第144話 発覚
表現はギリギリセーフのはず!
イルによって強制的に眠らされ、夢の中にイルが侵入してきたので、ちょっとお仕置きをし、今ちょうど目が覚めた。時間は陽が昇り始めた早朝。空が白み始めている。
ベッドが温かい。心地良い温かさだ。一緒のベッドに寝ていたヒースに腕を掴まれている。
うわぁー。バレたら大変なことになりそう。一国の姫と同衾したなんて…。これは確実にヤバい。幸い、誰も知らないはず。今のうちにこそっと出て行こう。
ヒースの腕を丁寧に引き剥がす。すると、隣に寝ていたエリカに抱きついて、二人仲良く気持ちよさそうな寝顔を浮かべた。ムニャムニャと可愛らしく口を動かす。
その寝顔をバッチリと記憶して、ベッドを抜け出して、与えられた部屋に直接転移して戻った。
窓が開け放たれた寝室。ヒースが身投げしたままの寝室だ。窓を閉め、ベッドに座る。
ふむ。寝てもいいけど、ヒースのためにプレゼントでも考えようか。
「イル。ちょっと手伝って欲しいんだけど」
『なんだ? 主様よ。夢の中であれだけ欲を発散させたのに、まだ足りぬのか?』
「違う!」
ニヤニヤ笑顔のイルがスゥーっと顕現した。幼女や少女や大人の女性にコロコロ姿を変えながら、楽しそうにプカプカと宙に浮かんでいる。
「イルが居なくてもヒースの力を抑えられるような魔道具を作ろうかなって。制御できないままだと生活できないだろ?」
『ふむ、確かに。いいだろう。吾は何をすればいい?』
「夢魔の力を封印する付与を頼む。簡単に身につけられるものがいいな。アクセサリー。ブレスレットにしておくか。ヒースの瞳と同じ小さな蛋白石を四つ使って、四段階で抑えられるようにしよう」
『本人が石に触れたら25%ずつ封印するってことで良いか?』
「それで頼む」
俺は錬金術を応用して、金属を変形させる。ブレスレットの形にして、小さな蛋白石を四つ装飾した。それにイルが封印の付与を行う。
このブレスレットはヒースが力を制御できるようになれば必要なくなるものだ。でも、普通に装飾品としても使用できるようなデザインにした。気に入ってくれるといいけど。
「よしっ! 完成っと!」
『くくく! ヒースも喜ぶだろうな。おっと。吾は消えたほうが良さそうだな。ヒースの夢の中にでも遊びに行くか』
俺の唇にキスをしたイルは、スゥーッと溶けるように消えていった。宣言通り、ヒースの夢の中に行ったのだろう。
イルが消えて十数秒後、コンコンと部屋がノックされた。クールで美しい声が聞こえてくる。
「旦那様? 起きていらっしゃいますか?」
「エリカか。どうしたー?」
俺はドアを開けてエリカを部屋の中に招き入れた。エリカが来ることを察知したから、イルは消えたのだろう。
エリカは先ほどまで気持ちよさそうに寝ていたのに、もうシャキッと目覚めている。
「ヒースは?」
「姫様はまだ眠っていらっしゃいます。旦那様が居なくなられた後、すぐにティターニア様がいらっしゃいまして、今は姫様に付き添っておられます」
危ない危ない。危うく皇王妃殿下と鉢合わせするところだった。目覚めるのが少し遅かったら、寝てるところも目撃されていただろう。
エリカは俺が居なくなったのをわかっていたのか。じゃあ、エリカは起きてた? ということは、俺が一緒のベッドに寝ていたことも知っていた!? 不味い不味い不味い不味い!
こ、こういう時は口封じ…じゃなくて口裏合わせを…。
「ふふふ。そんなに不安がらなくても、斬り落とすなどという発言はもうしませんよ」
「そ、そっかぁ…。よかったぁ…」
美しくクスクスと笑ったエリカ。ハッとするほど美しい。クールな表情が崩れると、ギャップがあってグッとくる。
俺はベッドに座ると、エリカも隣に座った。ピトッと身体を密着させる。座る距離が近いな。
朝日が昇って青緑色になった美しい金緑石の瞳で、じっと見つめてくる。
「旦那様…遅くなりましたが、姫様を救っていただいたこと、命を助けていただいたこと、私の命も救い、声を取り戻してくださったことに感謝申し上げます。ありがとうございました。この御恩は私の生涯をかけてお返しいたします」
「いやいや! 俺が勝手にしたことだから、気にしなくていい! エリカとヒースの笑顔だけで十分だから!」
「そういうわけにはいきません!」
声を荒げたエリカに、俺は押し倒された。起き上がろうとしたが、その前にエリカに馬乗りにされる。エリカは妖艶な笑みを浮かべながら、白みがかった黄色のボブカットの髪を耳にかける。その仕草も美しい。
「エリカさん?」
「何でしょうか、旦那様?」
「何をしているのでしょうか? それに、今更だけど、旦那様って…? 俺の従者にするとか言ったけど、あれは時間稼ぎというか、あの時エリカを引き渡すわけにはいかなかったから、咄嗟に言っただけなんだけど…」
「ですが、私は姫様への忠誠心以外は全て旦那様に差し上げました。命も、この身体も、そして心も。旦那様に私の愛を差し上げます」
俺は予想外の出来事で頭がパニックになる。
エリカの愛を俺にくれるって? いやいや! 惚れる要素なんてあったか? いやでも、エリカの瞳が赤紫色に変色しているし…。
というか、エリカは俺のことを嫌っていなかったっけ?
「あの~エリカさん? 以前、俺のことは生理的に無理とか言っていませんでしたか?」
「厩舎の時ですね。あの日は丁度生理だったので、このような行為は無理だと述べたまでですが」
エリカはゆっくりと服を脱ぎながら言った。純白のブラと、大きくもなく小さくもない胸の膨らみと、美しい素肌が露わになる。
生理的に無理って、文字通りの意味かよ!
「じゃ、じゃあ、植物園に行く前も俺を拒絶してたよね?」
「普通のメイドであった私と旦那様とは身分が違いすぎるので、パートナーは無理だとお断りしたのですが」
「そういう意味だったのっ!?」
エリカは器用にメイド服のスカートを脱ぎ捨てた。下着姿にガーターベルト。目のやり場に困るのだが、彼女の身体から目が離れない。磁石のように吸い寄せられる。
理性が削れる。エリカのことは気に入っている。襲い掛かりたい衝動に駆られる。
「旦那様…私のようなバツイチの女ではダメですか…?」
一向に手を出さない俺に不安がって、エリカが震えながら恐る恐る言った。
エリカはバツイチとはいえ、貴族の娘だ。皇女ヒースの専属メイドでもある。俺と関係を持ったら、嫁ぐことにもなるだろう。
今ならまだ戻れる。
でも、今のその言い方は卑怯だと思う。そういう風に言われたら断れないだろうが。
「はぁ…言っておくが、俺は独占欲が強いからな」
「きゃっ!?」
俺はエリカを抱きかかえるようにして、逆にベッドに押し倒した。
もう全て諦めて、全て受け入れる。
貴族の娘だろうが関係ない。好きになった女性とたっぷりと愛し合うだけだ。
エリカは赤紫色の瞳を熱っぽく潤ませた。
「大丈夫ですよ。私はメイドですから従属欲が強いです」
俺とエリカは、唇が一つになった。
………
……
…
…
……
………
目の前にエリカが横たわっている。
肌が火照り、赤紫色の瞳の瞳から潤んで、一筋の透明な涙が零れ落ちた。息は絶え絶え。時々ビクビクと身体を痙攣させている。
トロットロに蕩けた顔のエリカ。少し肌を触っただけで盛大に反応する。
「私、こ、こんなの知りません…」
「いやでも、これからが本番なんだけど…」
「今までは乱暴に胸を握りつぶされたり、痛かっただけなんです…!」
「そうか…。頑張ったな」
優しく頭を撫で、キスを施す。赤紫色の瞳と見つめ合い、無言で意思疎通を行う。
これからエリカと一つになる。
ゆっくりと俺を受け入れ始めたエリカ。しかし、突然顔を苦しめて歪める。
「い、痛いっ! 痛いです!」
「えっ?」
俺は何もおかしいことはしていない。なのにエリカは痛がって苦しんでる。
慌てて確認すると、股から真っ赤な鮮血が垂れ、シーツにシミをつくっていた。
えっ? 血? なんで? どこか怪我した!?
エリカも自分の血を確認する。
「血が…。旦那様! どこかお怪我を!?」
「いや、俺じゃなくてエリカだ…。でも、なんでだ? エリカは純潔じゃないんだろ?」
「はい…忌々しいことですが、あの男と…。もしかして、旦那様の薬で」
「いや、純潔は治らなかったはずだ」
純潔の証はどんな薬でも魔法でも治ることはない。これはビュティから聞いたことだ。ビュティみたいに不定形な魔物以外は、人間の女性であろうと人化した魔物であろうと、一度純潔を散らすと治ることはない。心臓や脳を破壊されても再生する吸血鬼の真祖のファナでさえも、純潔の証は治らないのだ。
だから女性の純潔、処女性というのは重要視されたり、神聖視されたりもする。
なのに何故かエリカは純潔の証である血が出ている。
俺は一つの答えを思いついた。可能性は低いが、もしかしたらこれかもしれない。
「エリカ。一つ聞くんだけど、オダマキのアレって見たことある?」
「まあ、一応は」
「大きさはどうだった?」
「確か…私の小指…」
エリカの小指なら十分の長さだな…と思っていたら、エリカは更に言葉を続ける。
「の第一関節くらいでしょうか?」
「小っさ! それって一センチくらいじゃね!? 子供かっ!」
そのくらいの大きさなら、純潔の証を破れないわぁー。というか、妊娠のためには最低三センチと聞いたことがあるんだけど、その大きさじゃ子供なんて無理だわ。エリカが妊娠しなかった理由はそのせいだろう。
キョトンと不思議そうに顔をかしげたエリカに説明する。
「何というか、そういう行為を何度もしたと思うんだけど、エリカの身体は医学的には純潔でした。オダマキのは小さすぎて、純潔の証を破ってなかったみたい」
「そういうことですか…。ホッとしました」
エリカは俺の首に両手を回し、キスをしながら甘い声で囁いた。
「ではその…優しくしてくださいね、旦那様」
その言葉で、俺の理性は完全にぶっ壊れた。
熱い朝が明けていく。
お読みいただきありがとうございました。
感想ありがとうございました。
一応言っておきますが、エリカは純潔ではないと作者は思っています。
道具や激しい運動で破れても未経験 → 純潔
ならば
破れてなくても経験済み → 純潔ではない
となるのではないでしょうか?
どのように捉えるかは読者様にお任せします。
エリカと結ばれる & オダマキのサイズが小指の第一関節 ということを表現するにはこのシーンしか思いつきませんでした。
自己満足小説なので、警告を受けない限りはこのままでいきます。
これからもよろしくお願いします。




