ嬢はキョトンと蒼玉(サファイア)に似た綺麗な青色の瞳を瞬かせた。


「えっ? 違うのですか?」


 やっぱり! やっぱりそうでしたよ!

 ストリクト・ヴェリタス公爵! ちゃんと教えてあげてくださいよ!


「リリアーネ嬢。キスで子供はできません」

「えっ? えぇ~~~~~~~~っ!」

「親愛を表すために頬にキスすることがあるだろ? これは家族でするところもある。でも、唇の場合は、恋人とか夫婦とかがする場合だけだ。特にリリアーネ嬢は貴族の家柄だ。貴族は貞操観念がとても厳しい。だから、むやみやたらにキスしないようにお父上であるストリクト公爵はそう教えたのだろう」

「……そうなのですね」

「で、俺がやったのキスは例外中の例外だ。所謂治療行為だ。キスとはまた別ものだ」

「キスは治療行為でもするのですね。ちょっと残念です……」


 ガッカリと落ち込んだリリアーネ嬢。本当に残念そうにお腹を撫でている。

 何故落ち込むのだろうか? 意味が分からない。というか、残念?

 落ち込んだリリアーネ嬢は持ち前の天然さというか、純真さを発揮する。


「じゃあ、子供はどうやったら作れるのですか?」


 くっ! 俺に性教育をしろと言うのか! この美女に!?


「……シランはそういう事得意。ぜひ実践して教えてもらうといい。私もよく子作りを迫られる」

「ビュティさん!? 俺は迫っていませんよ! 迫ってくるのはビュティも含めた皆じゃないか!」


 ポワポワしたビュティがそっぽを向きながら、少し楽しげに爆弾に火をつける。

 リリアーネ嬢のキラキラした純真天然爆弾が爆発した。


「シラン様! お願いします! 私に子供の作り方を教えてください!」


 リリアーネ嬢のような美女に迫られたら、男なら誰でも教えたくなるけど、俺は必死に我慢する。

 本当にこの少女は大丈夫なのだろうか? 貴族としてやっていけるのだろうか? 心配だ。

 俺はキラキラした瞳のリリアーネ嬢から目を逸らしながら何とか答える。


「そ、それは、お父上のストリクト公爵とよく相談してから決めてください。子作りするということは、結婚を意味するので」

「そ、それもそうですね……。お父様と話し合ってみます」


 真っ赤な顔をしてもじもじと恥ずかしがるリリアーネ嬢。

 あぁ~、俺、ストリクト公爵に殺されそう。死なないけど。

 これを知ったら父上と宰相が大笑いしそうだなぁ。

 そして、ジャスミンから殺されそう。死なないけど。

 はぁ……絶対に知られないようにしよう。




 これってフラグ立った?



お読みいただきありがとうございました。

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